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妻という名の契約
著: リズ・フィールディング 翻訳: 和香ちか子発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・セレクト
価格:525円(税込)
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著者プロフィール
リズ・フィールディング(Liz Fielding)
イングランド南部バークシャー生まれ。二十歳のときアフリカに渡り、秘書の仕事に就いた。土木技師と結婚し、その後十年間をアフリカと中東で暮らす。夫は激務で、彼の帰宅を待つ長い時間、ものを書いて過ごすうち作家の道に。現在はウェールズに住んでいる。夫とのあいだに二人の子供がある。
イングランド南部バークシャー生まれ。二十歳のときアフリカに渡り、秘書の仕事に就いた。土木技師と結婚し、その後十年間をアフリカと中東で暮らす。夫は激務で、彼の帰宅を待つ長い時間、ものを書いて過ごすうち作家の道に。現在はウェールズに住んでいる。夫とのあいだに二人の子供がある。
解説
なんという偽善者! スティーヴンの葬儀にぬけぬけと現れたガイを見て、フランチェスカは激しい怒りを覚えた。スティーヴンの兄であるにもかかわらず、重い病に倒れた弟を見舞いにさえ来なかった男。3年間、スティーヴンと暮らしてきたフランチェスカは、ガイの冷たい仕打ちを決して許すまいと心に誓っていた。だが、スティーヴンの遺言はそんな彼女の決心を打ち砕いた。信じられないことに、彼はガイにこう頼んでいたのだ。“フランチェスカと結婚し、一生彼女を守ってやってほしい”と。
抄録
ガイは遠くを見つめた。「結婚しないことが二人の関係の破綻から身を守る手段だと信じているなら、考え直したほうがいい。いったん財産と子供がからむと――」
「兄さんの言い分も理解できる。だが、それは金持ちの話だ」“兄さんのような”とまでは言わなかったが、スティーヴの意味することは明らかだった。
「もちろん、それは君たち次第さ」ガイはそう言ったものの、フランチェスカも同じ気持ちなのだろうかと疑問を抱いた。彼女はさっきから黙ったままだ。「ただ、よく考えてからにしたほうがいい」
口元に持ちあげ、キスをした。そして、笑顔で言った。「どうしても兄さんぶりたいなら、シャンパンでもおごってくれよ」
スティーヴのほのめかしていることは明白だった。“このことは兄さんには関係ない。彼女のおなかにいるのは僕の子供なのだから”
その夜について思い出せるのはそれだけだった。自分が弟の立場になれるなら、ガイはすべてをなげうっただろう。これまでの経歴も、友人たちと設立した会社も、実母から相続した財産も。テーブルの向こう側に座り、フランチェスカを守るように椅子の背に腕をかけ、彼女のおなかには自分の赤ん坊がいると宣言できるなら。
まったくばかげた話だ。フランチェスカとは会ったばかりで、まだろくに言葉も交わしてもいないというのに。ガイがスティーヴの兄だとわかった瞬間、フランチェスカの百ワットの笑顔は一気に輝きを失った。スティーヴは自分の不幸な生い立ちについて、あることないことを彼女に語って聞かせたに違いない。裕福な異父兄は、彼を心から愛している母親を含めて自分にないものをすべて持っているのだと。
だが、たいした違いはなかった。四十ワットの笑顔でもガイの心は十分明るくなったのだから。
「本当に一人で大丈夫?」
「平気よ、マティ。今日は新たな人生のスタートにぴったりの日だわ」
フランチェスカはジャケットの襟を整えながら、廊下の鏡で自分の姿を点検した。黒のスーツに、完璧に整えた髪。目の下の濃い隈を抜きにすれば、一分の隙もないビジネスウーマンに見える。これならスティーヴンも満足してくれるだろう。彼はよく、イメージがすべてだと言っていた。外見や話し方が自信に満ちていれば、人々は信用を抱くものだと。フランチェスカがスティーヴンの会社のオフィスに足を踏み入れるのは三年ぶりだが、子供を産んだからといって脳が衰えたわけではない。少なくとも、そうひどくは。
今、オフィスでは従業員たちが私を待っている。私が“なにも心配いらないわ”と請け合うのを。
「まずは弁護士と事務的な手続きをすませてから、オフィスに行くわ」
弁護士の秘書がフランチェスカの到着を告げたとき、ガイもそこに着いたばかりだった。彼女はガイの姿を見るなり戸口で足をとめたが、今回は時間のとまるような瞬間は訪れなかった。乱れた髪も、ずりあがったスカートも、あらわになった脚もない。そしてもちろん、フランチェスカは口元に笑みを浮かべてガイを見つめたりしなかった。
フランチェスカがどれほどやせたか、ガイはそのとき初めて実感した。髪も以前より淡いブロンドになった気がする。
あの夜のフランチェスカは鮮やかな色彩に満ちていたが、今の彼女にはまったく色彩が感じられず、目の下の濃い隈が青白い顔色をいっそう強調していた。フランチェスカはガイに気づくと瞳に怒りの炎を浮かべた。
「なぜ彼がここにいるの?」フランチェスカは完全にガイを無視し、出迎えた弁護士のトム・パーマーをにらみつけた。
「ガイは君の……スティーヴンの遺言執行人だ。遺言がきちんと執行されるか見届けるのが彼の務めなんだよ」
フランチェスカは美しい銀色の瞳をガイに向けた。「だからあなたはわざわざ僻地から駆けつけてきたというわけね。遺産を守るために」
「弟は君とトビーに全財産を残したはずだ。彼の願いがなんであろうと、それが実行されるのを確認するのが僕の唯一の義務さ」
トムは職業柄こんな内輪もめには慣れているらしく、冷静に口をはさんだ。「こちらに来て座ってくれ、フラン。コーヒーか紅茶でも飲むかい?」
「いいえ、せっかくだけど。さっさと片づけてしまいましょう。今日はとても忙しいの」
「わかった。遺言自体はいたって簡単なものだ」トムはファイルを開いた。「その前に、これはスティーヴンが君に残した手紙だよ、ガイ」
ガイは無言で手紙をポケットにしまった。
「読まないの?」フランチェスカは鋭く尋ねた。
「あとで読む」スティーヴのような、几帳面とはほど遠い性格の男が死を悟った際にあえて手紙を書き残したのなら、ガイはそれを一人でゆっくり読みたかった。「始めてくれ、トム」
*この続きは製品版でお楽しみください。
「兄さんの言い分も理解できる。だが、それは金持ちの話だ」“兄さんのような”とまでは言わなかったが、スティーヴの意味することは明らかだった。
「もちろん、それは君たち次第さ」ガイはそう言ったものの、フランチェスカも同じ気持ちなのだろうかと疑問を抱いた。彼女はさっきから黙ったままだ。「ただ、よく考えてからにしたほうがいい」
口元に持ちあげ、キスをした。そして、笑顔で言った。「どうしても兄さんぶりたいなら、シャンパンでもおごってくれよ」
スティーヴのほのめかしていることは明白だった。“このことは兄さんには関係ない。彼女のおなかにいるのは僕の子供なのだから”
その夜について思い出せるのはそれだけだった。自分が弟の立場になれるなら、ガイはすべてをなげうっただろう。これまでの経歴も、友人たちと設立した会社も、実母から相続した財産も。テーブルの向こう側に座り、フランチェスカを守るように椅子の背に腕をかけ、彼女のおなかには自分の赤ん坊がいると宣言できるなら。
まったくばかげた話だ。フランチェスカとは会ったばかりで、まだろくに言葉も交わしてもいないというのに。ガイがスティーヴの兄だとわかった瞬間、フランチェスカの百ワットの笑顔は一気に輝きを失った。スティーヴは自分の不幸な生い立ちについて、あることないことを彼女に語って聞かせたに違いない。裕福な異父兄は、彼を心から愛している母親を含めて自分にないものをすべて持っているのだと。
だが、たいした違いはなかった。四十ワットの笑顔でもガイの心は十分明るくなったのだから。
「本当に一人で大丈夫?」
「平気よ、マティ。今日は新たな人生のスタートにぴったりの日だわ」
フランチェスカはジャケットの襟を整えながら、廊下の鏡で自分の姿を点検した。黒のスーツに、完璧に整えた髪。目の下の濃い隈を抜きにすれば、一分の隙もないビジネスウーマンに見える。これならスティーヴンも満足してくれるだろう。彼はよく、イメージがすべてだと言っていた。外見や話し方が自信に満ちていれば、人々は信用を抱くものだと。フランチェスカがスティーヴンの会社のオフィスに足を踏み入れるのは三年ぶりだが、子供を産んだからといって脳が衰えたわけではない。少なくとも、そうひどくは。
今、オフィスでは従業員たちが私を待っている。私が“なにも心配いらないわ”と請け合うのを。
「まずは弁護士と事務的な手続きをすませてから、オフィスに行くわ」
弁護士の秘書がフランチェスカの到着を告げたとき、ガイもそこに着いたばかりだった。彼女はガイの姿を見るなり戸口で足をとめたが、今回は時間のとまるような瞬間は訪れなかった。乱れた髪も、ずりあがったスカートも、あらわになった脚もない。そしてもちろん、フランチェスカは口元に笑みを浮かべてガイを見つめたりしなかった。
フランチェスカがどれほどやせたか、ガイはそのとき初めて実感した。髪も以前より淡いブロンドになった気がする。
あの夜のフランチェスカは鮮やかな色彩に満ちていたが、今の彼女にはまったく色彩が感じられず、目の下の濃い隈が青白い顔色をいっそう強調していた。フランチェスカはガイに気づくと瞳に怒りの炎を浮かべた。
「なぜ彼がここにいるの?」フランチェスカは完全にガイを無視し、出迎えた弁護士のトム・パーマーをにらみつけた。
「ガイは君の……スティーヴンの遺言執行人だ。遺言がきちんと執行されるか見届けるのが彼の務めなんだよ」
フランチェスカは美しい銀色の瞳をガイに向けた。「だからあなたはわざわざ僻地から駆けつけてきたというわけね。遺産を守るために」
「弟は君とトビーに全財産を残したはずだ。彼の願いがなんであろうと、それが実行されるのを確認するのが僕の唯一の義務さ」
トムは職業柄こんな内輪もめには慣れているらしく、冷静に口をはさんだ。「こちらに来て座ってくれ、フラン。コーヒーか紅茶でも飲むかい?」
「いいえ、せっかくだけど。さっさと片づけてしまいましょう。今日はとても忙しいの」
「わかった。遺言自体はいたって簡単なものだ」トムはファイルを開いた。「その前に、これはスティーヴンが君に残した手紙だよ、ガイ」
ガイは無言で手紙をポケットにしまった。
「読まないの?」フランチェスカは鋭く尋ねた。
「あとで読む」スティーヴのような、几帳面とはほど遠い性格の男が死を悟った際にあえて手紙を書き残したのなら、ガイはそれを一人でゆっくり読みたかった。「始めてくれ、トム」
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