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この身をシークに捧げて ゾハイドの宝石 I

この身をシークに捧げて ゾハイドの宝石 I

著: オリヴィア・ゲイツ 翻訳: 早川麻百合
発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ディザイアゾハイドの宝石
価格:630円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 オリヴィア・ゲイツ(Olivia Gates)
 カイロ在住のエジプト人。作家だけにとどまらず、眼科医、歌手、画家、アクセサリーデザイナーという実にさまざまなキャリアをもち、妻と母親業もこなしている。キャラクター設定やプロットのアドバイスをしてくれる娘と、ストーリーが気に入らなければキーボードの上を歩きまわる辛口批評家のアンゴラ猫の助けを借りながら、情熱的なロマンスを書き続けている。

解説

 ああ、彼が結婚してしまうなんて。ヨハラは、少女時代から恋い焦がれている砂漠の国の王子シャヒーンがアメリカから帰国早々結婚するというニュースを聞き、彼の送別パーティ会場にもぐりこんだ――ひと目でいい、彼に会いたい。8年ぶりに目にしたシャヒーンの高貴で圧倒的な存在感。ヨハラは世界でただ一人の愛しい男性をじっと見つめた。目が合った瞬間、ヨハラはまるで魔法にかかったようになり、彼にいざなわれるまま会場を抜け出すと、熱い時を過ごした。だが、魔法は一夜にしてとけ、残酷な現実がヨハラを打ちのめした。彼は私が誰だか気づきもしなかった。ショックのあまり、ヨハラはシャヒーンの前から姿を消すが……。  ■陰謀渦巻く砂漠の国の愛憎劇――オリヴィア・ゲイツが描く3部作〈ゾハイドの宝石〉は、〈ジュダールの王冠〉の関連ミニシリーズです。

抄録

 彼に正体を明かすわけにはいかない。いずれいやでも過酷な現実を思い出すときが来るし、わたしたちはお互い、その現実を抱えて生きていかなければならないのだ。
 でも、今夜は二人だけのもの。
 だからこそ、ヨハラはこうしてシャヒーンの自宅の広々とした、飾り気のない玄関広間にたたずみ、彼をじっと見つめているのだった。シャヒーンは落ち着き払ったしぐさで自分の上着と彼女のストールを腕にかけている。
 二人きりの貴重なひとときだというのに、彼はなにをのんびりしているの?
 自分が何を期待しているのかはよくわからない。けれど、彼の切迫した欲望は一秒ごとに膨らんでいるはずだ。ヨハラはずっと、彼が彼女を抱いたままリムジンに乗せ、マンションに着くまで情熱的なキスを繰り返し、家の中に入るなり、彼女をドアに押しつけ、熱い欲望をむき出しにしてくる姿を心の中で思い描いていた。
 シャヒーンは今頃になって自分の立場を思い出し、頭を冷やしてわたしをうまくかわそうとしているのだろうか?
 彼の気まずい思いを察し、こちらから身を引くべきだわ。こんなところへのこのこついてきたのが間違いだった。彼の誘いになど、乗るのではなかった。そもそも、あんなパーティーに行かなければ……。
 ぶうん、という小さな音がして、フラッシュが光った。ヨハラは驚いてまばたきをした。左目にちかちかと青い斑点がまたたく。
 シャヒーンが携帯で彼女の写真を撮ったのだ。撮り終わると、彼は彼女のほうへ歩み寄ってきた。大柄でしなやか、しかも男らしいその姿は、うっとりするほど美しい。だが何よりも彼女の心を動かし、振り子のように大きく揺さぶったのは、彼の表情だった。
 ここへ来るまでの快活さはすっかり消えうせ、その顔には燃えるような情熱が宿っている。瞳は熱い炎をたたえ、抗いようのない威厳が全身にみなぎっていた。
 ヨハラの三十センチほど手前で立ち止まると、シャヒーンは懇願するかのように両手を伸ばした。「何だか……浮かない顔をしていたね。できれば、もっと驚いた顔をしてほしかったんだが。今の写真は、昔の大画家ならこぞって肖像画に描きたがるような傑作になったよ」ヨハラの両手を自分の唇にあてがうと、ひとつひとつの指の関節を丁寧に唇でなぞっていく。彼女を見つめる瞳は真剣そのものだった。「ここへ来たことを後悔しているのかい?」
「いいえ」とっさに飛び出た強い言葉に、ヨハラは思わず唇を噛んだ。だが、自分でもわかっていた。「あなたはどうなの?」
 シャヒーンははっ、と息をついた。「きみをどこから崇めようか、そして、きみをひと息にのみこんでしまいたいという衝動をどうやって抑えようか――ぼくの頭の中はそのことでいっぱいさ」
 彼がぐずぐずしていたのは、そのためだったのね。シャヒーンは性急になりすぎる自分と懸命に闘っていたのだわ。またしてもヨハラの胸に不安が募ってきた。
 無理もない。長い間ずっと、ヨハラがシャヒーンに抱き続けていた感情はプラトニックなもので、官能的な思いはごくわずかだった。まさか彼が実際に自分を求めてくるなどとは想像したこともなかったし、たとえ自由気ままな空想の世界の中でも、キスや抱擁以上のことは考えられなかった。にもかかわらず、ヨハラは彼が自分に与えようとしているものが欲しくてたまらず、彼にすべてを捧げたいという思いで息が詰まりそうだった。
 ヨハラの体がぐらりと揺れた。胸の中で膨れ上がり、さらけ出されようとしている大胆な思いに、せわしなく羽ばたく鳥の羽音のように心臓が小刻みに震えている。「シャヒーン――どこでも……お好きな場所からどうぞ。そして……一度始めたら、最後まで一気にね。途中でやめないで」
 ヨハラが言葉をしぼり出すたび、シャヒーンの目が燃え上がった。彼女が当惑に言葉を詰まらせると、彼はその手に指を絡ませ、そのまま彼女の顔に持っていってくるりと裏返し、熱く紅潮した頬に自分の手の甲を押し当てた。
「では、まずはここから始めよう。この肌。他のどの部分に勝るとも劣らぬそのすばらしさ。みずみずしく、しっとりとして、生き生きとした血色をたたえている。いかに激しい感情に駆られようとも、真っ赤に染まることはなく、その色はより生き生きと、鮮やかさを増すばかり。その肌が、今は艶やかに輝いている。光り輝くその瞳は、さながら磨き上げられた黒曜石――めまぐるしく移り変わる豊かな表情でぼくの心を溺れさせ、澄んだ美しさでぼくの胸を震わせる。そして、唇。その唇がきみの思いをかたどり、きみの感情を形づくり、きみの感覚に震えるたびに……その揺れがこの胸を震わせ、この身は抑えきれない欲望の虜となる」
 ヨハラは熱い思いに胸が詰まりそうになった。「言ったとおりだわ。あなたはまさに、創造性と詩的才能の塊ね」


*この続きは製品版でお楽しみください。

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