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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・クラシックス

偽りのレクイエム

偽りのレクイエム


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・クラシックス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ロビン・ドナルド(Robyn Donald)
 ニュージーランド北部の牧場主の家に、一男五女の長女として生まれた。十五歳で師範学校に学び、十九歳で結婚、同時に小学校の教師となる。子育てを終えて一時休んでいた教職に戻り、かたわら執筆を始めた。蘭の花が咲き、キウイやオレンジの実る美しい北部の村に住む。

解説

 「きみはその曲をリック・デイカーのために書いたのか?」通りで自作のバラードを謳っていたタンジーは、その言葉に凍りついた。とうとう現れたわね、レオ・デイカー。リックの母親違いの兄。家出した十七歳のリックは、二カ月タンジーのフラットに居候したあと自分を見つけたいと出ていった。誰にも居場所は教えないでと言い残して。「弟のことで話がしたい。母親が……癌で、会いたがっているんだ」頬を打たれたようなショックだった。でもリックのことは言えない! お役には立てませんとその場は切り抜けたものの、タンジーは彼の端整な外見の下に潜む危険な野性を感じて不安だった。レオはどんな手を使っても弟の居場所を聞き出そうとするに違いない。そして彼女の恐れは、やがて現実となるのだった。

抄録

「踊るかい?」
 レオに抱かれたときの記憶はまだ薄れていない。あんな危険をふたたびおかすなんて無謀だ。だが幸い、フロアには体を離して激しく踊る曲が流れていた。「いいわ」
 レオはしつけられた獣を思わせるような優雅な身のこなしだった。タンジーは初めてのびのびとふるまった。いつもなら、スカートの布地が流れるように脚にまつわる快さを感じるのが好きだった。でも、今夜はパンツでよかったと思う。これ以上の刺激はたくさんだから。
 音楽が感覚に訴えるようなゆっくりした曲に変わると、レオはタンジーを抱き寄せた。だが、強すぎはしない。彼女は前のダンスのためにまだ息がはずんでいて、呼吸で胸がふくらむたびにレオの体と触れた。不思議な感覚に襲われて胸の先が固くなる。薄地のドレスではなくディナー・ジャケットを着ていたのにほっとする。細かい震えが体中に網の目のように広がり、その先々に嵐をもたらした。
 そんな経験は初めてだったが、それがなんなのかはもちろんわかった。世間の人たちは性的な魅力というものを大げさに取り上げすぎているとタンジーはずっと思っていた。豆粒以上の脳みそとほんの少しの自制心があれば、だれでもそんな衝動は抑えられるはずだと考えていた。
 しかしレオの腕の中で音楽に乗って体をただよわせている今、ようやくタンジーはその正体を悟った。
「きみはダンスがとてもうまいね」レオはタンジーの耳もとで言った。「猫のように優雅で、しかもエネルギーに溢れて燃えさかっている」
「髪のせいよ」レオのことばにぞくぞくしたのを払いのけようとタンジーはそっけなく言った。「髪がエネルギーをひとり占めしているのよ。そのうち切るわ」
「そんなことをしたら、ばちが当たる」
 タンジーは笑った。「一度短くしたことがあるのよ。強風の中の灌木みたいに突っ立ってしまって、伸びて自然に下がるまでどうしようもなかったわ」
 レオの笑い声はタンジーの胸の奥の何かに触れた。彼女は目をそらして、平然としていようと努めた。レオは男としての魅力を使ってわたしを丸めこみ、リックとの約束を忘れさせようとしているのだ。
 そのうちタンジーは曲を覚えてふとハミングし、すぐに気がついてやめた。
「ぼくはきみの声が好きだ。きみはプリマドンナのタイプではないが、きみの歌には人の足を止めさせる何かがある。ひたむきで心に染み入る感じがする。きみの声はハスキーで、とてもセクシーだ」
「ありがとう」レオの狙いを知らなかったら危ないところだ。
「きみは概念音楽は作るのかい――ほら、十分間もなんの演奏もなくて、ときどきガラスが割れる音がするだけっていうような曲を?」
 タンジーは首を横に振った。「いいえ、わたしが作るのはごくふつうの曲よ。わたしは人の心を動かす音楽、人が涙を浮かべるような音楽を作りたいの。ビバルディとかベートーベンとかベルディみたいな」
「なかなかの野心だね」レオは考えこむように言った。
「そうね」タンジーはそう答えて、自分はなぜこんな話をしているのだろうと不思議に思いながら続けた。「わたしを作曲にかり立てる何かがわたしの中にあるの。わたしが本当に幸せなのは作曲をしているときで、できた自分の曲を見て、いつも、いつか歴史に残る曲を作らなくてはと思うのよ」
「きみは、理想の曲を求めて死ぬまで作り続けるんだろうな」
 タンジーはまたしても驚いた。レオは洗練されすぎていて、彼女にとって音楽がそうであるような根源的な欲求などわからないと思っていたが、どうやらわかるらしい。
「そのとおりよ。やめられないわ」
「すべてはそのために犠牲になるんだ」
 レオはわかりすぎている。でも、犠牲というのは間違っている。音楽ほど純粋で強いよろこびを与えてくれるものはこの世にほかにないのだから。
「まあね」タンジーはあいまいに答えた。
「きみを見て最初に感じたのは、情熱的できらきら輝いていて、何かにかり立てられるような雰囲気だ」
「あなたはきっと、わたしとわたしの髪をごちゃまぜにしてるのよ。髪に個性が全部行ってしまったの。わたし自身はごく平凡な人間よ」
 レオにわたしの心の奥まで見せすぎてしまった。彼は人の生活や考えをのぞきこむことで、莫大なお金を稼いでいる人間だということを忘れてはならない。
「きみがベレー帽を取る前から、ぼくは気がついていた。きみの目は激しくて野性的で、それなのに妙に超然としている。虎のようなその目で見られたとたんにわかったよ。きみは人生を自分の思いどおりに生きるか、そうでなければすべてを捨てるかだと。タンジー、きみは最初の一年間、どうやって宿なしの暮らしを切り抜けたんだい?」
「まあなんとかうまくね」彼女は冷ややかに答えた。
「たしかに傷は残っていないようだ」
 タンジーは本当のことを言いかけたが、すぐに思い直した。レオの前に人生のすべてをさらけ出すなんて考えただけでぞっとする。
 レオにどう思われるかを気にするなら、生きるために身を売ったりはしなかった、ある人に無事に保護されていたと説明するところだ。でもレオは、ウェリントンから出ていけば二度と会うこともない相手だ。そんな人に説明する必要はない。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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