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著者プロフィール
ペニー・ジョーダン(Penny Jordan)
イギリスの作家。ロマンス映画を見るよりも、ロマンス小説を読むのが好きだという。十一歳でイギリスのハーレクイン社のロマンス小説のなかのヒーローと“恋に落ち”、それ以来のロマンス小説ファン。結婚後もしばらく大手銀行で働いていたが、現在は執筆に専念。イングランド北西部チェシャーの古い館で四匹の犬、二匹の猫と一緒に暮らしている。
イギリスの作家。ロマンス映画を見るよりも、ロマンス小説を読むのが好きだという。十一歳でイギリスのハーレクイン社のロマンス小説のなかのヒーローと“恋に落ち”、それ以来のロマンス小説ファン。結婚後もしばらく大手銀行で働いていたが、現在は執筆に専念。イングランド北西部チェシャーの古い館で四匹の犬、二匹の猫と一緒に暮らしている。
解説
ジェイミーが初めて恋した相手は継兄のジェイクだった。母が再婚したとき2歳にもなっていなかったジェイミーは、新しい父と兄をすぐに受け入れた。ジェイクは彼女にとって神にも等しい存在で、二人は何をするにもいっしょだった。成長するにつれ、お互いの目に映る姿が一人の男と女に変わったとき、ひそかに結婚を誓い合う仲となっていた。それなのに、何もかも見せかけだったなんて。ジェイクの恋人と名乗る女性が現れ、抱き合う二人の姿を見たとき、ジェイミーは家を飛び出した。
■7月から2カ月連続で刊行された2部作『アレジオ公国の花嫁』が大きな反響を呼んだペニー・ジョーダン。波瀾に満ちた展開に思わず引き込まれる筆力は、往年の名作も変わらず。幼なじみ同士の切ない恋物語をご堪能ください。
■7月から2カ月連続で刊行された2部作『アレジオ公国の花嫁』が大きな反響を呼んだペニー・ジョーダン。波瀾に満ちた展開に思わず引き込まれる筆力は、往年の名作も変わらず。幼なじみ同士の切ない恋物語をご堪能ください。
抄録
「その話はしたくないわ」
ジェイクがそばにいることで、ふいに息が詰まりそうになって、ジェイミーはだしぬけに立ちあがった。パニックに駆られてジェイクの脇をすりぬけようとするのに、彼が道をふさぐ。
激しい頭痛に目を閉じると、ジェイミーはぐらりとよろけて手を差しのべた。すべてが、狂ったようにぐるぐる回りはじめる。唯一のたしかな現実はジェイクのしっかりとした声だったから、溺れる者が救命ボートにしがみつくように、ぐったりと彼にもたれかかった。ジェイクの両腕が自分の体に回されたのを感じたとたん、ジェイミーは気が遠くなった。
自分が抱きあげられて運ばれていくのがおぼろげにわかる。ジェイクの鼓動がふいに速まったこともわかった。ベスの心配そうな質問とジェイクの安心させるような返事が聞こえる。
「心配しないでいい。ジェイミーはいつだってがんばりすぎるんだ。たぶん、時差のせいだろう。部屋はどこだい、ベス? いや、だいじょうぶ。きみは階下にいてくれ。ジェイミーは気絶したんじゃなくて、めまいがしただけだと思うんだ。すぐによくなるさ」
二階に上がっていく。ジェイクの動きはすばやい……。前にもこんなふうに運ばれたことがあったわ、初めて彼とベッドをともにしたとき……ふいに胸が締めつけられる。いまは、あのときのことなんか思い出したくはないのに。
わたしはわくわくしながらも怯えていて、ジェイクの愛し方はとても優しくて……でも、そんなことを思い出しても意味ないわ。ただの幻だったんだもの。巧妙な欺瞞でしかなくて、とことん彼にだまされていた。わたしのプライドも自尊心もまだ立ちなおってはいないんだわ。
本当に、ワンダがいなかったら、わたしは気づきもしなかっただろう。いまごろはジェイクと結婚して五年たち、たぶんジェイクの子供たちの母親になってたわね。ほっとしていいはずなのに、なぜ鈍い痛みとみじめさを感じたりするの?
何も知らないまま結婚していたほうがよかったとでも思うの? 自分の弱さに腹を立てて、ジェイミーは思い出を押しのけた。もう寝室の中だわ。用心しながら目を開けてみて、部屋がぐらりと揺れたのであわててまた目を閉じる。
わたしが悪いんだわ。ニューヨークからの機内でほとんど食べなかったのに、そのあともほんのちょっぴりしか食べなかったから。力がなくなっても、なんのふしぎもないわ。
めまいの中で過去と現在が交錯しはじめる。現実が遠のき、たしかなのはジェイクの腕の中にいるという事実だけ。ジェイクがベッドに横たえてくれる。ジェイミーは目を開け、冷ややかな緑の目を見てまばたきした。
「ジェイク」
名前を口にするだけで全身が震える。ジェイクの目からきびしい冷たさを追い払えなくて、くやしさに涙がにじむ。ジェイミーは十八歳に戻り、どうしようもなく恋をしていた。
訴えるように手を差しのべる。ショックのあまり弱々しい悲鳴があがった。骨が折れるんじゃないかと思うほど荒々しくジェイクに押し戻されたから。
「ぼくに何を求めてる、ジェイミー?」
荒々しい声に、昔の痛みがこだまのようによみがえり、ジェイミーをいっそう混乱させる。乾いた唇を舌先で湿す。胸がつぶれそうだ。ぼうっとなってことばも浮かんでこない。
心の奥から震える声が警告する――あなた、信じられないほど愚かなことをしようとしてるのよ。でも、そんな声は聞きたくない。わたしはそばに座っているこの男性を、痛いほど求めているの。なぜか、わたしを絞め殺したいというような顔をしているけれど……。ジェイクを見つめるジェイミーのまなざしには、無言の訴えがあふれていた。
「ジェイミー、どういうことだ」彼女の手首をつかんでいた手を、火傷でもしたように引っこめる。「いったい今度はなんのゲームをしてる?」
ジェイクは出ていこうとしている。ジェイミーはそんなことはさせたくなかった。パニックがナイフの先のように鋭い爪で攻めかかり、虚無の黒い渦が彼女をのみこもうとしている。
「ジェイク!」
一瞬、暗闇が裂け、ジェイミーは自分の体の上にジェイクの熱い体を、唇の上に夢にも忘れたことのないジェイクの唇を感じる。心臓が狂ったように打ちはじめた……。
「ジェイミー?」
ためらいがちなベスの声に、はっとして目を覚ました。混乱してあたりを見まわし、もう明るくなっていることにぎょっとしてしまう。
「具合はどう? 昨日の夜、わたしはお医者さまを呼ぼうとしたんだけど、ジェイクがその必要はないって言うものだから。十代のころ、あなたはよくめまいを起こしたんですって?」
「ええ、そう」
うわのそらな返事だった。混乱したイメージと夢うつつの記憶がどっとよみがえってくる。ジェイクがわたしを二階に運んでくれたんだったわ。ジェイクはわたしに腹を立てていて……まさか、キスなんかしたはずがないわ。ジェイミーは目を閉じ、かすかに身震いした。
*この続きは製品版でお楽しみください。
ジェイクがそばにいることで、ふいに息が詰まりそうになって、ジェイミーはだしぬけに立ちあがった。パニックに駆られてジェイクの脇をすりぬけようとするのに、彼が道をふさぐ。
激しい頭痛に目を閉じると、ジェイミーはぐらりとよろけて手を差しのべた。すべてが、狂ったようにぐるぐる回りはじめる。唯一のたしかな現実はジェイクのしっかりとした声だったから、溺れる者が救命ボートにしがみつくように、ぐったりと彼にもたれかかった。ジェイクの両腕が自分の体に回されたのを感じたとたん、ジェイミーは気が遠くなった。
自分が抱きあげられて運ばれていくのがおぼろげにわかる。ジェイクの鼓動がふいに速まったこともわかった。ベスの心配そうな質問とジェイクの安心させるような返事が聞こえる。
「心配しないでいい。ジェイミーはいつだってがんばりすぎるんだ。たぶん、時差のせいだろう。部屋はどこだい、ベス? いや、だいじょうぶ。きみは階下にいてくれ。ジェイミーは気絶したんじゃなくて、めまいがしただけだと思うんだ。すぐによくなるさ」
二階に上がっていく。ジェイクの動きはすばやい……。前にもこんなふうに運ばれたことがあったわ、初めて彼とベッドをともにしたとき……ふいに胸が締めつけられる。いまは、あのときのことなんか思い出したくはないのに。
わたしはわくわくしながらも怯えていて、ジェイクの愛し方はとても優しくて……でも、そんなことを思い出しても意味ないわ。ただの幻だったんだもの。巧妙な欺瞞でしかなくて、とことん彼にだまされていた。わたしのプライドも自尊心もまだ立ちなおってはいないんだわ。
本当に、ワンダがいなかったら、わたしは気づきもしなかっただろう。いまごろはジェイクと結婚して五年たち、たぶんジェイクの子供たちの母親になってたわね。ほっとしていいはずなのに、なぜ鈍い痛みとみじめさを感じたりするの?
何も知らないまま結婚していたほうがよかったとでも思うの? 自分の弱さに腹を立てて、ジェイミーは思い出を押しのけた。もう寝室の中だわ。用心しながら目を開けてみて、部屋がぐらりと揺れたのであわててまた目を閉じる。
わたしが悪いんだわ。ニューヨークからの機内でほとんど食べなかったのに、そのあともほんのちょっぴりしか食べなかったから。力がなくなっても、なんのふしぎもないわ。
めまいの中で過去と現在が交錯しはじめる。現実が遠のき、たしかなのはジェイクの腕の中にいるという事実だけ。ジェイクがベッドに横たえてくれる。ジェイミーは目を開け、冷ややかな緑の目を見てまばたきした。
「ジェイク」
名前を口にするだけで全身が震える。ジェイクの目からきびしい冷たさを追い払えなくて、くやしさに涙がにじむ。ジェイミーは十八歳に戻り、どうしようもなく恋をしていた。
訴えるように手を差しのべる。ショックのあまり弱々しい悲鳴があがった。骨が折れるんじゃないかと思うほど荒々しくジェイクに押し戻されたから。
「ぼくに何を求めてる、ジェイミー?」
荒々しい声に、昔の痛みがこだまのようによみがえり、ジェイミーをいっそう混乱させる。乾いた唇を舌先で湿す。胸がつぶれそうだ。ぼうっとなってことばも浮かんでこない。
心の奥から震える声が警告する――あなた、信じられないほど愚かなことをしようとしてるのよ。でも、そんな声は聞きたくない。わたしはそばに座っているこの男性を、痛いほど求めているの。なぜか、わたしを絞め殺したいというような顔をしているけれど……。ジェイクを見つめるジェイミーのまなざしには、無言の訴えがあふれていた。
「ジェイミー、どういうことだ」彼女の手首をつかんでいた手を、火傷でもしたように引っこめる。「いったい今度はなんのゲームをしてる?」
ジェイクは出ていこうとしている。ジェイミーはそんなことはさせたくなかった。パニックがナイフの先のように鋭い爪で攻めかかり、虚無の黒い渦が彼女をのみこもうとしている。
「ジェイク!」
一瞬、暗闇が裂け、ジェイミーは自分の体の上にジェイクの熱い体を、唇の上に夢にも忘れたことのないジェイクの唇を感じる。心臓が狂ったように打ちはじめた……。
「ジェイミー?」
ためらいがちなベスの声に、はっとして目を覚ました。混乱してあたりを見まわし、もう明るくなっていることにぎょっとしてしまう。
「具合はどう? 昨日の夜、わたしはお医者さまを呼ぼうとしたんだけど、ジェイクがその必要はないって言うものだから。十代のころ、あなたはよくめまいを起こしたんですって?」
「ええ、そう」
うわのそらな返事だった。混乱したイメージと夢うつつの記憶がどっとよみがえってくる。ジェイクがわたしを二階に運んでくれたんだったわ。ジェイクはわたしに腹を立てていて……まさか、キスなんかしたはずがないわ。ジェイミーは目を閉じ、かすかに身震いした。
*この続きは製品版でお楽しみください。
本の情報
紙書籍初版: 2011/9/5
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