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十カ月だけの恋人

十カ月だけの恋人


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 トリッシュ・モーリ(Trish Morey)
 オーストラリア出身。初めて物語を作ったのは十一歳のとき。賞に応募するも、応募規定を誤ってしまい失格に。その挫折がもたらした影響は大きく、やがて彼女は会計士としての道を選ぶ。故郷アデレードからキャンベラに移り住んだとき、現在の夫と出会った。結婚し、四人の娘に恵まれ幸せな日々を送っていたが、夢をあきらめきれずもう一度小説家を目指すことに。数々の挫折を乗り越え、ついに自らの手で作家としての人生を切り開いた。今ではオーストラリアのロマンス作家協会で、副会長を務める。

解説

 「わたしのおなかにあなたの赤ちゃんがいるんです」アンジーは妊娠に気づき、顔も知らない相手の男性に電話をかけた。夫と一緒に不妊治療を受けていたが、運よく妊娠した直後、それは誤って移植された他人の受精卵だったと判明したのだ。夫は腹を立てて家を出ていったが、アンジーは出産を決め、出産後、親であるピレリ夫妻のもとに赤ん坊を返すつもりだった。せっかく宿った命を、闇に葬り去ることなどできないもの……。ところが、面会したドミニク・ピレリは明らかに嫌悪の表情を浮かべ、みすぼらしい格好をしたアンジーに辛辣に言い放った。「いったいきみはいくらほしいんだ?」

抄録

 粗末なくすんだ服を着た顔色の悪い女性だった。さえない色の乱れた髪をポニーテールにしている。みるみるうちに縮んでいくように見えるが、彼女の視線はドミニクの背後の男女に向けられていた。「てっきり……あの二人がピレリご夫妻かと」
「ぼくがドミニク・ピレリだ」
「まあ」
 シモーヌがハイヒールを鳴らし、フランス香水の香りとともに近づいてきた。「あなたがミセス・キャメロンね」
 ドミニクは異議を唱えたかった。シモーヌは何を言っているのだ? ミセス・キャメロンだと確信していたのは、こんな貧相な女性ではない。こっちがミセス・キャメロンだ。だが振り向くと男女は足早に雑踏に消えていった。視線を戻してからも、信じたくなかった。こんな頼りない女性がぼくの子をおなかの中で育むことができるというのか?
 いったいどうしてクリニックはこんな女性にぼくの子を移植したのか?
 だが、待ち合わせの場所にこの女性は現れ、名前を呼んだ。
 みすぼらしい女性が喉をごくりとさせた。ドミニクは頭のわりに細すぎる首が動く様子を目で追った。「そうです」まるで認めるのを恐れているようだ。「アンジー・キャメロンです」
 声もこわばっていた。自信がなく怯えた十代の少女のようだ。実際の年齢を外見から探ろうとしたが、わからなかった。今まで相手にしてきた女性とはまったく違う。栄養不足のようだが、体は重たげだ。
 くたびれきった針ねずみのような女性が手のひらをジーンズでぬぐい、手を差し出した。「ミセス・ピレリですね。こんな状況でお会いすることになって残念です」
 言われるまでもない。こんな状況でなければ、こんな女性と出会うとは思いもよらなかった。「シモーヌは妻ではない」ぴしゃりと言った。「秘書だ」
 言下に訂正したボスに、秘書は何か言いたげな目を向けたが、すぐに気を取り直して上品な笑みを見せ、一瞬指を触れ合わせた。アンジーはわけがわからず瞬きした。この男性は違うと決めつけて別のカップルに近づこうとしていたので、まだ頭が働かなかった。しかもこの女性は妻ではないという。
 理解するのもやっとだった。
 男性と握手しようとしたが、人間のくずだとでも言いたげな目に気づき、手を引っこめた。
 彼の嫌悪感を感じ取らなかったとしても、彼の手に自分の手が包みこまれたらどうしていいかわからないような気がした。さっき遠くから見てさえ、背が高いとわかったが、目の前に立つと、まるで山のようだった。肩幅が広く、角張った体型だ。乗り越えられない壁のようで、少し触れただけで、アンジーの弱々しい力は抜けてしまいそうだ。
 危険は冒せない。おなかの中の小さな赤ちゃんにありったけの力を注がなければいけないのだから。
 アンジーは目を閉じた。この男性の赤ん坊だわ。
 突然、風が吹き、よろけたアンジーは腕をつかまれた。目を開けたときには腕にあった手は離れていた。「座るんだ」深く響くかすれ声が、アンジーの背筋にさざなみを走らせた。「倒れないうちに」
 奥にあるあいた椅子に導かれ、倒れこむように座ったが、皮膚や骨からできているはずのものが、腕に触れたとき鉄のように感じられた驚きは消えなかった。さわってみると、握りしめられた場所に熱いうずきが感じられた。
 男性に何か言われ、秘書はすばやくきびすを返し、髪をなびかせて立ち去った。男性が手櫛で髪をとかしながら、あたりを見まわした。「ご主人はどこに?」人混みを見渡している。「一緒に来ているんだろう?」
「いいえ。来ていません」
 信じられないと言いたげに、彼は振り向いた。「ひとりで来させたのか? こんな状態なのに」
 もちろん妊娠していることを指したわけではないはずだが、アンジーはほほ笑みそうになり、そこで、彼の下賤なものを見るような目を思い出して笑みは消えた。最近、自分がみすぼらしく見えているのはわかっていた。シェインから何度言われたことか。アンジーは肩をすくめた。「死に至る病じゃありません。つわりがあるだけです。昼時には治ります」
 普段はそうだ。でも今日は例外だった。
「それに、駅から慌てて来たので」
 秘書が炭酸水を持って戻ってきた。「どうぞ。見るからにこれが必要みたいね」
 アンジーはお礼を言い、ふたを開けた。またしても貧相な姿を痛感されられたのはつらかったけれど、ありがたかった。冷たい水が喉をうるおし、ほてった体と乱れた心が静まり、また希望がわいてきた。最悪な事態は終わり、これ以上狼狽することは起こらず、状況にうまく対処していけるかもしれない。
「食事はとったのか?」
「おなかはすいていません」とにかく話を進め、必要な取り決めをしてしまいたい。ところがおなかが隠しようのない大きな音で鳴った。吐き気を覚えていたかと思えば、急に飢える気まぐれな腹が恨めしい。
「なるほど、空腹ではないようだ。シモーヌ、〈マルセロズ〉を予約してくれ。できるだけプライバシーが保てる席を。われわれもすぐに行く」

*この続きは製品版でお楽しみください。

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