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放蕩貴族を愛したら

放蕩貴族を愛したら

著: ジョアンナ・メイトランド 翻訳: 飯原裕美
発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル
価格:735円(税込)
10ポイント還元
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 ジョアンナ・メイトランド(Joanna Maitland)
 生まれも育ちもスコットランドだが、成人してからはイングランド及び海外で暮らすことが多い。システムアナリスト、会計係、公務員などの職業を経験、慈善事業にも携わっていた。結婚して子どもが生まれてから物語を書くようになったが、それがやがて歴史小説を手がけるきっかけになったという。現在はハンプシャー州に夫と二人の子どもとともに住む。

解説

 ウィーンを舞台に活躍する美貌のオペラ歌手ソフィーは十三歳で父の借金のかたに売られて以来、歌を支えに生きてきた。彼女にご執心のロシア皇帝らの誘惑も、どうにかかわしている。スパイ活動のためウィーンにやってきたレオ卿も彼女のすばらしい歌声と魅力の虜になった一人だった。放蕩者で鳴らすハンサムな彼にソフィーはたちまち心惹かれたものの、愛人契約を持ちかけられると、弄ばれるのが怖くてはねつけた。諦めきれないレオは、彼女を仲間のスパイにできないものかと考える。そんな折、ソフィーはロシア皇帝に歌を披露するため部屋に呼ばれ、もはや誘惑に屈するほかない状況に陥ってしまい……。
 ■本作は「仮面舞踏会は公爵と」の関連作品で、ヒーローは前作ヒーロー、コールダー公爵の弟。同じくスパイで放蕩者のレオ卿と麗しき歌姫との波瀾に満ちたスリリングな恋の行方は……?

抄録

「マダム・ピエトレ、図々しいのをお許しいただきたいが、おひとりで帰ってはいけません。また卒倒されたらどうします? おじ上もメイドも一緒にいないのなら、わたしにその役目をお申しつけください」レオはソフィーの目にほほえみかけた。そのまなざしには気遣いと親切があふれていた。
 ここで断るのは無作法の極みだわ。ソフィーはいつも、心のなかでは貴族の娘のままのつもりでいた。礼儀を重んじるのはレディの最低条件だ。助けに来てくれた紳士に失礼な振る舞いをするなんて許されないことだった。「ご親切にどうも」
 レオは馬車に乗りこむ彼女に手を貸して膝掛けをかけてやると、自分もひらりと乗りこんで向かいの席に座った。ほかの男性なら、馬車が揺れるたびに体が触れあうのを期待して隣に座っただろう。
 レオが御者に合図すると、馬車はとてもゆっくり走りだした。
 ソフィーは驚いたように彼を見つめた。
「勝手ながら、ゆっくり走れと命じました。速度を出すとご気分が悪くなるのではないかと思ったので。いけなかったでしょうか?」
 ソフィーは小さく首を横に振った。レオ卿はわたしのためだけを思ってくださる。ゆっくり走ったせいで長い時間一緒に過ごすのはそれほど苦痛じゃないわ。彼ほど感じのいい紳士はめったにいない……愛人になれと言われたのは事実だけど。互いの立場が明らかになった今、彼が変な行動に出ることはないだろう。わたしに二度と触れなければ、という条件つきだけれど。
 当たり障りのない話題はないかしら。ソフィーは席でそわそわ膝掛けをいじったが、心のなかではある言葉が呪文のように繰り返されていた。“レオ、わたしに触れて。もう一度触れてちょうだい”心ばかりでなく、体も彼女を裏切っていた。
「とても見事な馬車ですね。紫と金色がとても優雅だ。実は最初見かけたときはてっきり――」レオはふいに口をつぐんだが、何気ない調子で続けた。「紳士の持ち物かと思いましたが、この色合いはレディにこそふさわしい」
 なるほど。レオ卿は、衣服の色と合わせたベック男爵のものだと思ったのね。そう思うとソフィーは笑いたくなった。恐怖心を抑えるには、男爵を笑い物にするのがいちばんいい。
 彼女はレオ卿の顔を見つめたが、何も言わずにいた。わたしに恥ずかしい思いをさせてはいけないと、男爵の名前を出さないでくれたのを尊重すべきだ。でも、こうして熱く見つめるまなざしで、レオ卿の思いやりに感謝していることはわかってくれるのでは?
 たしかに、レオはソフィーの表情から何かを読みとったようだ。彼はためらいがちにほほえみ、ウィーンの名所やさまざまな催しについて語りはじめた。
 ソフィーはできるだけ返事をしたが、レオとは違い、ウィーン滞在はまだ一週間にも満たない。普通のオペラ歌手は、外国の王侯貴族やその取り巻き、浮かれ気分の観光客が行くような催しには招待されない。一般民衆が参加できる催しになら行けるが、それも自分で切符を買わなければならない。要するに、ソフィー・ピエトレは上流社会の一員とは見なされていなかったのだ。
 長年のことで慣れているとはいえ、そう思い知らされるのはやはりつらかった。
 馬車は、ソフィーが思うよりずっと早くアパルトメントの前に着いた。レオ卿との会話が心地よく、時間の感覚を忘れるほどだった。激しく彼に反応する自分の体に困惑したのがおさまると、実に楽しいひとときだった。
 あのとき、レオ卿がいまわしい提案をなさらなければ、そして、わたしがあれほど無礼な拒絶をしなければよかったのに! ソフィーは後悔した。
「レオ卿、ご親切にあらためて感謝いたします。もちろん、この馬車で先ほどの会場まで、あるいはどこでもお好きなところへ送らせます」
「こうしてご一緒できただけで十分です。自分が何を失ったのかよくわかりました。もっとも、先ほどの無作法な申し出からして、それは当然の報いですが。どうか、あの件は忘れてください」
 ソフィーは顔を赤くした。「お望みどおりにいたします。わたしの返事も、どうか忘れて」
 レオは何も言わなかった。だが、ぱっと輝いた表情が喜んでそうすると語っていた。こうして、ふたりは和解した。
 ソフィーは彼が馬車から降りて手を貸してくれるものと思い、じっと待った。
 だが、レオは手袋をしたままの手を取って唇を押し当てた。彼女の瞳を見つめるまなざしはさらに激しく燃えるようだった。
 今すぐ手を引き抜かなくては。ソフィーは思ったが、全身が凍ったように動かない。こうして触れあうのは挨拶を交わすときには当然のことだとはいえ、とても特別なことに思えた。
 ようやくレオは彼女の手を膝の上に戻した。無言のまま馬車から飛び降りると、手を貸そうと振り向いた。ソフィーを気遣う様子に変わりはないが、礼儀は名ばかりのものとなっていた。手袋越しのキスの瞬間、見つめあったふたりのあいだで何かが通じあった。この思いは間違えようがない。
 レオはソフィーを求めていた。そして……ソフィーもまた、レオを求めていた。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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