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悲しい誘惑

悲しい誘惑


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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著者プロフィール

 キャロル・マリネッリ(Carol Marinelli)
 イギリスで看護教育を受け、その後救急外来に長年勤務する。バックパックを背負っての旅行中に芽生えたロマンスを経て結婚し、オーストラリアに移り住む。現在も三人の子供とともに住むオーストラリアは彼女にとって第二の故郷になっているという。

解説

 カリーンの亡き祖父はかつてイングランド代表を務めた名ラグビー選手。だが、自堕落な両親のせいで一家の栄光は今や見る影もない。しかも、輝かしい過去の象徴である祖父の勲章がある日なくなった。兄が遊ぶ金欲しさに勝手にオークションにかけたのだ。落札者は、ギリシア出身のたたき上げの海運王、ザンテ。カリーンは勲章を取り戻そうと彼の経営するホテルに出向いた。そのカリーンをひと目見るなり、ザンテは所有欲をかきたてられた。彼にない、上流階級の者だけがかもし出す気品がカリーンにはあった。彼女が求めているのが祖父の勲章だと知り、ザンテは名案を思いつく。どうしてもというなら返してやろう。ただし、彼女の体と引き換えに。

抄録

 美しい晴天のかなたに雷鳴が鳴り響くかのごとく、ザンテはなにかも完璧で、それでいてどこか危険な香りが漂う。セクシーな唇は開かずして多くを語り、清潔感あふれるスーツの下では張りつめた肉体がざわめいている。黒い瞳が伝えるのは、セックスと罪、禁断の秘密の世界……。
 そう、もしこの夜が本当なら、もしこの関係が本当なら、マスコミは私の真の姿を知らず、ここに集まる人々は大きな誤解をしていたことになる。ザンテの恋人だとすれば、私は決して噂どおりの冷たい女ではないことになるのだから。
 ザンテとともにダンスフロアへ向かうときには、かすかに体が震えた。ぎこちなさから嘘が露呈してしまうのが怖かった。
 しかし、そんな心配はザンテには不要だった。十代のほとんどは見知らぬ異国の女たちの間を飛びまわって過ごした。ギリシアの真夏の太陽の下、二週間限りのロマンスを求めて訪れる女たち――ザンテは喜んでその相手を務めた。おんぼろスクーターに乗せて島をめぐり、押し当てられる柔らかな腿の感触に甘い興奮を覚えた。人けのない場所へいざない、手紙も出すし電話もする、遠く離れても心は一つだと誓った。熱心な口調に、言っている本人さえその気になった。追いかけるのが好きだった。その気のない相手ほど燃えた。今、ザンテの腕の中で身をこわばらせるカリーン・ウォリスは、まさにその絶好の相手だ。久しぶりに腕が鳴った。近ごろの女たちはあまりに簡単で、あまりに節操がない。
 だが、この女性は違う。
 薄明かりに照らされたダンスフロアで、ザンテはすらりとしたカリーンの体を感じていた。両手はあくまで添える程度にそっと彼女の腰にまわす。焦る必要はない。自分がなにをしているかはわかっている。
 一方のカリーンは少しもわかっていなかった。
 ザンテの瞳はこんなにも欲望をたたえているというのに、そのセクシーな魅力がこんなにも私の心をかき乱しているというのに、彼の言動は完璧な紳士そのもので、驚いたことに、いや、残念なことに、ダンスフロアまで来てもその態度を崩そうとはしない。抱き寄せるしぐさに思わせぶりなところは一つもなく、まるで親戚のおばさんとお義理でダンスを踊っているかのようだ。
「もうそろそろお開きの時間だ」頭の上でザンテの声が聞こえた。
「よかった」そうつぶやきながら、カリーンは理屈に合わない落胆を覚えた。彼に求めてほしくない。でも、求めてほしい。
 腰に添えられた手のぬくもりと、間近でかぐザンテの香りに、カリーンはついに三つ目の願い事をした。この夜が本当であればいい。ザンテの視線を、ザンテの愛を、本当にこの身に受けられればいい。世間の噂なんて嘘だと胸を張って言えればいい。新聞が自分のことをどう書いているかは知っている。氷のように冷たい女だと思われていることも。けれど、その冷たい殻の下には、だれかに愛されたくて、抱き締められたくて、凍えている自分がいる。これまでは決してかなわぬ夢だった。でも、こうして薄明かりの中でザンテのぬくもりに包まれていると、すべてを忘れることができる。まるで太陽の縁で踊っているかのようだ。ひとたびステップを間違えれば、まばゆくもむなしい光の中にのみこまれてしまう。
 ザンテの手がさっきより少しだけ下にあった。それとも、気のせいだろうか。両手の小指がヒップのふくらみにかかっている。カリーンは意識せずにはいられなかった。ただそれは、以前のようなぎこちない感覚ではなかった。ほのかに温かく、やがてその熱が全身に広がって、二人を取り巻く空気が湿りけをおびた。まるでスモークマシンのようにザンテの体から吐き出される欲望の靄があたりを包み、口からも肌からもカリーンの中に侵入した。とたんに血がわきたち、どくどくと音をたてて流れだす。肌がほてり、胸が張りつめ、下腹部にかつてないうずきが生まれた。女ならだれだって同じ反応を示すに違いない。でも、それは私には許されないことだ。
 コロンが香り、ざらつく顎が頬に触れた。耳に熱い息がかかり、ザンテがカリーンの髪にそっと唇を当てた。その唇がゆっくりと頬へ下がり、口元に近づく。いっそキスをしてくれたら、どんなにほっとしただろう。
 だが、ザンテはしなかった。
 ただじっとカリーンを見つめ、そして、目だけで語った。自分がなにを求めているか、カリーンがその胸に飛びこみさえすれば、そこにどんな世界が待っているか。セクシーな想像が頭の中に渦巻き、カリーンの頬はかっと熱くなった。このまま唇を重ねてしまいたい。彼に屈し、身を預けてしまいたい。でも、ここで屈したら、自分の体をさらすことになる。彼の目に落胆の色を見ることになる。カリーンは視線をそらし、そっと体を離した。
 もう少しでカリーンを落とせるはずだった。ザンテは確かに氷が溶けるのを感じていた。腕の中で彼女が熱をおび、その瞳にむき出しの欲望が宿るのがわかった。にもかかわらず、それはまたたく間に消え去った。演奏が終わるころにはすでにカリーンとの距離を感じていた。部屋が明るくなり、別れの挨拶が交わされ、魔法の時間は終わった。そして、ザンテの挑戦が始まった。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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