和書>小説・ノンフィクション>ハーレクイン>シルエット・ロマンス
著者プロフィール
リンダ・ルイス(Linda Lewis)
テキサス州で生まれ育つ。その後、ニューヨーク、フィラデルフィア、シカゴと移り住み、ニューオーリンズに落ち着く。弁護士でもある彼女は、家族とたくさんの犬や猫と暮らしている。今回の作品を執筆するにあたり、いとこの所有する牧場を訪れて多くのインスピレーションを得たという。
テキサス州で生まれ育つ。その後、ニューヨーク、フィラデルフィア、シカゴと移り住み、ニューオーリンズに落ち着く。弁護士でもある彼女は、家族とたくさんの犬や猫と暮らしている。今回の作品を執筆するにあたり、いとこの所有する牧場を訪れて多くのインスピレーションを得たという。
解説
家政婦のシンディは人里離れた牧場の屋敷で働いている。牧場の持ち主は、トラビス・ルールという大企業の経営者で、“テキサス一リッチな独身貴族”ともてはやされている男性だ。魅力的なトラビスに会ったとたん、シンディは心がときめいてしまったが、あわてて自分を戒めた。孤児院育ちのわたしなんて、相手にされるはずがない。ところが、彼はシンディに車の運転を教えてくれたり、将来の計画についてのアドバイスをしてくれたりした。いったい、なぜ? ひょっとしたら、わたしのことを……。しかし、ひそかな期待は、ある日粉々に打ち砕かれた。トラビスが花嫁候補の美しい女性を二人も牧場に連れてきたのだ。
抄録
「母がきみを知っていたら、絶対にきみを使っただろうな。母は必死だ。それに、一刻も早く孫が欲しいらしい」トラビスはため息とも、うめきともつかない声を出した。「母は、これはと思う女性に会うたびに花嫁候補にしてしまう。まったく、独身女性を避けるのは楽じゃないよ。だから地上でいちばん安全だろうと思ってここに来たのに、出会ってしまったんだ、きみという人に」トラビスの顔に、からかうような笑顔が戻ってきた。
「好きで出会ったわけじゃありません」
「でも、ぼくの腕のなかに落ちてきたじゃないか」
「それは、あなたが驚かせたからでしょう」
「わかっている。だが、きみを抱きかかえたとき、あることが起こった。あれがなんだったのかを、たしかめないことには……」トラビスは窓の外を見やった。「あのとき、音楽が聞こえなかったかい?」
「ええ、聞こえたわ」
トラビスのスカイブルーの目が輝き、笑みがこぼれた。「本当に? どんな音楽だった?」
シンディは不機嫌に答えた。「ビートルズよ」
「そうじゃなくて」トラビスの笑顔が消えた。「天使のハレルヤコーラスが聞こえなかったかい?」
「いいえ。なんの話かさっぱりわからないわ」
「ぼくにもわからないよ」トラビスはつぶやいた。
「えっ?」
「きみには聞こえなかったのなら、いいんだ。ぼくの想像にすぎなかったんだな……」
「想像ってどんな? わたしがわざとあなたの腕に倒れこんだとでも?」
「まあ、そんなところだ。反射的にそう思えたんだよ。だからぼくは……」
「反射的? 目の前に現れる女性がすべて自分と結婚したがっている、と反射的に思うわけ?」
「ああ、でもそれは事実なんだ。こんな言い方は不謹慎だとわかっているんだが、ぼくの言葉を信じてほしい。目の前に現れる女性は、ほとんどがぼくと結婚したがる。つまり、みんな金目あてなんだ」
「テキサス一リッチな男性だからなのね」
「テキサス一リッチな独身貴族、だよ。だが、それだけ多くの女性を前にしても、音楽が聞こえたことはなかった。運命の相手を見つけだす方法はあるはずなんだが……」トラビスは、ぱちんと指を鳴らした。「そうだ。ぼくにキスしてくれ、シンディ」
トラビスはシンディのほうに手をのばした。シンディが気づいたときには、彼の魅惑的な唇が彼女の唇にふれる寸前だった。シンディはあわてて持っていた木じゃくしで、彼の鼻をぽんとたたいた。
トラビスは痛そうに鼻をさすった。「おい、なんでこんなことをするんだ?」
「どうしてわたしにキスしようとするのよ?」
「音楽が聞こえるかどうか試そうと思って」トラビスはポケットに手をつっこんだ。「いい考えだと思ったのにな」
「そんなわけないでしょう! あなたにキスなんてしてもらいたくありません!」
「本当に? 上手だって言われているんだよ」
「わたしの言うことをよく聞いてください、ミスター・ルール。あなたには興味ありません!『タイム』誌で、その年もっとも活躍した企業家に輝いたあなたともあろう人がおとなげない!」シンディは、トラビスの鼻の下で木じゃくしを振ってみせた。「あなたは世間知らずもいいところよ」
トラビスは木じゃくしをかわしながら言った。「世間知らず?」
「そのとおりよ」シンディが木じゃくしでトラビスの胸をつついたので、シャツに赤いしみがついた。「わたしのことをお金目あての女だと勝手に決めつけ、あとをつけまわしてじゃまをしてばかり!」彼女はもう一度トラビスをつついた。「わたしはひとりが好きなの! あなたがどれほどお金持だろうと、関係ないわ。あなたのお金なんて欲しくないし、あなたにそばにいてもらいたくもないの。わかる?」
トラビスは、当惑したようにこくりとうなずいた。まるで不当な罰を受けた少年のようだ。だが、彼が鼻をたたかれるのは、当然の報いなのだ。
「よくわかったよ。ぼくが悪かった。謝るよ」
シンディは気持を静めて木じゃくしを置き、ふきんを手にした。それから深呼吸をして、ふきんをしめらせた。「シャツにしみがついてしまったわ。こびりつかないうちに、ふきとらないと」
「自分でやるよ」トラビスはシンディからふきんをとって、しみのところを軽くたたきはじめた。「本当にすまなかった、シンディ。ミス・エラービー」
「この仕事が必要だからといって、あなたの理不尽な行動を我慢するわけにはいかないわ」
トラビスの顔は真っ赤だった。恥ずかしさのためか、それとも熱でも出たのだろうか。
「具合が悪いんじゃありません?」
「かもしれない。頭が……。しばらく横になるよ」トラビスはキッチンのドアのほうに向かった。「夕食の支度ができたら呼んでくれ。頼むよ」
*この続きは製品版でお楽しみください。
「好きで出会ったわけじゃありません」
「でも、ぼくの腕のなかに落ちてきたじゃないか」
「それは、あなたが驚かせたからでしょう」
「わかっている。だが、きみを抱きかかえたとき、あることが起こった。あれがなんだったのかを、たしかめないことには……」トラビスは窓の外を見やった。「あのとき、音楽が聞こえなかったかい?」
「ええ、聞こえたわ」
トラビスのスカイブルーの目が輝き、笑みがこぼれた。「本当に? どんな音楽だった?」
シンディは不機嫌に答えた。「ビートルズよ」
「そうじゃなくて」トラビスの笑顔が消えた。「天使のハレルヤコーラスが聞こえなかったかい?」
「いいえ。なんの話かさっぱりわからないわ」
「ぼくにもわからないよ」トラビスはつぶやいた。
「えっ?」
「きみには聞こえなかったのなら、いいんだ。ぼくの想像にすぎなかったんだな……」
「想像ってどんな? わたしがわざとあなたの腕に倒れこんだとでも?」
「まあ、そんなところだ。反射的にそう思えたんだよ。だからぼくは……」
「反射的? 目の前に現れる女性がすべて自分と結婚したがっている、と反射的に思うわけ?」
「ああ、でもそれは事実なんだ。こんな言い方は不謹慎だとわかっているんだが、ぼくの言葉を信じてほしい。目の前に現れる女性は、ほとんどがぼくと結婚したがる。つまり、みんな金目あてなんだ」
「テキサス一リッチな男性だからなのね」
「テキサス一リッチな独身貴族、だよ。だが、それだけ多くの女性を前にしても、音楽が聞こえたことはなかった。運命の相手を見つけだす方法はあるはずなんだが……」トラビスは、ぱちんと指を鳴らした。「そうだ。ぼくにキスしてくれ、シンディ」
トラビスはシンディのほうに手をのばした。シンディが気づいたときには、彼の魅惑的な唇が彼女の唇にふれる寸前だった。シンディはあわてて持っていた木じゃくしで、彼の鼻をぽんとたたいた。
トラビスは痛そうに鼻をさすった。「おい、なんでこんなことをするんだ?」
「どうしてわたしにキスしようとするのよ?」
「音楽が聞こえるかどうか試そうと思って」トラビスはポケットに手をつっこんだ。「いい考えだと思ったのにな」
「そんなわけないでしょう! あなたにキスなんてしてもらいたくありません!」
「本当に? 上手だって言われているんだよ」
「わたしの言うことをよく聞いてください、ミスター・ルール。あなたには興味ありません!『タイム』誌で、その年もっとも活躍した企業家に輝いたあなたともあろう人がおとなげない!」シンディは、トラビスの鼻の下で木じゃくしを振ってみせた。「あなたは世間知らずもいいところよ」
トラビスは木じゃくしをかわしながら言った。「世間知らず?」
「そのとおりよ」シンディが木じゃくしでトラビスの胸をつついたので、シャツに赤いしみがついた。「わたしのことをお金目あての女だと勝手に決めつけ、あとをつけまわしてじゃまをしてばかり!」彼女はもう一度トラビスをつついた。「わたしはひとりが好きなの! あなたがどれほどお金持だろうと、関係ないわ。あなたのお金なんて欲しくないし、あなたにそばにいてもらいたくもないの。わかる?」
トラビスは、当惑したようにこくりとうなずいた。まるで不当な罰を受けた少年のようだ。だが、彼が鼻をたたかれるのは、当然の報いなのだ。
「よくわかったよ。ぼくが悪かった。謝るよ」
シンディは気持を静めて木じゃくしを置き、ふきんを手にした。それから深呼吸をして、ふきんをしめらせた。「シャツにしみがついてしまったわ。こびりつかないうちに、ふきとらないと」
「自分でやるよ」トラビスはシンディからふきんをとって、しみのところを軽くたたきはじめた。「本当にすまなかった、シンディ。ミス・エラービー」
「この仕事が必要だからといって、あなたの理不尽な行動を我慢するわけにはいかないわ」
トラビスの顔は真っ赤だった。恥ずかしさのためか、それとも熱でも出たのだろうか。
「具合が悪いんじゃありません?」
「かもしれない。頭が……。しばらく横になるよ」トラビスはキッチンのドアのほうに向かった。「夕食の支度ができたら呼んでくれ。頼むよ」
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