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ひとときの愛人
著: ジャクリーン・バード 翻訳: 山田理香発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:630円(税込)
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著者プロフィール
ジャクリーン・バード(Jacqueline Baird)
趣味は油絵を描くことだったが、家族からにおいに苦情を言われ、文章を書くことにした。そしてすぐにロマンス小説の執筆に夢中になった。旅行が好きで、アルバイトをしながらヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアを回った。英国に戻ったときに結婚。二人の息子に恵まれ、現在も生まれ故郷のイングランド北東部に夫とともに暮らしている。「二人のバレンタイン」と「恋は強引に」がお気に入りの作品だという。ロマンティックタイムズ誌の賞の受賞歴があり、ベストセラーリストにもたびたび登場する。
趣味は油絵を描くことだったが、家族からにおいに苦情を言われ、文章を書くことにした。そしてすぐにロマンス小説の執筆に夢中になった。旅行が好きで、アルバイトをしながらヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアを回った。英国に戻ったときに結婚。二人の息子に恵まれ、現在も生まれ故郷のイングランド北東部に夫とともに暮らしている。「二人のバレンタイン」と「恋は強引に」がお気に入りの作品だという。ロマンティックタイムズ誌の賞の受賞歴があり、ベストセラーリストにもたびたび登場する。
解説
両親に続いて兄も亡くしたルーシーは、今や天涯孤独の身だが、その両親の遺した会社が売却されそうだと知って驚いた。しかも、それを企んでいるのは筆頭株主のロレンツォ・ツァネッリ!ロレンツォの弟とルーシーの兄はかつて親友同士だったが、登山中の事故で兄だけが助かり、彼は今でも私を恨んでいるのだ。でも、両親の唯一の形見を守るには、ロレンツォに懇願するしかない。だが恥を忍んで出向いたルーシーを一笑に付し、怒りをあらわにしながらもロレンツォは激しいキスをした。いったいどういうこと? ルーシーは想像もしなかった――彼のこのうえなく甘美で残酷な復讐が始まろうとしていることを。
■セクシーなストーリー展開が得意なジャクリーン・バードが、魅力的で傲慢なラテンヒーローとの危うい恋を描いた待望の新作です。
■セクシーなストーリー展開が得意なジャクリーン・バードが、魅力的で傲慢なラテンヒーローとの危うい恋を描いた待望の新作です。
抄録
ロレンツォは彼女の瞳を見下ろした。はっとするような緑だと、初めて気づいた。すがるような大きな目。一瞬、思考がとぎれ……。
彼女がまずは銀行に電話をかけてきて、通り一遍の対応で門前払いされたこともロレンツォは知っていた。個人宛の手紙でヴェローナに来ると知らせてきたとき、彼が秘書に言って都合をつけさせたのは、二つの理由からだった。ひとつめは、母を尊重したこと。そもそもロレンツォにも銀行にも黙って、〈ステッドマン・プラスチック工業〉の株を買う資金をアントニオに与えたのは母だった。だから、その投資については母にも思い入れがあるらしい。
ロレンツォがアントニオの個人資産の内容を見て、〈ステッドマン・プラスチック工業〉の株主になっていると知ったのは、弟が亡くなってからだった。その取り引きは〈ツァネッリ商業銀行〉経由ではなく、〈ローマ銀行〉経由だったため、母に事の次第を尋ね、売却するよう話した。しかし母の答えは驚くべきものだった。
母は、結婚にあたって実の母から、結婚後も自立心を失わないために、夫の知らない銀行口座を持ちなさいと言われたそうだ。当然、〈ツァネッリ商業銀行〉に口座を持つわけにはいかず、〈ローマ銀行〉を使った。株の売却についても、気が進まないようだった。母にとっては、アントニオが世間で思われているような軽薄な人間ではなく、自分で事業を成功させられる男だという証明となっていたからだ。
しかしロレンツォは、そうは思わなかった。アントニオとダミアンは大学を卒業後、一年間の休みを取り世界を旅した。その一年が二年となり、あの最後の無謀な登山につながって、アントニオは二十三歳で命を落とした。二人のうちどちらかがプラスチック製造業に落ち着いたかどうか、はなはだ疑問だが、ロレンツォはアントニオの株を母から譲り受け、〈ツァネッリ商業銀行〉で管理することにしたのだ。
ルーシー・ステッドマンに会うことにしたもうひとつの理由は、弟の思い出に免じてというところだった。実を言うと、やましい思いがあったのだ。仕事にかまけて、兄として充分に弟に目をかけてやらなかった。弟が生まれた瞬間から愛していたのに、ロレンツォが大学に進学したとき弟はまだ八歳で、学校の休み以外は家に戻れず、卒業後もすぐアメリカに渡った。父が死んで銀行を継ぐために帰国したときには、アントニオは自分の好きな友だちに囲まれたお気楽者になっていた。そして十八でロンドンに移って暮らし始め、大人になってからはほとんど一緒に生活していない。しかしアントニオがルーシーの名前を何度か口にし、いい娘だと言っていたことは覚えている。だから彼女の兄はきらいだが、彼女には会うことにしたのだ。しかし今日のマヌエルとの会合でわかったことを思うと、ステッドマン家の人間に同情の余地などなかった。
マヌエルと話してからくすぶっていたいらだちが、彼女に腕をつかまれて、いきなり爆発した。ロレンツォはルーシーを引き寄せ、怒りにまかせて、やわらかな唇を奪った。
何が起こったのかルーシーにはわからなかった。突然、硬い体にぶつかり、唇が押しつけられた。一瞬、ショックで凍りついた。けれどもすぐに彼の唇の動きと、ほのかな男らしい香りを意識した。全身の血がわき、骨までとろけそうになる。キスの経験はあったが、こんなふうではなかった。全神経が魅了され、打ち震えて圧倒される。すると、いきなり彼に押しやられた。ルーシーは瞬時に反応した自分が信じられず、ただ呆然と彼を見つめた。
これまでロレンツォは、われを失ったことも、自分のしたことに衝撃を受けたこともなかった。ましてや、下腹部が急に張りつめてショックを受けたことも。彼は自分を見つめるみすぼらしい身なりの娘を見下ろした。大きな緑の瞳が色濃くなり、頬が染まり、喉元が脈打っている。なるほど、この娘は自分を捧げようというつもりか。
「きみが何をしようと、ぼくの気持ちは変わらない。きみはぼくの趣味ではないし」そこまで言わなくてもと思うほど、辛辣な言葉だった。
ルーシーは目をしばたたき、動けない状態から脱して、ようやくしっかり彼を見た。彼の冷笑から察するに、身を捧げようとしたと思われたのだ。彼はとりあえずキスをしてみたが、気に入らなかったということなのね……。屈辱が怒りとないまぜになり、ルーシーの全身に押し寄せた。
「はっきり言わせてもらうが、ミス・ステッドマン、ぼくとしても銀行としても、ステッドマン家の一員との取り引きを続ける意向はない。ヴェローナまで無駄足だったようだね。次の便で帰るといい。これでおわかりいただけたかな?」
決然とした黒い瞳を見て、彼は本気で言っているのだとルーシーにはわかった。ふと、わたしをよく知りもしないのにひどい扱いだと思った。けれど彼女のほうも、彼を知らないままにきらっていたのだ。かつてアントニオは、どこか誇らしげな声で語っていた――兄は腕ききの銀行家で、血も涙もない交渉をするんだよ、と。
「わかりました」ルーシーはきっぱりと言った。
彼女は芸術に携わっているが、現実の見えない人間ではない。十二歳のときに母が亡くなり、父は愛する妻の死をずっと乗り越えることができなかった。そこへ、昨年十一月の兄の死だ。ルーシーは、運命に抗っても無駄だということを学んだ。
一歩下がって胸を張り、しっかり動いてと脚にお願いしつつロレンツォの脇を通り過ぎ、ドアを開けた。振り返り、彼の全身に視線をめぐらした。大きくて、岩のように動かない人。奇跡は起こらなかったのだから、あきらめるしかない。もはや〈ステッドマン・プラスチック工業〉を救うことはできない。
「お会いできて楽しかったとは言えないけれど、もう一日、この町に滞在することはお伝えしておきます。だって……あなたの気が変わらないとも限らないでしょう?」挑発するためだけに、ルーシーは最後のひとことをつけ加えた。このうぬぼれ屋の鼻を、誰かがへし折ってやらなければ。
*この続きは製品版でお楽しみください。
彼女がまずは銀行に電話をかけてきて、通り一遍の対応で門前払いされたこともロレンツォは知っていた。個人宛の手紙でヴェローナに来ると知らせてきたとき、彼が秘書に言って都合をつけさせたのは、二つの理由からだった。ひとつめは、母を尊重したこと。そもそもロレンツォにも銀行にも黙って、〈ステッドマン・プラスチック工業〉の株を買う資金をアントニオに与えたのは母だった。だから、その投資については母にも思い入れがあるらしい。
ロレンツォがアントニオの個人資産の内容を見て、〈ステッドマン・プラスチック工業〉の株主になっていると知ったのは、弟が亡くなってからだった。その取り引きは〈ツァネッリ商業銀行〉経由ではなく、〈ローマ銀行〉経由だったため、母に事の次第を尋ね、売却するよう話した。しかし母の答えは驚くべきものだった。
母は、結婚にあたって実の母から、結婚後も自立心を失わないために、夫の知らない銀行口座を持ちなさいと言われたそうだ。当然、〈ツァネッリ商業銀行〉に口座を持つわけにはいかず、〈ローマ銀行〉を使った。株の売却についても、気が進まないようだった。母にとっては、アントニオが世間で思われているような軽薄な人間ではなく、自分で事業を成功させられる男だという証明となっていたからだ。
しかしロレンツォは、そうは思わなかった。アントニオとダミアンは大学を卒業後、一年間の休みを取り世界を旅した。その一年が二年となり、あの最後の無謀な登山につながって、アントニオは二十三歳で命を落とした。二人のうちどちらかがプラスチック製造業に落ち着いたかどうか、はなはだ疑問だが、ロレンツォはアントニオの株を母から譲り受け、〈ツァネッリ商業銀行〉で管理することにしたのだ。
ルーシー・ステッドマンに会うことにしたもうひとつの理由は、弟の思い出に免じてというところだった。実を言うと、やましい思いがあったのだ。仕事にかまけて、兄として充分に弟に目をかけてやらなかった。弟が生まれた瞬間から愛していたのに、ロレンツォが大学に進学したとき弟はまだ八歳で、学校の休み以外は家に戻れず、卒業後もすぐアメリカに渡った。父が死んで銀行を継ぐために帰国したときには、アントニオは自分の好きな友だちに囲まれたお気楽者になっていた。そして十八でロンドンに移って暮らし始め、大人になってからはほとんど一緒に生活していない。しかしアントニオがルーシーの名前を何度か口にし、いい娘だと言っていたことは覚えている。だから彼女の兄はきらいだが、彼女には会うことにしたのだ。しかし今日のマヌエルとの会合でわかったことを思うと、ステッドマン家の人間に同情の余地などなかった。
マヌエルと話してからくすぶっていたいらだちが、彼女に腕をつかまれて、いきなり爆発した。ロレンツォはルーシーを引き寄せ、怒りにまかせて、やわらかな唇を奪った。
何が起こったのかルーシーにはわからなかった。突然、硬い体にぶつかり、唇が押しつけられた。一瞬、ショックで凍りついた。けれどもすぐに彼の唇の動きと、ほのかな男らしい香りを意識した。全身の血がわき、骨までとろけそうになる。キスの経験はあったが、こんなふうではなかった。全神経が魅了され、打ち震えて圧倒される。すると、いきなり彼に押しやられた。ルーシーは瞬時に反応した自分が信じられず、ただ呆然と彼を見つめた。
これまでロレンツォは、われを失ったことも、自分のしたことに衝撃を受けたこともなかった。ましてや、下腹部が急に張りつめてショックを受けたことも。彼は自分を見つめるみすぼらしい身なりの娘を見下ろした。大きな緑の瞳が色濃くなり、頬が染まり、喉元が脈打っている。なるほど、この娘は自分を捧げようというつもりか。
「きみが何をしようと、ぼくの気持ちは変わらない。きみはぼくの趣味ではないし」そこまで言わなくてもと思うほど、辛辣な言葉だった。
ルーシーは目をしばたたき、動けない状態から脱して、ようやくしっかり彼を見た。彼の冷笑から察するに、身を捧げようとしたと思われたのだ。彼はとりあえずキスをしてみたが、気に入らなかったということなのね……。屈辱が怒りとないまぜになり、ルーシーの全身に押し寄せた。
「はっきり言わせてもらうが、ミス・ステッドマン、ぼくとしても銀行としても、ステッドマン家の一員との取り引きを続ける意向はない。ヴェローナまで無駄足だったようだね。次の便で帰るといい。これでおわかりいただけたかな?」
決然とした黒い瞳を見て、彼は本気で言っているのだとルーシーにはわかった。ふと、わたしをよく知りもしないのにひどい扱いだと思った。けれど彼女のほうも、彼を知らないままにきらっていたのだ。かつてアントニオは、どこか誇らしげな声で語っていた――兄は腕ききの銀行家で、血も涙もない交渉をするんだよ、と。
「わかりました」ルーシーはきっぱりと言った。
彼女は芸術に携わっているが、現実の見えない人間ではない。十二歳のときに母が亡くなり、父は愛する妻の死をずっと乗り越えることができなかった。そこへ、昨年十一月の兄の死だ。ルーシーは、運命に抗っても無駄だということを学んだ。
一歩下がって胸を張り、しっかり動いてと脚にお願いしつつロレンツォの脇を通り過ぎ、ドアを開けた。振り返り、彼の全身に視線をめぐらした。大きくて、岩のように動かない人。奇跡は起こらなかったのだから、あきらめるしかない。もはや〈ステッドマン・プラスチック工業〉を救うことはできない。
「お会いできて楽しかったとは言えないけれど、もう一日、この町に滞在することはお伝えしておきます。だって……あなたの気が変わらないとも限らないでしょう?」挑発するためだけに、ルーシーは最後のひとことをつけ加えた。このうぬぼれ屋の鼻を、誰かがへし折ってやらなければ。
*この続きは製品版でお楽しみください。
本の情報
紙書籍初版: 2012/1/20
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