和書>小説・ノンフィクション>ハーレクイン>ハーレクイン・ロマンス
著者プロフィール
サラ・クレイヴン(Sara Craven)
イングランド南西部サウス・デボン生まれ。海辺の家で本に囲まれて育った。グラマースクール卒業後は、地元のジャーナリストとして、フラワーショーから殺人事件まで、あらゆる分野の記事を手がける。ロマンス小説を書き始めたのは一九七五年から。執筆のほかには、映画、音楽、料理、おいしいレストランの食べ歩きなどに情熱を傾けている。サマセット在住。
イングランド南西部サウス・デボン生まれ。海辺の家で本に囲まれて育った。グラマースクール卒業後は、地元のジャーナリストとして、フラワーショーから殺人事件まで、あらゆる分野の記事を手がける。ロマンス小説を書き始めたのは一九七五年から。執筆のほかには、映画、音楽、料理、おいしいレストランの食べ歩きなどに情熱を傾けている。サマセット在住。
解説
結婚式を一カ月後に控えたある日のこと。親友ヘスターの言葉にフローラは動揺した。「あなた、本当にクリスと結婚したいの?」ヘスターったらなにを言い出すのかしら……。私はクリスを愛しているし、彼と結婚すれば、安全で平穏な未来が約束されるのよ! だがマルコ・ヴァランテとの突然の出会いを境に、フローラの人生は一変する。強引で、情熱的で、恐ろしく魅力的なマルコ。潮が月に引かれるように、彼女はマルコに惹かれて行った。本物の愛を知った彼女は、幸せだった……彼との出会いが、実は偶然などではなかったという悲しい真実を目の当たりにするまでは。
抄録
彼はそっと言った。「今夜はずっと君のこの姿を想像していたんだ。でも現実の君はどんな空想よりもはるかに美しいよ、僕のフローラ《フローラ・ミア》」彼の指がくるりとフローラのウエストにまわされた。「なぜなら君は現実だ」彼の手は平たい腹にとどまった。「それに温かい」
手が下に移動して薄い絹の上をかすめ、熱くてひそやかなフローラの核心に行き着いた。
「そして僕を求めている」彼はかすれた声で言った。
マルコはしなやかに立ちあがった。彼女を軽々と抱きあげて廊下を横切り、真っ白な寝室に運んだ。
彼はフローラを抱いたまま、身をかがめてベッドの横の電灯をつけた。それから染みひとつないカバーをめくってベッドの足元にまとめ、彼女を横たえた。
フローラは半ば閉じたまぶたの下から、目の前に立ちはだかっている彼を見た。急に不安を覚えると同時に心臓が重い響きをたて、胸が波打ちはじめた。電灯の明かりを受けて彼女を見おろすマルコは見知らぬ人のようだ。彼の顔は暗い陰になり、ほとんど残忍といってもいいほど鋭く見える。
喉が詰まった。「どうかした……?」
「なんでもないよ」マルコは急に我に返ったようにほほ笑んだ。暗い陰は消えた――というよりあの陰は気のせいだったのだろうか?「君がまだ服を着すぎていることをのぞけばね」
「あなたもよ」フローラはささやいた。
「そう思うかい?」マルコは静かに笑った。「でも脱ぐのは簡単だよ」
彼は器用に優雅に服を脱いだ。フローラに見られていても、恥ずかしがる様子は全くない。
すらりと引き締まった見事な彼の体を見て、フローラは目を見開き、顔を赤らめた。マルコはその変化を見守っている。不安が襲ってきた。口が乾燥し、喉の筋肉が震えた。そして思いだした……。
頭が真っ白になった。逃げだしたい……隠れたい……苦痛と屈辱が待ちうけているこの部屋から、このベッドから、何千キロも離れた場所に。
興奮に熱していた気持ちは凍りついた。先刻あっという間にフローラを包みこんだ歓喜の炎はすでに燃え尽き、あとには灰だけが残った。
ああ、神様……どうすればいいの? なんと言えばいいの?
ベッドが沈み、マルコが隣に横たわった。彼が問いかけるようにフローラの名を呼ぶのが聞こえた。
羽根のように優しい指がフローラの熱い頬をなで、それから有無を言わせず振り向かせた。
マルコは静かに言った。「話しておくれ」
とぼけても仕方がない。
フローラはたどたどしく言った。「私は処女ではないわ……少なくとも、全くの処女では」
フローラは笑われるかばかにされると思っていたが、マルコは考え深げな表情でうなずいた。
「フィアンセと抱き合ったことがあるんだね」
「そうとも言えないわ」フローラは喉をごくりとさせた。「これは……とても説明しにくいの」
「いや。君は忘れているよ。僕は君の目を見たんだ。君の最初の経験が幸せなものだったとは思えない。君が言いたいのはそういうことかい?」
「ええ……たぶん」フローラは赤面し、彼の目を見ずに続けた。「でもクリスのせいじゃないの。ただ私は……あんなに痛いとは知らなくて」フローラはほほ笑もうとした。「滑稽よね。今は二十一世紀よ。ビクトリア時代じゃないわ。でも私は考えつかなくて……」声がとぎれて消えた。
マルコが彼女の髪を額からかきあげた。「痛みが終わったとき、彼は君を喜ばせたかい?」
まるで明日の天気でもきくような淡々とした口調だ。フローラは面食らった。
「彼はとても……優しかったわ。でももちろん、私を傷つけたことで動揺したの。だから彼が……次に試すまでしばらく待ったほうがいいかもしれないと言いだして……そうなったのよ」
「すごい自制心だな」その冷ややかな言葉にはとげがあった。「感心するよ」
「私を思いやってのことよ」フローラは弁護した。
「だれもそうでないとは言っていないよ」
「私の問題なの……私が失敗したのよ」
「恋人の間で失敗はありえないよ」マルコはそっと言った。「いいときもあれば悪いときもある、それだけさ」彼は間を置いた。「君がかかえていると思っているその問題も……僕らで一緒に解けばいい」
フローラの声が震えた。「たぶん、無理よ……」
「いや、できるよ。僕が請け合う。だから僕を信じてくれるかい? 信じると言ってくれ」
震えがちな小さな笑い声がもれた。「信じるわ」
「それならなぜいまだに震えているんだい?」
フローラは心で答えた。どんなに怖くなくてもあなたといると震えるのよ。燃えて、ぞくぞくして、うずくの。どんなに経験を積んでもこうなるはずよ。あなたといると、自分でもどうしようもないの。
フローラは喉に引っかかった声で言った。「わかるでしょう……」
マルコが静かに応じた。「たぶんね」
彼は両手でフローラの顔を包み、再びキスを始めたが、軽く誘いかけるだけで、それ以上の要求はしなかった。やがてフローラの体から力が抜け、唇が開いた。マルコはキスを深め、それまで抑えていた飢えを垣間見せた。彼が唇を離したとき、フローラはがっかりしたような気分だった。
マルコは彼女を抱き締めてイタリア語で何かささやき、長い指で彼女の髪や頬や喉をなで続けた。その優しさは安心でもあり誘惑でもあった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
手が下に移動して薄い絹の上をかすめ、熱くてひそやかなフローラの核心に行き着いた。
「そして僕を求めている」彼はかすれた声で言った。
マルコはしなやかに立ちあがった。彼女を軽々と抱きあげて廊下を横切り、真っ白な寝室に運んだ。
彼はフローラを抱いたまま、身をかがめてベッドの横の電灯をつけた。それから染みひとつないカバーをめくってベッドの足元にまとめ、彼女を横たえた。
フローラは半ば閉じたまぶたの下から、目の前に立ちはだかっている彼を見た。急に不安を覚えると同時に心臓が重い響きをたて、胸が波打ちはじめた。電灯の明かりを受けて彼女を見おろすマルコは見知らぬ人のようだ。彼の顔は暗い陰になり、ほとんど残忍といってもいいほど鋭く見える。
喉が詰まった。「どうかした……?」
「なんでもないよ」マルコは急に我に返ったようにほほ笑んだ。暗い陰は消えた――というよりあの陰は気のせいだったのだろうか?「君がまだ服を着すぎていることをのぞけばね」
「あなたもよ」フローラはささやいた。
「そう思うかい?」マルコは静かに笑った。「でも脱ぐのは簡単だよ」
彼は器用に優雅に服を脱いだ。フローラに見られていても、恥ずかしがる様子は全くない。
すらりと引き締まった見事な彼の体を見て、フローラは目を見開き、顔を赤らめた。マルコはその変化を見守っている。不安が襲ってきた。口が乾燥し、喉の筋肉が震えた。そして思いだした……。
頭が真っ白になった。逃げだしたい……隠れたい……苦痛と屈辱が待ちうけているこの部屋から、このベッドから、何千キロも離れた場所に。
興奮に熱していた気持ちは凍りついた。先刻あっという間にフローラを包みこんだ歓喜の炎はすでに燃え尽き、あとには灰だけが残った。
ああ、神様……どうすればいいの? なんと言えばいいの?
ベッドが沈み、マルコが隣に横たわった。彼が問いかけるようにフローラの名を呼ぶのが聞こえた。
羽根のように優しい指がフローラの熱い頬をなで、それから有無を言わせず振り向かせた。
マルコは静かに言った。「話しておくれ」
とぼけても仕方がない。
フローラはたどたどしく言った。「私は処女ではないわ……少なくとも、全くの処女では」
フローラは笑われるかばかにされると思っていたが、マルコは考え深げな表情でうなずいた。
「フィアンセと抱き合ったことがあるんだね」
「そうとも言えないわ」フローラは喉をごくりとさせた。「これは……とても説明しにくいの」
「いや。君は忘れているよ。僕は君の目を見たんだ。君の最初の経験が幸せなものだったとは思えない。君が言いたいのはそういうことかい?」
「ええ……たぶん」フローラは赤面し、彼の目を見ずに続けた。「でもクリスのせいじゃないの。ただ私は……あんなに痛いとは知らなくて」フローラはほほ笑もうとした。「滑稽よね。今は二十一世紀よ。ビクトリア時代じゃないわ。でも私は考えつかなくて……」声がとぎれて消えた。
マルコが彼女の髪を額からかきあげた。「痛みが終わったとき、彼は君を喜ばせたかい?」
まるで明日の天気でもきくような淡々とした口調だ。フローラは面食らった。
「彼はとても……優しかったわ。でももちろん、私を傷つけたことで動揺したの。だから彼が……次に試すまでしばらく待ったほうがいいかもしれないと言いだして……そうなったのよ」
「すごい自制心だな」その冷ややかな言葉にはとげがあった。「感心するよ」
「私を思いやってのことよ」フローラは弁護した。
「だれもそうでないとは言っていないよ」
「私の問題なの……私が失敗したのよ」
「恋人の間で失敗はありえないよ」マルコはそっと言った。「いいときもあれば悪いときもある、それだけさ」彼は間を置いた。「君がかかえていると思っているその問題も……僕らで一緒に解けばいい」
フローラの声が震えた。「たぶん、無理よ……」
「いや、できるよ。僕が請け合う。だから僕を信じてくれるかい? 信じると言ってくれ」
震えがちな小さな笑い声がもれた。「信じるわ」
「それならなぜいまだに震えているんだい?」
フローラは心で答えた。どんなに怖くなくてもあなたといると震えるのよ。燃えて、ぞくぞくして、うずくの。どんなに経験を積んでもこうなるはずよ。あなたといると、自分でもどうしようもないの。
フローラは喉に引っかかった声で言った。「わかるでしょう……」
マルコが静かに応じた。「たぶんね」
彼は両手でフローラの顔を包み、再びキスを始めたが、軽く誘いかけるだけで、それ以上の要求はしなかった。やがてフローラの体から力が抜け、唇が開いた。マルコはキスを深め、それまで抑えていた飢えを垣間見せた。彼が唇を離したとき、フローラはがっかりしたような気分だった。
マルコは彼女を抱き締めてイタリア語で何かささやき、長い指で彼女の髪や頬や喉をなで続けた。その優しさは安心でもあり誘惑でもあった。
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