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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ロマンス

密会の城

密会の城


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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著者プロフィール

 トリッシュ・モーリ(Trish Morey)
 オーストラリア出身。初めて物語を作ったのは十一歳のとき。賞に応募するも、応募規定を誤ってしまい失格に。その挫折がもたらした影響は大きく、やがて彼女は会計士としての道を選ぶ。故郷アデレードからキャンベラに移り住んだとき、現在の夫と出会った。結婚し、四人の娘に恵まれ幸せな日々を送っていたが、夢をあきらめきれずもう一度小説家を目指すことに。数々の挫折を乗り越え、ついに自らの手で作家としての人生を切り開いた。今ではオーストラリアのロマンス作家協会で、副会長を務める。

解説

 「ラウル、会えてうれしいわ」ガブリエラは10数年ぶりに会ったラウルの手を握りしめた。でも再会がこんな日だなんて、とても悲しい。今日はガブリエラを親代わりになって育ててくれた、祖父の葬儀の日。幼いころから知るラウルとは、兄妹のように育ったけれど、事故で互いの両親を亡くして以来、今日まで会うことはなかった。抱擁を交わしながら、ガブリエラは彼の懐かしい香りに心を奪われた。今はただ、誰かにそばにいて抱きしめてもらいたい。けれど、それは今、私の腕の中にいるラウルではないはず。ガブリエラには、彼に惹かれてはならない理由があるのだから……。

 ■兄妹のように育った幼なじみが12年の空白を経て再会。会えなかった日々を取り戻すかのように、2人の恋は燃えあがります……。パリ、ベネチア、スペインの古城へと巡る波瀾万丈のロマンスにご期待を!

抄録

 カフェにいるあいだに霧が濃くなっていた。霧は海から立ちのぼり、すべてを覆いながら陸を浸食していた。ガブリエラは何を質問したかすっかり忘れ、世界が徐々に消えていくのを見るのは魅惑的で心安らぐものだと思った。まるで現実に存在しなかったかのようにおとぎの国が霧のなかに消えていく。
 二人は橋から水面を見下ろした。霧はますます深くなり、ラグーンの上を漂っていた。すべてのものを――音さえも、消し去る霧のおかげで、ベネチアは湿った白い雲の下に沈んだかのようだ。ときどき、白い雲の隙間から、光が現れたり低いエンジン音が聞こえたりするのは、海岸に戻る船影が見える予告だった。ガブリエラは身を震わせた。
「寒いのか?」ラウルが尋ね、彼女の肩を抱いた。
「気味が悪いわ」彼女はラウルを見上げた。「感じない?」霧で覆われたラグーンを眺め渡すラウルを見て、ガブリエラは思った。一面真っ白ななかに彼は何を捜しているのだろうと。
「亡霊が出てくるんだ。夜はいつもこうだよ」
「ああ、ラウル、お願い」うなじがざわめき、背筋が震えてくる感覚をこらえながら、ガブリエラは笑い声をあげようとした。「もう子どもじゃないから、そう簡単に怖がったりしないわ」
「いや、本当なんだ。ベネチアには大勢の亡霊がいる。数えきれないほどの幽霊話もある」
 そこで、ガブリエラは、“もう子どもではないし、そう簡単に怖がらない”と言った以上、ずうずうしくこう尋ねるしかなかった。「たとえばどんな? それなら幽霊話を聞かせてちょうだい」
 霧に目を据えたまま、ラウルは話し始めた。その低く陰鬱な声は、不吉な予感がした。「昔々、前途洋々の富豪の商人がいた。計り知れないほどの富を手にし、容姿にも恵まれていた。しかも、彼の妻は美しく才能にあふれていた。彼はすべてを手に入れたと思いこんだ。自分は幸せ者だと思っていた」
 渦巻く霧に包まれながら、彼女は息をのんだ。この話がハッピーエンドでないとわかったからだ。
「そしてある夜、彼は妻を二人の男に紹介した。男たちは兄弟で商人の友人だった。だが、彼らは共謀して商人を裏切った。商人の妻に広い世界を見せてやると約束し、彼女を連れ去った」
「彼女は喜んでついていったの?」
 彼は肩をすくめた。「さあ。商人は愚かだった。自分の人生が完璧だと思いこんでいたんだ。彼は妻を奪われ、ただ逆上した。ある嵐の夜、兄弟のうちのひとりとベッドをともにしている妻を発見したとき、男の人生はほとんど打ち砕かれた」
「何が起きたの?」
「その夜、二人とも死んだんだ。男の妻と彼女を寝取った男は」
「商人が二人を殺したの?」
「彼が殺したも同然だった。その後、妻は毎晩彼の夢に現れ、その邪悪さで気がふれるほど彼を苦しめた。今でも、嵐の夜になると、悲しげな風の音に乗り、彼を呼ぶ彼女の声が聞こえるんだ。彼を深みに引きずりこもうと待ち構えている彼女の声が」
 陰鬱な霧のなかから悲しげな風の音が響き、弱々しい光が一、二度きらめいたかと思うと、すぐにまた霧のなかに消えた。ガブリエラは急に寒気を覚え、彼の腕をぐっとつかんだ。「もう遅いわ」震えないように努めながら、彼女はラウルにしがみついた。「長い一日だったし。家に戻りましょう」
 二人は手をつなぎ、柔らかな光が両脇を照らす道を戻った。ラウルという頼もしい存在が、幽霊話を消し去っていく。伝説か何か知らないけれど、ただの想像の産物よ。ガブリエラの思いは、亡霊から現実的な生身の人間へ移っていった。彼の手のなかに彼女の手はぴったり収まる。彼の長い指は熱く力強かった。ガブリエラがきつく握るとラウルは手を握り返し、彼女を見下ろした。「君に幸せになってほしい、美人さん《ベジヤ》。ベネチアに来てよかったかな?」
 ガブリエラはほほ笑み、彼がこんなに魅力的で思いやりがあり完璧にもてなしてくれるのだもの、どこにいても楽しいわ、と思った。だが、中世に建てられた城館《パラツツオ》を背に彼とこうしていると、ベネチアほどすばらしい場所はないような気がした。「魔法みたい、ラウル。熱心に誘ってくれてありがとう」
 ラウルは足を止め、ガブリエラを抱き寄せると、空いているほうの手を彼女のうなじに当てた。彼が身をかがめ、彼女の口元を見つめたとき、甘美な震えが彼女の背筋に走った。唇が触れたとたん、ガブリエラはあえいだ。息を吸いこむと、彼の味がした。危険で深みがあり、精力的な彼自身によく似た味だ。彼の口は、まるで魔法のように彼女の唇の上を左右に動いた。その動きがあまりにも優しく官能をそそるので、ガブリエラは彼のキスに身を任せ、導かれるままどこへでも行きたくなった。ラウルが顔を上げたとき、彼女はほとんど泣き声で抗議した。
「なんのためにこんなことを?」尋ねたとたん、ガブリエラは突然めまいを覚え、息苦しくなった。
「それは」彼は黒い瞳で熱く探るように見つめた。「ほかに方法がなかったからだよ」

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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