和書>小説・ノンフィクション>恋愛小説>ロマンス小説
解説
ジョン・ナイトウォーカーは愛する妻と一族を皆殺しにされ、胸が張り裂けそうな悲しみと絶望を抱えたまま、復讐を果たすためだけに時を超えて生きてきた。移りゆく歳月のなかに一人取り残され、孤独に敵を探し続けていたある日、彼は町で見知らぬ美女に鉢合わせした。すると全身に鳥肌が立ち、彼女は敵に関係していると第六感が告げた。アリシアというその女はある秘密を知ったために、実の父に追われているらしい。ジョンは敵に近づくことを目論み、すかさず助けを申し出る。復讐の道具のはずの彼女に心惹かれるとは思わずに……。
抄録
「負けるな、アリシア。生き延びるんだ。心にかけた女性を埋葬するようなことは、僕は二度とごめんだ」
ジョンはアリシアの手を引っくり返し、手のひらにキスをした。アリシアの肌は柔らかく温かで、かすかな脈拍が唇に伝わってきた。それからジョンは、ていねいにアリシアの顔を濡れタオルで拭いはじめた。そうすれば早く治るからというより、アリシアのために何かしてやらずにはいられなかった。
アリシアの目の下はどす黒い隈になり、毒の強さを物語っていた。それ以外の皮膚は蝋のように白く、唇が半開きになっている。ジョンはアリシアの喉に軽く指を走らせ、しっかりと脈があることを確かめた。それでもアリシアは目を覚まそうとはしない。もう生きていたくないと思うほど、アリシアが追いつめられていたと思うと、胸が苦しかった。
ジョンは何時間もアリシアのかたわらに座り、こんなことでもなければ誰にも語らなかっただろう自分の半生を語った。湾にやってきたスペイン人たちのこと、部族の民が皆殺しにされたこと、ヨーロッパで暮らしたこと、インドを列車で旅したこと、リトル・ビッグ・ホーンの戦いや米西戦争で戦ったこと、人里離れたロッキー山脈の山小屋で雪に降りこめられたこと。大いなる財宝が埋められるのを目撃し、何十年も経ってから掘り出して自分のものとしたこと。大火事や疫病、地震や津波を生き延びてきたこと。歴史には残らぬ数知れぬ戦いを経験してきたこと。長い間、自分の心一つにおさめてきた、誰も信じないだろう真実をすべて吐き出し、ただ一人の生き残りであることの痛切な孤独感について語った。とうとう喉がからからになって、唾をのみこむのも痛くなったころ、ようやくジョンは語るのをやめた。
突然の静けさは怖いほどだった。ジョンはしばらく呆然としていたが、やがて、アリシアの息づかいが今でもちゃんと聞こえることに気づいた。ジョンは一度うなずき、けだるげに立ち上がった。そのまま歩きかけてから、ふと足を止める。そして身をかがめて半開きのアリシアの唇に顔を寄せ、アリシアが吐いた息を吸いこんだ。これで、一瞬に相当する彼女の生命力を、自分の中に取りこんだことになる。これからは自分の中で、常にアリシアの一部が息づくのだ。ジョンは自分がしようとしていることに思いをめぐらし、ずるいことをしているような気分になった。これから行うことはアリシアの意思とは関係なく、ジョンが勝手にやることだ。だがジョンは長年、ルールに従うことなく生きてきた。なぜいまさら、ルールを気にする必要があるだろう?
ジョンはわずかに口を開いて、アリシアと唇を重ねて、優しくじらすようにキスをした。そして静かに念じた。アリシア、目を覚ませ、目を覚ましてもっとキスをせがめ、と。だがアリシアは目を覚まさなかった。
ジョンはアリシアの寝室を出ると、食事を作り、体力を維持するためだけに食べ、缶詰めのチキンスープを温めた。そしてスープをカップに入れてアリシアの部屋に持ってきた。
スープとストローを手にベッドサイドに戻ったジョンには、思うところがあった。
「アリシア、僕だ、ジョンだ。君がそこにいるのはわかっている。でも僕には君の声は聞こえないし、君のいるところまで助けに行くことができない。君がどこにいようとも、僕はここで待っている。君は知らないだろうが、待つことにかけては僕の右に出る者はいないんだよ。そして君がそこで魂を癒している間、僕は君の体に栄養を与えよう。僕がこのストローを唇に差し入れたら、のみこむんだ」
ジョンは奥歯を噛みしめ、彼女が理解したことを示すしるしが表れないかと待ち受けたが、なんの応答もなかった。ジョンはストローの端をカップにひたし、ストローに少しスープが入ったところで、反対側の端を指で押さえた。それからストローをアリシアの唇の間に差しこみ、押さえていた指を離した。スープは数滴アリシアの口に流れこんだが、すぐに唇の端からこぼれ出た。
ジョンはタオルでこぼれたスープを拭い、もう一度ストローにスープを吸い上げて、アリシアの唇にあてがった。今度こそうまくいかせるつもりだった。
「アリシア! スープをのむんだ!」そしてそっと指を離した。
驚いたことに、アリシアの喉がごくりと動き、スープをのみこんだ。
ジョンは満足げに鼻をふくらませた。「いいぞ、その調子だ」そうやって、カップのスープがほとんどなくなるまで同じことをくり返した。
今できることは全部やったと満足して、ジョンはアリシアを優しく上掛けでくるんでやると、そっとドアを閉めて部屋を出た。コービンに電話をかけて、いったいどんな手違いがあったのか、FBIは何をしているのかたずねなければいけない。
アリシア・ポンティは人間としての活動を停止していた。呼吸こそしていたが、自分ではそのことを知らず、気にかけてもいなかった。アリシアは潜在意識の奥深くに……夢を見るところよりさらに深く、太古の記憶が蓄えられているところにもぐりこんでいた。そして現在と過去のはざまに身を委ね、ぼんやりと浮かんだまま、たゆたっていた。
*この続きは製品版でお楽しみください。
ジョンはアリシアの手を引っくり返し、手のひらにキスをした。アリシアの肌は柔らかく温かで、かすかな脈拍が唇に伝わってきた。それからジョンは、ていねいにアリシアの顔を濡れタオルで拭いはじめた。そうすれば早く治るからというより、アリシアのために何かしてやらずにはいられなかった。
アリシアの目の下はどす黒い隈になり、毒の強さを物語っていた。それ以外の皮膚は蝋のように白く、唇が半開きになっている。ジョンはアリシアの喉に軽く指を走らせ、しっかりと脈があることを確かめた。それでもアリシアは目を覚まそうとはしない。もう生きていたくないと思うほど、アリシアが追いつめられていたと思うと、胸が苦しかった。
ジョンは何時間もアリシアのかたわらに座り、こんなことでもなければ誰にも語らなかっただろう自分の半生を語った。湾にやってきたスペイン人たちのこと、部族の民が皆殺しにされたこと、ヨーロッパで暮らしたこと、インドを列車で旅したこと、リトル・ビッグ・ホーンの戦いや米西戦争で戦ったこと、人里離れたロッキー山脈の山小屋で雪に降りこめられたこと。大いなる財宝が埋められるのを目撃し、何十年も経ってから掘り出して自分のものとしたこと。大火事や疫病、地震や津波を生き延びてきたこと。歴史には残らぬ数知れぬ戦いを経験してきたこと。長い間、自分の心一つにおさめてきた、誰も信じないだろう真実をすべて吐き出し、ただ一人の生き残りであることの痛切な孤独感について語った。とうとう喉がからからになって、唾をのみこむのも痛くなったころ、ようやくジョンは語るのをやめた。
突然の静けさは怖いほどだった。ジョンはしばらく呆然としていたが、やがて、アリシアの息づかいが今でもちゃんと聞こえることに気づいた。ジョンは一度うなずき、けだるげに立ち上がった。そのまま歩きかけてから、ふと足を止める。そして身をかがめて半開きのアリシアの唇に顔を寄せ、アリシアが吐いた息を吸いこんだ。これで、一瞬に相当する彼女の生命力を、自分の中に取りこんだことになる。これからは自分の中で、常にアリシアの一部が息づくのだ。ジョンは自分がしようとしていることに思いをめぐらし、ずるいことをしているような気分になった。これから行うことはアリシアの意思とは関係なく、ジョンが勝手にやることだ。だがジョンは長年、ルールに従うことなく生きてきた。なぜいまさら、ルールを気にする必要があるだろう?
ジョンはわずかに口を開いて、アリシアと唇を重ねて、優しくじらすようにキスをした。そして静かに念じた。アリシア、目を覚ませ、目を覚ましてもっとキスをせがめ、と。だがアリシアは目を覚まさなかった。
ジョンはアリシアの寝室を出ると、食事を作り、体力を維持するためだけに食べ、缶詰めのチキンスープを温めた。そしてスープをカップに入れてアリシアの部屋に持ってきた。
スープとストローを手にベッドサイドに戻ったジョンには、思うところがあった。
「アリシア、僕だ、ジョンだ。君がそこにいるのはわかっている。でも僕には君の声は聞こえないし、君のいるところまで助けに行くことができない。君がどこにいようとも、僕はここで待っている。君は知らないだろうが、待つことにかけては僕の右に出る者はいないんだよ。そして君がそこで魂を癒している間、僕は君の体に栄養を与えよう。僕がこのストローを唇に差し入れたら、のみこむんだ」
ジョンは奥歯を噛みしめ、彼女が理解したことを示すしるしが表れないかと待ち受けたが、なんの応答もなかった。ジョンはストローの端をカップにひたし、ストローに少しスープが入ったところで、反対側の端を指で押さえた。それからストローをアリシアの唇の間に差しこみ、押さえていた指を離した。スープは数滴アリシアの口に流れこんだが、すぐに唇の端からこぼれ出た。
ジョンはタオルでこぼれたスープを拭い、もう一度ストローにスープを吸い上げて、アリシアの唇にあてがった。今度こそうまくいかせるつもりだった。
「アリシア! スープをのむんだ!」そしてそっと指を離した。
驚いたことに、アリシアの喉がごくりと動き、スープをのみこんだ。
ジョンは満足げに鼻をふくらませた。「いいぞ、その調子だ」そうやって、カップのスープがほとんどなくなるまで同じことをくり返した。
今できることは全部やったと満足して、ジョンはアリシアを優しく上掛けでくるんでやると、そっとドアを閉めて部屋を出た。コービンに電話をかけて、いったいどんな手違いがあったのか、FBIは何をしているのかたずねなければいけない。
アリシア・ポンティは人間としての活動を停止していた。呼吸こそしていたが、自分ではそのことを知らず、気にかけてもいなかった。アリシアは潜在意識の奥深くに……夢を見るところよりさらに深く、太古の記憶が蓄えられているところにもぐりこんでいた。そして現在と過去のはざまに身を委ね、ぼんやりと浮かんだまま、たゆたっていた。
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本の情報
紙書籍初版: 2011/5/15
小説・ノンフィクション>恋愛小説>ロマンス小説
小説・ノンフィクション>ハーレクイン>MIRA文庫
小説・ノンフィクション>ハーレクイン>復讐
小説・ノンフィクション>ハーレクイン>サスペンス
小説・ノンフィクション>ハーレクイン>超常/ファンタジー
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