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忘れるための7日間 理想の恋のお値段は?II

忘れるための7日間 理想の恋のお値段は?II

著: エミリー・ローズ 翻訳: 西山ゆう
発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ディザイア理想の恋のお値段は?
価格:630円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 エミリー・ローズ(Emilie Rose)
 大学生のころからつき合っていた夫と四人の息子とともに、ノースカロライナで暮らす。十二歳のころからロマンス小説が好きだった。趣味はキルトづくり、料理(特にチーズケーキが得意)、そしてカウボーイに関すること。息子たちの野球の試合を熱心に観戦する母でもある。

解説

 オークション会場に現れたクレイの姿にアンドレアの目は釘づけになった。8年前、理由も告げずに私の前から消えた恋人。傷ついた過去が強烈によみがえる。以来、私はどんな男性とも深い関わりを持てずにいる。私の人生はこのまま終わるの? 仕事だけを生きがいに生きていくの? そんなの絶対にいや! そうならない方法はこれしかない。アンドレアが選んだのは、クレイとの“魅惑の黄昏デート7回分”の権利を落札することだった。
 ■8年ぶりに再会した元恋人とのデートに臨んだアンドレア。黄昏の海辺はロマンチックすぎて、苦い恋を忘れるどころか情熱の日々を思い出してしまい……。〈理想の恋のお値段は? 〉来月の最終話では、結婚式で花嫁に逃げられた訳ありの銀行副頭取が出品されます。

抄録

 クレイはテーブルに目をやった。料理はまだ来ていない。「リピーターがいるのはいいことだ」
 アンドレアがやさしくほほえみ、クレイは落ち着かなくなった。「ええ。トビーはいつも楽しい人よ。どの工程でも細かく指示を出すの。船の完成には一年近くかかるから、私たちは彼に何度も会うんだけど、みんな彼が来るのを楽しみにしているわ」
 へインズは彼女にちょっかいを出したんだろうか。彼女もあの男の訪問を楽しみにしているのか? クレイの情熱の残り火がくすぶった。考えるな。自分は八年前にその権利を捨てたのだ。だが、かすかな嫉妬心は否めず、彼は自分に腹を立てた。
 クレイはもう一度アンドレアをターンさせたが、上の空だったせいで後退すべきところを前進してしまい、体がぶつかった。あわてて彼女を支えようと両腕をまわすと、やわらかな曲線が彼の体と溶け合った。肺と心臓が動きを止め、全身の細胞が張り詰めた。この町を去ることになった原因をいまだけ忘れてしまうのはたやすいことだ。
 彼女があえいだ。キャラメル色の目がクレイを見つめ、息が彼の顎をかすめる。演奏は続いているが、彼はダンスを続けることができなかった。アンドレアを抱き締めていると家に戻ったような気がする。
 意識しなくても、唇がアンドレアの唇をとらえていた。シャンパンの大瓶を振ったような快感がはじけ、彼女のウエストをつかむ指に力がこもった。クレイの舌はアンドレアの下唇を這い、温かい口の中に忍び込んだ。懐かしい味がする。何年もたつのに、なぜ彼女の味を思い出せるんだ?
 アンドレアが身をゆだねてきた。彼の舌を、背中を、思い出を試し、とらえ、撫でる。彼のキスに情熱的なキスで応えてきた。ああ、なんてすばらしいんだ。滑らかで甘くて熱く、ほのかにシャンパンの味がする。欲望が抑えられなくなり、クレイの胸の奥からうなり声があがった。
 背中に爪を立てられ、彼は燃え上がった。アンドレアのヒップを両手で包み、引き寄せた。耳の中で轟音がする。僕の鼓動か? いや、拍手の音だ。
 クレイはぱっと身を引いた。多くのカップルは演奏を終えたバンドに拍手しているが、クレイとアンドレアのほうにやさしい笑みを向ける客もいる。
 しまった。やはり戻ってくるべきじゃなかった。過去を消すことはできないし、また、過去に戻りたいともけっして思わない。
 今度胸が張り裂けたら耐えられないだろうから。

 ああ、もう。私はまだクレイを忘れていなかった。
 いいえ、ちがう。彼女は頭の中の声をひそかに打ち消した。私の体が覚えていた。それだけのこと。
 私はクレイトン・ディーンを忘れた。
 完全に。
 アンドレアは一歩下がり、クレイと押し寄せてくる思い出から心身ともに離れた。同時に、自分の性衝動が冬眠していただけだと悟った。よかったわ。スイッチが永遠にオフになったままかと思った。
 めまいと高鳴る鼓動をこらえ、アンドレアは息を吸い、ほてった頬を覆いたくなる衝動と戦った。代わりにこぶしを固めた。「お料理が来ているわ」
 クレイの顔を見てもなにもうかがえない。先に歩くよう促され、アンドレアは震える足でフロアを横切った。
 わずか一日で計画に穴が空くなんて。どこでまちがえたのかしら? アンドレアは練りに練った計画を無視した裏切り者の体を叱りつけた。クレイに私を欲しいと思わせるはずが、私の血が騒ぎ、肌がほてっているのは否定しようがない。彼に応えたのがシャンパンのせいではないことも。
 クレイに恋をしてもどうにもならない。彼が八年前の深い関係を一時的に再開しようと思っているなら、大まちがいだ。一時しのぎの関係はもうたくさん。次こそ長続きする関係を築きたい。ただし、クレイとではなく。二度と彼の約束は信じられない。
 アンドレアはテーブルに戻って驚いた。アトリウムを縁取る白の電球がいつのまにか灯っていたのだ。クレイに夢中になっていて気づかなかった。星空の下にいるようだ。ロマンチックだわ。ロマンチックすぎる。でも、ここは川の真ん中だから船を降りられないし、川に飛び込むわけにもいかない。
 アンドレアは腕時計を盗み見た。あと二時間。プライムリブに集中しようと、ナプキンを膝に広げた。
 「謝ったほうがいいかな?」
 かすれた声がして、アンドレアの心臓が止まりかけた。ぱっと顔を上げると、彼の濃いブルーの目に後悔の念が満ちていた。彼女はそれがつらかった。
 私はクレイになにを期待しているの? あやまちを悟って、永遠の愛を告白してほしいとか? とんでもない。望むのは新たな始まりではなく、終わりなのに。私は頼りになる男性を求めている。失望させる男性ではない。クレイは自分の責任ばかりか私まであっさりと捨て去った。
 アンドレアは無理に笑って軽い口調で言った。「キスしたことを謝るの? やめてちょうだい。前は数え切れないほどしたでしょう。でも、今後は一緒に働くんだから二度とあんな真似はしないで」

 クレイはランニングが得意な自分がいやになった。走ることが嫌いなのではなく、走りながら頭の中でトラブルを招きそうなやりとりをかわしてしまう自分が嫌いなのだ。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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