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令嬢のバラード

令嬢のバラード

著: サラ・クレイヴン 翻訳: 青山有未
発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:525円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 サラ・クレイヴン(Sara Craven)
 イングランド南西部サウス・デボン生まれ。海辺の家で本に囲まれて育った。グラマースクール卒業後は、地元のジャーナリストとして、フラワーショーから殺人事件まで、あらゆる分野の記事を手がける。ロマンス小説を書き始めたのは一九七五年から。執筆のほかには、映画、音楽、料理、おいしいレストランの食べ歩きなどに情熱を傾けている。サマセット在住。

解説

 ★突然現れた魅惑的な男性。あなたは救世主? それとも……?★
 今夜もミシェルはセクシーな衣装に身を包み、歌いながら客たちの卑猥な視線にさらされていた。ここは南米のいかがわしいクラブ。ロンドン住まいの令嬢ミシェルには、縁遠い世界だった。だが一カ月前、信じていた男性や地元警察の裏切りに遭い、このクラブに送りこまれたのだ。今や軟禁状態にある。ああ、誰か私を悪夢から救い出して……。そのとき、奥の席に座る一人の男性が視界に飛び込んだ。危険な魅力を漂わす彼に、ミシェルは目を奪われる。彼が自分の運命を握っているとは夢にも思わずに。

抄録

 ミシェルは息をのんだ。「私を信用できないと言うの?」
「君があっさり逃げられるあいだは信用しない。君だって僕を信用していないじゃないか」彼はにやりと笑った。「悔しがるのは君の自由だが、無事に逃げおおせるまでは、僕を頼るのがいちばんましな方法だよ。お互いに信用しきれない部分が少々あっても、友達同士ならどうってことないさ」
 ミシェルは冷ややかに答えた。「私はあなたのお友達じゃないわ」
 彼がまた肩をすくめた。「ま、僕だってクリスマスカードのリストはもう満員なんだ」
「とにかく、パスポートは返してちょうだい。今すぐに」
「おやおや、姫君の命令かい? 虐待された被害者から貴族へ、あっという間の変身だな。僕は青ざめて土下座するべきなのかな。マニュエルにもそうやって命令すればよかったんだよ。あいつなら、さぞかし感激しただろう」荒々しい口調だった。
「なんてことを言うの」ミシェルは声を震わせた。
 二人はいつの間にか波止場で立ち止まっていた。が、不意に彼がミシェルを建物の陰に引きずり込み、両肩をつかんで向き直らせた。ミシェルは身動きが取れず、彼のぎらつく目を見返した。
「ああ、いくらでも言ってやるさ。君のそういう考え方に対して、もっと早く誰かが注意するべきだったんだ。そうすれば今みたいに、僕の助けが必要になることもなかっただろう」
「あなたの助けなんか必要ないわ」ミシェルは無謀に言い返した。「船はほかにもあるはずよ。あなたのように得体の知れない人に助けてもらわなくても、自分で逃げられるわ」
「まあね。ただし、今夜中には逃げられないだろう。ほかの船を探す時間のゆとりがどれだけある? それだけじゃない。おかしなショートカットで、猫のような目をした娘が島から出ていきたがっているという噂は、すぐに広まるだろう。ママ・リタが君を追いつめるのは簡単さ。それに、船賃をどうするかという些細な問題もある。君は現金を持っていないんだろう? 船賃を別のもので支払う覚悟はできているのかい? おそらく、相当長い船旅になるはずだよ」彼が情け容赦もなくたたみかけた。
「汚らわしいことを言わないで」ミシェルは喉から言葉を絞り出した。
「現実を言っているだけだよ。どうも君は……」ばかにしたような笑いをもらした。「いろんな目にあったわりには、まだ懲りていないようだな」
「お願い、私を一人で行かせてちょうだい」
「僕にひどい仕打ちをされると心配しているのかい? あり得ないよ、スイートハート。君は僕のタイプじゃない」
 それでも彼は手を放そうとしなかった。ミシェルは彼のがっしりした熱い胸と後ろの壁とにはさまれ、心臓が震え出すのを感じた。
 急にこの暗い物陰と、見下ろしている彼の青ざめた顔だけが世界のすべてになった。
 遠くから、男たちの怒鳴り声と車のクラクションが聞こえてきた。だがミシェルには別世界のことに思えた。体の奥底から突き上げてくる欲望以外は何も考えられなかった。
 突然、彼がさっと振り向き、声を殺して毒づいた。次の瞬間、いきなり彼の唇がぶつかるようにして重なってきた。抵抗する暇もなかった。固い唇が押しつけられているだけで、欲望のかけらもない、およそキスとは似ても似つかない行為だった。情け無用のパロディに、ミシェルはショックを受けた。
 始まりと同様、唐突にキスが終わった。
 立っていられず、ミシェルは壁にもたれかかった。彼を見上げても、表情がまったく読み取れない。
「今のは……何?」声がかすれた。
「マニュエルがジープに乗っていた。運転していたのは別の男だ。牛のような図体で、スキンヘッドの男だった」
「リコだわ、クラブの用心棒よ」ミシェルは必死に自分を落ち着かせようとしたが、効果はなかった。「私たち、見られた?」
「見られたらジープが止まっていたはずだ。君の姿が見えないよう、僕が隠していたから大丈夫」
「そう」だからキスをしたのだ。彼女の体が震えた。
「さあ、行こう」彼が再び手をつかんだ。
 ミシェルは動かなかった。恐怖に濁った目で彼を見上げてささやいた。「どこへ行くの?」
「もちろん、マリーナへ行って船に乗る」
「もうだめよ。あの二人が待ちかまえているわ」ミシェルは悲痛な声をあげた。
「そのときは、見られないように乗ればいいだけさ。だが連中はマリーナには来ないよ、賭けてもいい」彼はミシェルに腕を回して足早に歩き出した。「むしろここでぐずぐずしているほうが、やつらが戻ってきたときに危険だ。こういう追いかけっこになると、人間は悪魔になることもあるから」
 ミシェルは放心したように歩いた。だが、心をかき乱す最大の原因は、もはや見つかる恐怖ではないように思えた。
 代わりに彼女は、物陰で唇を重ねられたあの、心震える一瞬一瞬を思い返した。
 やがて真実が見えた。その瞬間、ミシェルはぞっとした。私はもっと先に進みたいと感じた。自分が女であることを彼に意識させたかった。私は……彼を求めていたのだ。


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