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運命のバカンス
著: アイリーン・ウィルクス 翻訳: 神鳥奈穂子発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ディザイア
価格:525円(税込)
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著者プロフィール
アイリーン・ウィルクス(Eileen Wilks)
1996年の初作でいきなりUSAトゥデイのベストセラーリストに載り、鮮烈なデビューを果たした。これまでに二度、RITA賞最終選考の候補として名が挙がる。数々の雑誌や作家から賛辞を受け、90年以上の歴史を誇るアメリカのレビュー専門誌『ブックリスト』は、彼女の作品は“ノーラ・ロバーツが好きなロマンス読者の心にきっと響くはずだ”と評している。
1996年の初作でいきなりUSAトゥデイのベストセラーリストに載り、鮮烈なデビューを果たした。これまでに二度、RITA賞最終選考の候補として名が挙がる。数々の雑誌や作家から賛辞を受け、90年以上の歴史を誇るアメリカのレビュー専門誌『ブックリスト』は、彼女の作品は“ノーラ・ロバーツが好きなロマンス読者の心にきっと響くはずだ”と評している。
解説
★二十九年間、平凡だった彼女の人生はバカンスを機に変わりはじめた。★
ジェーンはカンザスでスペイン語を教える高校教師。名前と同じように平凡で、男性にふりむいてもらえない自分にうんざりしていた。そこで、自分を変えようと南の島への一人旅を思いたったが観光の途中でトラブルに巻きこまれ、地元の兵士に追われて命からがら逃げまどうはめにおちいった。しかも、危ないところを救ってくれた謎めいた男性に心を奪われ、情熱的に愛をかわしてしまった。名前も告げずに立ち去った彼を忘れられぬままカンザスに戻ったジェーンは、今までどおりの変化のない生活を送る……はずだった。かつて感じたことのない体調の異変に気がつくまでは。
ジェーンはカンザスでスペイン語を教える高校教師。名前と同じように平凡で、男性にふりむいてもらえない自分にうんざりしていた。そこで、自分を変えようと南の島への一人旅を思いたったが観光の途中でトラブルに巻きこまれ、地元の兵士に追われて命からがら逃げまどうはめにおちいった。しかも、危ないところを救ってくれた謎めいた男性に心を奪われ、情熱的に愛をかわしてしまった。名前も告げずに立ち去った彼を忘れられぬままカンザスに戻ったジェーンは、今までどおりの変化のない生活を送る……はずだった。かつて感じたことのない体調の異変に気がつくまでは。
抄録
ジェーンは気を失うかと思った。
いつの間にか固く握りしめていたジェーンの拳の横で、蛇はちろりと舌を見せた。彼女は必死で、私は植物よ、と蛇に念じた。食べられないのよ……。
蛇の舌がジェーンの手をかすめた。ジェーンは息を止めた。目の前がかすんでくる。
それでもジェーンは動かなかった。
蛇はジェーンの手から離れて、のんびりと茂みの方へ這っていき、草むらの中に姿を消した。
すると、ジェーンの手にジョンの手が重ねられた。
ジェーンがふり向くと、彼はうなずいた。そして腹這いのまま、後ずさりはじめた。はっとして彼女は谷の方を見下ろした。蛇に気を取られている間に、兵士たちの姿は見えなくなっていた。
ジェーンもあわてて後ずさった。
どうにか立てる場所に来ると、ジョンはまたジェーンの手を取った。
二人は手をつないで、走りだした。冷静なジョンがこれほど急ぐからには、きっと理にかなったわけがあるはずだ。ジェーンのほうは、ただもう走れるのが嬉しくて走った。もう、虫も兵士も蛇もたくさんだ。熱帯林など見たくもない。だがどれほど走っても、熱帯林から逃れることはできなかった。
ジョンは速度を落とし、小さな日だまりになった空き地で足を止めた。土の加減のせいか、そこだけ木が少なく、草地に日光が差している。頭上には、弧を描く枝に囲まれて青空が見えた。
「私なら大丈夫、まだ走れるわ」ジェーンは脇腹を押さえ、あえぎながら言った。
「これだけ逃げれば十分だ」
「私……私……」悔しいことに、ジェーンが息も絶え絶えなのに、ジョンのほうは息が切れるどころか、髪の毛一本乱れていない。「私は蛇が大嫌いなの!」ジェーンは叫んだ。「それなのに逃げられなかった。動いたら噛まれると思って……」ジェーンはしゃくり上げるように言った。
「わかってる」ジョンは、そっとジェーンを胸に抱き寄せた。「君は蛇が嫌いなんだね」
温かくがっしりとしたジョンの胸に、ジェーンは思わずしがみついた。空気不足で頭がくらくらする。「私のこと、笑ったりしないでね」ジェーンは言った。「もし笑ったら、殺すわよ」
「笑ったりしないさ」ジョンは請け合うと、そっとジェーンの背中を撫でた。「君はよくやった。本当によく頑張ったよ。もし君が蛇を刺激していたら、僕は死んでいただろう。君は僕の命の恩人だ」
私がジョンの命の恩人ですって? そう思うと、ジェーンはますます頭がくらくらした。「それじゃ、あれは毒蛇だったの?」
「あれはたぶんアメリカハブだ。僕も本物を見たのは初めてだから確かじゃないが、ラテンアメリカに住む毒蛇の一種なのは間違いない」
ジェーンは疑わしそうに身を引いた。「ずいぶん詳しいのね。あなたは……爬虫類学者か何かなの?」
「僕の職業はスパイということで、意見が一致したと思ったんだがな」神妙な顔つきだったが、ジョンの目は笑っていた。
「やっぱり私のことを笑ってるのね」
「そんなに怯えた声を出すからだ」
「スパイという仕事の必要性はわかるわ。でも、どうして蛇の研究なんかしたがる人がいるの――」
ジョンがくすりと笑った。
ジェーンは一瞬、わざと怒った顔をしてみせたが、すぐに自分で自分の言ったことがおかしくなって、くすくすと笑いだし、やがてこらえきれずに大声で笑いだした。自分が生命ある世界の一部であるのが嬉しくてたまらなかった。
ジョンは笑わず、ただ目を暗くけぶらせた。涙が出るほど笑っていたジェーンは、それに気づくのが精いっぱいで、心の準備はまるでできていなかった。
いきなりジョンに唇を奪われ、ジェーンの笑い声は止まった。
ジョンの唇はなめらかで力強く、胸いっぱいに吸い込んだ彼の匂いは、ワインのようにジェーンを酔わせた。ジョンはジェーンの抗議など取り合わず、押しのけようとした手も、軽く片手で払いのけた。そしてもう一方の腕を彼女の腰に回して抱き寄せた。
あまりにも急な展開だった。ゲリラに追われ、蛇におののき、大笑いしたかと思ったら、今度は容赦ないキスに膝の力が抜け、魂が揺さぶられている。丸一日、なじみのある世界からまったく切り離されたあと、不意に込み上げた官能の嵐にとらえられて、ジェーンはあらがいがたい怒濤の中に放り込まれた。
脚を割ってジョンが腿を押しつけてきたとき、ジェーンの耳に自分の悩ましい声が聞こえた。信じられないが、せがむような低いうめき声は、まぎれもなく自分の声だ。これ以上こんなことをするわけにはいかない。だがジョンはさらに腿を押しつけると、ジェーンの唇を舌でたどりながら、今度は両手で彼女の腰を愛撫し、持ち上げて自分の腿にまたがらせた。ジョンの腿は波がうねるように動き、ジェーンの心を海にいざない、熱い興奮をかきたてた。
ジェーンが欲しいものはただ一つだった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
いつの間にか固く握りしめていたジェーンの拳の横で、蛇はちろりと舌を見せた。彼女は必死で、私は植物よ、と蛇に念じた。食べられないのよ……。
蛇の舌がジェーンの手をかすめた。ジェーンは息を止めた。目の前がかすんでくる。
それでもジェーンは動かなかった。
蛇はジェーンの手から離れて、のんびりと茂みの方へ這っていき、草むらの中に姿を消した。
すると、ジェーンの手にジョンの手が重ねられた。
ジェーンがふり向くと、彼はうなずいた。そして腹這いのまま、後ずさりはじめた。はっとして彼女は谷の方を見下ろした。蛇に気を取られている間に、兵士たちの姿は見えなくなっていた。
ジェーンもあわてて後ずさった。
どうにか立てる場所に来ると、ジョンはまたジェーンの手を取った。
二人は手をつないで、走りだした。冷静なジョンがこれほど急ぐからには、きっと理にかなったわけがあるはずだ。ジェーンのほうは、ただもう走れるのが嬉しくて走った。もう、虫も兵士も蛇もたくさんだ。熱帯林など見たくもない。だがどれほど走っても、熱帯林から逃れることはできなかった。
ジョンは速度を落とし、小さな日だまりになった空き地で足を止めた。土の加減のせいか、そこだけ木が少なく、草地に日光が差している。頭上には、弧を描く枝に囲まれて青空が見えた。
「私なら大丈夫、まだ走れるわ」ジェーンは脇腹を押さえ、あえぎながら言った。
「これだけ逃げれば十分だ」
「私……私……」悔しいことに、ジェーンが息も絶え絶えなのに、ジョンのほうは息が切れるどころか、髪の毛一本乱れていない。「私は蛇が大嫌いなの!」ジェーンは叫んだ。「それなのに逃げられなかった。動いたら噛まれると思って……」ジェーンはしゃくり上げるように言った。
「わかってる」ジョンは、そっとジェーンを胸に抱き寄せた。「君は蛇が嫌いなんだね」
温かくがっしりとしたジョンの胸に、ジェーンは思わずしがみついた。空気不足で頭がくらくらする。「私のこと、笑ったりしないでね」ジェーンは言った。「もし笑ったら、殺すわよ」
「笑ったりしないさ」ジョンは請け合うと、そっとジェーンの背中を撫でた。「君はよくやった。本当によく頑張ったよ。もし君が蛇を刺激していたら、僕は死んでいただろう。君は僕の命の恩人だ」
私がジョンの命の恩人ですって? そう思うと、ジェーンはますます頭がくらくらした。「それじゃ、あれは毒蛇だったの?」
「あれはたぶんアメリカハブだ。僕も本物を見たのは初めてだから確かじゃないが、ラテンアメリカに住む毒蛇の一種なのは間違いない」
ジェーンは疑わしそうに身を引いた。「ずいぶん詳しいのね。あなたは……爬虫類学者か何かなの?」
「僕の職業はスパイということで、意見が一致したと思ったんだがな」神妙な顔つきだったが、ジョンの目は笑っていた。
「やっぱり私のことを笑ってるのね」
「そんなに怯えた声を出すからだ」
「スパイという仕事の必要性はわかるわ。でも、どうして蛇の研究なんかしたがる人がいるの――」
ジョンがくすりと笑った。
ジェーンは一瞬、わざと怒った顔をしてみせたが、すぐに自分で自分の言ったことがおかしくなって、くすくすと笑いだし、やがてこらえきれずに大声で笑いだした。自分が生命ある世界の一部であるのが嬉しくてたまらなかった。
ジョンは笑わず、ただ目を暗くけぶらせた。涙が出るほど笑っていたジェーンは、それに気づくのが精いっぱいで、心の準備はまるでできていなかった。
いきなりジョンに唇を奪われ、ジェーンの笑い声は止まった。
ジョンの唇はなめらかで力強く、胸いっぱいに吸い込んだ彼の匂いは、ワインのようにジェーンを酔わせた。ジョンはジェーンの抗議など取り合わず、押しのけようとした手も、軽く片手で払いのけた。そしてもう一方の腕を彼女の腰に回して抱き寄せた。
あまりにも急な展開だった。ゲリラに追われ、蛇におののき、大笑いしたかと思ったら、今度は容赦ないキスに膝の力が抜け、魂が揺さぶられている。丸一日、なじみのある世界からまったく切り離されたあと、不意に込み上げた官能の嵐にとらえられて、ジェーンはあらがいがたい怒濤の中に放り込まれた。
脚を割ってジョンが腿を押しつけてきたとき、ジェーンの耳に自分の悩ましい声が聞こえた。信じられないが、せがむような低いうめき声は、まぎれもなく自分の声だ。これ以上こんなことをするわけにはいかない。だがジョンはさらに腿を押しつけると、ジェーンの唇を舌でたどりながら、今度は両手で彼女の腰を愛撫し、持ち上げて自分の腿にまたがらせた。ジョンの腿は波がうねるように動き、ジェーンの心を海にいざない、熱い興奮をかきたてた。
ジェーンが欲しいものはただ一つだった。
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