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バルタルディの女

バルタルディの女

著: サラ・クレイヴン 翻訳: 杉野さつき
発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:525円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 サラ・クレイヴン(Sara Craven)
 イングランド南西部サウス・デボン生まれ。海辺の家で本に囲まれて育った。グラマースクール卒業後は、地元のジャーナリストとして、フラワーショーから殺人事件まで、あらゆる分野の記事を手がける。ロマンス小説を書き始めたのは一九七五年から。執筆のほかには、映画、音楽、料理、おいしいレストランの食べ歩きなどに情熱を傾けている。サマセット在住。

解説

 路肩に車をとめて嵐が過ぎるのを待っていたクレアは信じられない光景に目をみはった。どしゃ降りの雨の中、若い女性がスーツケースを手に歩いてくる。クレアが声をかけ、車に乗せて話を聞くと、その女性はまだ十七歳で、これから駆け落ちをするという。パオラと名乗った彼女は裕福な家の娘らしい。相手の男性は財産目当てではないかとにらんだクレアは二人が落ち合う駅までパオラを送っていくことにした。途中でぐっすり眠ってしまったパオラを車に残し、クレアは相手の男性と会って正体を見きわめようとした。ところが駅で待っていたのはその男性ではなく、パオラの後見人グイード・バルタルディと……数人の警官だった。

抄録

 頬骨の形はすばらしいけれど……いわゆるハンサムとはいえないわ。クレアはそう評価を下した。彼女を見つめ返している黒い目はきらめいているが、まぶたが少し厚ぼったいし、鼻と顎の線は強すぎる。その厳格な印象とは裏腹に、唇はきりっとしていながらセクシーだ。
 それだけではない。目の前の男には、身に備わった自信が感じられた。何物にも動じない強さ、決してほかの人の命令は受けない王者の強さ。その強さがクレアの胸を高鳴らせていた。
 そばにいる者の心をとらえて支配する力。女性の心を思いのままに惹きつける強い力……。
 パオラが簡単に心を奪われてしまったのも無理はない。こういう男には、胸に“危険につき注意”と書いたカードをぶらさげておくべきよ。
 イタリア語でクレアはきいた。「パオラをお待ちですか?」
「ええ、そうですが」低くて響きのいい声だ。口調は丁寧だったが、男が身構えたのがわかった。充分な距離をとっているにもかかわらず、クレアは怖くてたまらなかった。
 まるで獰猛な虎だわ。今はただ、理性という鎖につながれて、おとなしくしている虎――目的を遂げるためにはどんなことでもする危険な男。この人と対決しようだなんて、わたしはいったい何をしているの? そう思うと恐ろしくなったが、パオラを助けたくて、クレアは気を取り直した。
 男は黒い目でクレアを見据えた。「パオラがどこにいるか知っているんだな?」
「ええ。でも、その前にお話が」
「なるほど。で、きみはどこのだれなのか……」
「そんなことはどうでもいいわ」
「そうはいかない」男の目がクレアの頭のてっぺんから靴の先まで眺めまわし、唇が軽蔑するようにかすかにゆがんだ。
 クレアはそれを気にしている自分に腹が立った。こんな男にどう思われたってかまわないはずでしょう。安っぽい服を着た女になんて興味を持つわけがないんだから。わたしだって、こういう男に用はないわ。それなのに、いったい何を気にしているの?
 男が言った。「こういう人が来るとは思っていなかった」
 クレアは顎を突き出した。「わたしも同じことを言いたいわ」
 男はからかうように首をかしげてみせた。「そうだろうね。それで、パオラはどこだ?」
「安全なところよ」
「よかった」黒い目が激しく燃えて彼女を見つめた。「会わせてもらえるかな?」
「ええ」男の言い方にかすかな当惑を覚えながら、クレアはうなずいた。「でも、その前に話しておきたいことがあるの」
 男はほほ笑んだ。「そう、話してもらおう。だが、話す相手はぼくじゃない」
 男が手で合図をして初めて、クレアは自分の後ろに人がいるのに気づいた。どこから現れたのか、制服姿の警官が二人、銃を構えて立っている。しかも、その銃口は彼女に向けられていた。
 警官がクレアの両腕をつかんで背中にまわし、その手に手錠をかけた。悲鳴をあげようとしたが、喉が引きつって声も出ない。
 恐怖に茫然として、クレアはただ男の顔を見つめるばかりだった。まわりで興奮した声が何事か話している。
 やっとのことでクレアは声を出した。「あなたはだれなの?」
「グイード・バルタルディだ。そして、きみはぼくが後見をする娘を誘拐した犯人の仲間だ」その声が鞭のようにクレアの耳を打った。
「誘拐?」クレアの声は悲鳴に近かった。「頭がおかしいんじゃないの?」
 一瞬の沈黙とグイード・バルタルディが浮かべた当惑の表情から、クレアは自分が英語で話していたことに気づいた。
「おかしいのはきみだ」彼も英語で言い返した。「仲間と一緒に逃げられるとでも思っていたのか?」
「仲間なんていないわ」自分の置かれた状況がやっとわかって、クレアはがたがたと震え始めた。そして、敵意のこもった黒い目をすがるように見返した。「わたしはたまたま通りがかりにパオラを車に乗せてあげただけ、それだけよ」
「侯爵」警官が走ってきた。「お嬢さまは外の車の中です。気を失ってますが、薬をのまされるか何かしたんでしょう。しかし、生きておられます」
「眠っているだけよ。薬なんかのんでないわ」クレアは必死だった。頭の中で“侯爵”という言葉がこだましている。パオラはそれを話してくれていなかった。
「パオラをすぐに病院へ連れていくんだ」侯爵は険しい口調で命令し、再び黒い目をクレアに向けた。「この女は……さっさと連行してくれ。顔を見たくもない」
 クレアは両側から腕をつかまれ、乱暴に出口に引き立てられた。
「待って」クレアは振り返って叫んだ。「間違いよ。あなたはとんでもない思い違いをしてるわ」
「間違いを犯したのはきみだ。償いはたっぷりしてもらう」
 グイード・バルタルディはそれだけ言うと、背を向けた。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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