和書>小説・ノンフィクション>ハーレクイン>ハーレクイン・ロマンス
著者プロフィール
アビー・グリーン(Abby Green)
ロンドン生まれだが、幼少時にアイルランドに移り住む。十代のころに、祖母の愛読していたハーレクインのロマンス小説に夢中になり、宿題を早急に片づけて読書する時間を捻出していた。短編映画のアシスタント・ディレクターという職を得るが、多忙な毎日の中でもハーレクインの小説への熱はますます募り、ある日辞職して、小説を書きはじめた。
ロンドン生まれだが、幼少時にアイルランドに移り住む。十代のころに、祖母の愛読していたハーレクインのロマンス小説に夢中になり、宿題を早急に片づけて読書する時間を捻出していた。短編映画のアシスタント・ディレクターという職を得るが、多忙な毎日の中でもハーレクインの小説への熱はますます募り、ある日辞職して、小説を書きはじめた。
解説
ある慈善イベントで、ケイトのキスが高額で競り落とされた。上品な雰囲気の黒髪の紳士がステージに向かって歩いてくる。その顔が見えたとき、ケイトの心臓は跳ね上がった。ティアナン・クイン! 私の初恋を踏みにじった、親友の兄。10年前、情熱的なキスののちにきっぱり拒絶されて以来、自信喪失してすっかり男の人は苦手になってしまった。これまで慎重に彼を避けてきたのに、会えば今も心の傷は疼く。私とのキスに何十万ドルもの大金を払うなんて、どういうつもり? すると彼は壇上のケイトをぐっと引き寄せ、その場で権利を行使した。次の瞬間、ケイトは18歳に戻り、激しくキスを返していた……。
■2010年にデビュー以来、ドラマティックな作風でファンを増やしている新進気鋭のアビー・グリーン。長いあいだ忘れようとして忘れられなかった男性への想いを、繊細な筆で綴ります。
■2010年にデビュー以来、ドラマティックな作風でファンを増やしている新進気鋭のアビー・グリーン。長いあいだ忘れようとして忘れられなかった男性への想いを、繊細な筆で綴ります。
抄録
一瞬、刺すような痛みに襲われた。自分が彼の好みでないとわかっているのは、とてもおしゃれなティアナンの恋人を間近で見たことがあるからだ。今でも思い出すと気後れする。ダブリンからニューヨークを訪ねてきた女友達と出かけて、女だけのパーティを開いたときのことだ。ケイトは気が進まなかったけれど、セクシーなメイドの格好をして網タイツをはき、きらきら光るはたきを持っていた。そして、マディソン街の高級レストランから出てきたティアナンにぶつかった。彼は小柄なブルネットの美人をしっかり抱きかかえていた。
ケイトは恥ずかしくて、彼に気づかれませんようにと祈りながら、その場を逃げ出そうとした。けれど間の悪いことに、友人の一人がわざわざその瞬間に近くの側溝で嘔吐を始めた。あのときのティアナンと連れの美人の顔は、忘れることができない。
ティアナンの前で情けなくみじめな醜態をさらしたという苦い思いで、ケイトの体は熱くなった。今、その彼がこちらに向かって歩いてくる。階段を上がって、近づいてくる。ケイトはパニックに陥りそうになった。
すぐ隣にいる俳優が恐れをなしたようすでなにか言っているのにも、ほとんど気づかなかった。ティアナン・クインという名が聞こえるたびに、すべてがのしかかってくるようで、心臓はとまりそうだった。ステージに上がってさらに近づいてきた彼は、目を細くし、じっと彼女を見据えた。
一刻も早くこの男性から逃げなさい、と本能は叫んでいた。でも、できなかった。まるでヘッドライトに照らされて立ちすくむ鹿のように不意をつかれ、動けなかった。
「ケイト」ティアナンの低い声はあまりにも懐かしく、ケイトの胸の内のもろい部分にずしりとこたえた。心拍数がはねあがる。「こんなところで君に会えるとは奇妙だな」
ケイトはなんとか声を出した。「ティアナン……落札者はあなただったの?」
じっとケイトを見据えたまま、ティアナンはうなずいた。長いことこの男性から逃げていたけれど、それも今夜で終わりだ、とケイトは確信した。逃げるどころか、私はずっと彼にとらわれていた。奇妙なくらい熱いなにかが下腹部に渦巻いていたが、ティアナンを意識しているとは悟られないよう、必死にあらゆる感情を封じこめた。
目にもとまらぬ速さでそばにやってきたティアナンが、ケイトの腰に手をかけ、胸のすぐ下を親指でかすめた。何年も触れられるのを拒んできたためか、ケイトはひどいショックを受けた。思わずティアナンの腕をつかんで自分を支える。高価そうなスーツの下の力強い筋肉を感じ取ってとろけそうになり、ぼんやりと彼を見あげた。こんなふうに向き合っているのが、まだ信じられない。あまりに衝撃的で、いつもみたいに心の壁を張りめぐらす余裕さえなかった。
とても背が高く、そびえたつようなティアナンのそばにいると、ケイトは自分を小さくか弱く感じた。ゆっくりと時間が過ぎていく中、聞こえるのは二人の息遣いだけ。けれどこれは今、現実に起こっていることなのだ。ケイトは妙に冷静な頭で考えた。会場にいる誰一人として、二人の間に流れているものに気づいていなくても。少なくとも、そうでありますように。
「君は僕にキスする義務があるだろう?」
言い方は気軽だったが、ケイトの腰をつかんでいる手は温かくがっしりしていて、キスせずに逃げるなど許さないと言わんばかりだった。激しくうろたえながらも、ケイトはうなずいた。サンフランシスコの富も権力もある人たちの前で、ほかになにができる? 最終的に彼はいくら払ったのだろう?
きっと彼はキス以上のものを要求してくるはずだ。
ティアナンがケイトをいっそう引き寄せた。ティアナンの顔が近づいてきて、胸から顔に熱が広がる。不意をつかれてどうすることもできず、まぶたを震わせて本能的に目を閉じた。必死に忘れようとしたのに忘れられなかった男性が、官能的な唇をしっかりと押しつけてくる。こんなふうにキスをしてから、十年がたっていた。次の瞬間、ケイトは十八歳の自分に戻り、激しくキスを返していた。
ケイトは震える指で唇に触れた。まだひりひりしている。いきなりあのころに引き戻され、悪夢に等しい思い出がよみがえっていた。すっかりきまり悪くなり、隙を見てさっさと会場を逃げ出したのだった。
唇が重なった直後、ステージの後方でひしめき合っていたマスコミがいっせいにフラッシュをたいた。その中で、ケイトはキスの余韻にくらくらしつつも、うつろな笑みを浮かべてただ立ちつくしていた。肘をつかむティアナンの手は温かく、存在感は圧倒的だった。なぜ彼がここにいるのか、まださっぱりわからなかったが、ぐずぐずと話をする余裕はなかった。そして、ケイトは駆け出した。ニューヨークでのあの夜のように。
*この続きは製品版でお楽しみください。
ケイトは恥ずかしくて、彼に気づかれませんようにと祈りながら、その場を逃げ出そうとした。けれど間の悪いことに、友人の一人がわざわざその瞬間に近くの側溝で嘔吐を始めた。あのときのティアナンと連れの美人の顔は、忘れることができない。
ティアナンの前で情けなくみじめな醜態をさらしたという苦い思いで、ケイトの体は熱くなった。今、その彼がこちらに向かって歩いてくる。階段を上がって、近づいてくる。ケイトはパニックに陥りそうになった。
すぐ隣にいる俳優が恐れをなしたようすでなにか言っているのにも、ほとんど気づかなかった。ティアナン・クインという名が聞こえるたびに、すべてがのしかかってくるようで、心臓はとまりそうだった。ステージに上がってさらに近づいてきた彼は、目を細くし、じっと彼女を見据えた。
一刻も早くこの男性から逃げなさい、と本能は叫んでいた。でも、できなかった。まるでヘッドライトに照らされて立ちすくむ鹿のように不意をつかれ、動けなかった。
「ケイト」ティアナンの低い声はあまりにも懐かしく、ケイトの胸の内のもろい部分にずしりとこたえた。心拍数がはねあがる。「こんなところで君に会えるとは奇妙だな」
ケイトはなんとか声を出した。「ティアナン……落札者はあなただったの?」
じっとケイトを見据えたまま、ティアナンはうなずいた。長いことこの男性から逃げていたけれど、それも今夜で終わりだ、とケイトは確信した。逃げるどころか、私はずっと彼にとらわれていた。奇妙なくらい熱いなにかが下腹部に渦巻いていたが、ティアナンを意識しているとは悟られないよう、必死にあらゆる感情を封じこめた。
目にもとまらぬ速さでそばにやってきたティアナンが、ケイトの腰に手をかけ、胸のすぐ下を親指でかすめた。何年も触れられるのを拒んできたためか、ケイトはひどいショックを受けた。思わずティアナンの腕をつかんで自分を支える。高価そうなスーツの下の力強い筋肉を感じ取ってとろけそうになり、ぼんやりと彼を見あげた。こんなふうに向き合っているのが、まだ信じられない。あまりに衝撃的で、いつもみたいに心の壁を張りめぐらす余裕さえなかった。
とても背が高く、そびえたつようなティアナンのそばにいると、ケイトは自分を小さくか弱く感じた。ゆっくりと時間が過ぎていく中、聞こえるのは二人の息遣いだけ。けれどこれは今、現実に起こっていることなのだ。ケイトは妙に冷静な頭で考えた。会場にいる誰一人として、二人の間に流れているものに気づいていなくても。少なくとも、そうでありますように。
「君は僕にキスする義務があるだろう?」
言い方は気軽だったが、ケイトの腰をつかんでいる手は温かくがっしりしていて、キスせずに逃げるなど許さないと言わんばかりだった。激しくうろたえながらも、ケイトはうなずいた。サンフランシスコの富も権力もある人たちの前で、ほかになにができる? 最終的に彼はいくら払ったのだろう?
きっと彼はキス以上のものを要求してくるはずだ。
ティアナンがケイトをいっそう引き寄せた。ティアナンの顔が近づいてきて、胸から顔に熱が広がる。不意をつかれてどうすることもできず、まぶたを震わせて本能的に目を閉じた。必死に忘れようとしたのに忘れられなかった男性が、官能的な唇をしっかりと押しつけてくる。こんなふうにキスをしてから、十年がたっていた。次の瞬間、ケイトは十八歳の自分に戻り、激しくキスを返していた。
ケイトは震える指で唇に触れた。まだひりひりしている。いきなりあのころに引き戻され、悪夢に等しい思い出がよみがえっていた。すっかりきまり悪くなり、隙を見てさっさと会場を逃げ出したのだった。
唇が重なった直後、ステージの後方でひしめき合っていたマスコミがいっせいにフラッシュをたいた。その中で、ケイトはキスの余韻にくらくらしつつも、うつろな笑みを浮かべてただ立ちつくしていた。肘をつかむティアナンの手は温かく、存在感は圧倒的だった。なぜ彼がここにいるのか、まださっぱりわからなかったが、ぐずぐずと話をする余裕はなかった。そして、ケイトは駆け出した。ニューヨークでのあの夜のように。
*この続きは製品版でお楽しみください。
本の情報
紙書籍初版: 2011/10/20
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