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著者プロフィール
ジョン・ウェブスター(1580〜1634…推定)
ルネッサンス期英国の劇作家。
「ジョン・ウェブスターは、日本ではよく知られていないかもしれませんが、いささかでもシェイクスピアに匹敵する作家として、イギリスではよく知られ、上演される作家です」(訳者のことば、から)
「マルフィ公爵夫人」は、このシェイクスピアより15才ほど年下の劇作家の代表作。もう1つの「白い悪魔」とともに、日本では上演機会の少ない、幻の名作。
ルネッサンス期英国の劇作家。
「ジョン・ウェブスターは、日本ではよく知られていないかもしれませんが、いささかでもシェイクスピアに匹敵する作家として、イギリスではよく知られ、上演される作家です」(訳者のことば、から)
「マルフィ公爵夫人」は、このシェイクスピアより15才ほど年下の劇作家の代表作。もう1つの「白い悪魔」とともに、日本では上演機会の少ない、幻の名作。
解説
舞台は、イタリヤ・カラブリア国。大公フェルディナンドとマルフィ公爵夫人は双子の兄妹であり、その兄は枢機卿である。小さな公国とはいえ、政治と宗教と宮廷の華やかさを代表する三兄妹である。いや、兄妹だからと言って、安心はできない。小国には小国なりの、権謀術策が満ちているのである……。
劇は、忠臣・悪臣とりまぜてカラブリアの宮廷を激震させ……ほとんど喜劇のようなセリフとテンポで、裏切りと死の山を築いていく。
マルフィ夫人とアントニオの愛は成るのだろうか? 兄たちはそれを許すのだろうか? いや、その夫人は果して、愛の人なのか、淫婦なのか? 作者の筆は情容赦もない。これが人間なのだと、言ってつきはなす……。
劇は、忠臣・悪臣とりまぜてカラブリアの宮廷を激震させ……ほとんど喜劇のようなセリフとテンポで、裏切りと死の山を築いていく。
マルフィ夫人とアントニオの愛は成るのだろうか? 兄たちはそれを許すのだろうか? いや、その夫人は果して、愛の人なのか、淫婦なのか? 作者の筆は情容赦もない。これが人間なのだと、言ってつきはなす……。
目次
第一幕
1 アマルフィ。公爵夫人の館 広間
2 同じ館の別の一室
3 同じ館 広間
4 館の中庭
第二幕
1 アマルフィ。公爵夫人の館の一室
2 公爵夫人の私室
3 ローマ。枢機卿の邸
4 ロレット。聖母の聖堂の近く
5 ロレットに近い街道
6 アマルフィ。公爵夫人の館の一室
7 同じく邸内の一室
第三幕
1 ミラノ。ペスカラ侯の邸
2 ミラノ。フェルディナンドの館
3 ミラノ。砦の中庭
4 ミラノ。枢機卿の館
5 ミラノ。同じ館の一室
1 アマルフィ。公爵夫人の館 広間
2 同じ館の別の一室
3 同じ館 広間
4 館の中庭
第二幕
1 アマルフィ。公爵夫人の館の一室
2 公爵夫人の私室
3 ローマ。枢機卿の邸
4 ロレット。聖母の聖堂の近く
5 ロレットに近い街道
6 アマルフィ。公爵夫人の館の一室
7 同じく邸内の一室
第三幕
1 ミラノ。ペスカラ侯の邸
2 ミラノ。フェルディナンドの館
3 ミラノ。砦の中庭
4 ミラノ。枢機卿の館
5 ミラノ。同じ館の一室
抄録
アントニオ、デリオ、登場。
【デリオ】久しぶりの故国に、ようこそ。さすがに永くフランスにいただけあって、身なりも何も、すっかりフランス流になったようだな。あちらの宮廷はどうだった。
【アントニオ】いや、ことごとく感服した。新しい国王陛下は、まことに思慮深いお方で、世の堕落の源を断ち切ろうと、まず宮廷から、かんばしからぬ連中を一掃なさった。なにせ宮廷は、誰しもが水を汲みに集まる泉。その水が濁っていたのでは、国中に疫病と死が蔓延せずにはいないからからな。そこで国王は、歯に衣着せぬ直言の士と定評のある人々を選りすぐり、この人々を顧問として――あ、だが、ボゾラが来たな、そこに。
ボゾラ、奥に登場。
【アントニオ】この公爵夫人の宮廷では、随一の毒舌家として通っている男。だが、奴が他人の貪欲や傲慢を毒づくのは、実は、おのれ自身のひそかな貪欲や傲慢の裏返しではないのかな。
同じく奥に枢機卿、登場。
【アントニオ】あ、それに枢機卿まで。
【ボゾラ】いつまでおれにまといつく気だ――さぞかし(枢機卿に)そうおっしゃりたいんでしょうな。だが、私があんたのために尽くしてきた勤めの数々、こんなすげない‘あしらい’でケリをつけられるものではないはず。
【枢機卿】自分の手柄を、どこまで高く売りつけようというっもりだ。
【ボゾラ】あんたのためじゃなかったんですかい? あっしが、あえて汚ない仕事に手をよごしたのも。お蔭でこっちゃあ丸二年間、奴隷船にブチ込まれて、素裸同然、食うや食わずの有様で、血の汗流してコキ使われた。その御褒美が、こんな、木で鼻をくくったような仕打ちとは!
【枢機卿】折角のその難行苦行で、貴様のネジ曲った根性も、少しは改まればよかったものをな。 (退場)
【ボゾラ】ヘッ! さすがに坊主だ、捨てぜりふにまでお説教をたれやがる。世の中にゃあ、悪魔に取り憑かれる人間もいるようだが、あの御大層なお偉方なら、逆に悪魔の頭目にだって取り憑いて、手のつけられぬ気違いにしちまうだろうぜ。
【アントニオ】なにか、頼み事でも断られたというのかな?
【ボゾラ】おれがもうちょっとオベンチャラさえ得意なら、ヒルさながらに奴の足首に喰らいついて、腹がはち切れるまで生血を吸いつくしてやろうものを。いかんせん、むさ苦しい下っぱの兵卒風情じゃあ、たとえ戦場で片脚をなくしたところで、かたじけなくも下しおかれる御褒美は、せいぜい松葉杖が関の山。
【アントニオ】まさか、そんな。
【ボゾラ】いや、そうなんだ。おまけに、病院から病院へとタライ回しにされたあげく、一文なしで寒空に抛り出されるという始末。だがね、こんなおれらを馬鹿にしちゃあいけませんぜ。宮廷だって、病院のベッドと変りゃあしねえ。一人の男の頭の上にゃあ、すぐ次の男の脚が乗っかかってる。いつベッドから蹴落とされるか、知れたもんじゃあねえもんな。(退場)
【デリオ】あの男が奴隷船に送られたのは、むごたらしい人殺しのせいだという。しかもその殺人、あの枢機卿自身が、ひそかに命じたことだという。
【アントニオ】だとすれば、あんなにないがしろにされるのは気の毒だな。実は、なかなか勇敢な男だそうだが、あれほど不平不満の虜となってしまっては、折角の勇気も、それこそ宝の持ち腐れというものだ。
奥にシルヴイオ、ロダリーゴ、グリソラン、登場。
【デリオ】ああ、宮廷の方々がお出ましだ。さっき頼んだとおり、どれがどなたか、それに、どんなお人柄か、教えてくれるな?
【アントニオ】いいとも。
フェルディナンド、召使を従えて奥に登場。
【アントニオ】あ、カラブリアの大公、フェルディナンド様だ。枢機卿の御兄弟、それに、わが公爵夫人の双子の兄君。
【フェルディナンド】(シルヴィオに)で、馬上の槍試合で、標的をいちばん多く突き落としたのは誰だったのだ?
【シルヴィオ】実は、こちとらの、このアントニオ・ボローニャでございます。公爵夫人の宮廷で、執事頭《がしら》を勤める者。
【フェルディナンド】おお、お前か。なるほど、フランス帰りだけのことはある。あちらには、馬の名手が多いからな。(ロダリーゴに)私のやった、あのポルトガルの馬は気に入ったか?
【ロダリーゴ】まさしく、全身これ焔の塊とでも申しましょうか。
【フェルディナンド】そうだろう。あの馬はな、広大な大西洋から吹きつける疾風がはらませた稀代の駿馬。さながらの天馬だからな。
【シルヴィオ】確かに。ですから槍試合でも、脚が地に着かぬことがしばしばで。
(ロダリーゴ、グリソラン、笑う)
【フェルディナンド】なぜ笑う。何がおかしい。お前らは、私が笑う時だけ笑えばよいのだ。
【デリオ】久しぶりの故国に、ようこそ。さすがに永くフランスにいただけあって、身なりも何も、すっかりフランス流になったようだな。あちらの宮廷はどうだった。
【アントニオ】いや、ことごとく感服した。新しい国王陛下は、まことに思慮深いお方で、世の堕落の源を断ち切ろうと、まず宮廷から、かんばしからぬ連中を一掃なさった。なにせ宮廷は、誰しもが水を汲みに集まる泉。その水が濁っていたのでは、国中に疫病と死が蔓延せずにはいないからからな。そこで国王は、歯に衣着せぬ直言の士と定評のある人々を選りすぐり、この人々を顧問として――あ、だが、ボゾラが来たな、そこに。
ボゾラ、奥に登場。
【アントニオ】この公爵夫人の宮廷では、随一の毒舌家として通っている男。だが、奴が他人の貪欲や傲慢を毒づくのは、実は、おのれ自身のひそかな貪欲や傲慢の裏返しではないのかな。
同じく奥に枢機卿、登場。
【アントニオ】あ、それに枢機卿まで。
【ボゾラ】いつまでおれにまといつく気だ――さぞかし(枢機卿に)そうおっしゃりたいんでしょうな。だが、私があんたのために尽くしてきた勤めの数々、こんなすげない‘あしらい’でケリをつけられるものではないはず。
【枢機卿】自分の手柄を、どこまで高く売りつけようというっもりだ。
【ボゾラ】あんたのためじゃなかったんですかい? あっしが、あえて汚ない仕事に手をよごしたのも。お蔭でこっちゃあ丸二年間、奴隷船にブチ込まれて、素裸同然、食うや食わずの有様で、血の汗流してコキ使われた。その御褒美が、こんな、木で鼻をくくったような仕打ちとは!
【枢機卿】折角のその難行苦行で、貴様のネジ曲った根性も、少しは改まればよかったものをな。 (退場)
【ボゾラ】ヘッ! さすがに坊主だ、捨てぜりふにまでお説教をたれやがる。世の中にゃあ、悪魔に取り憑かれる人間もいるようだが、あの御大層なお偉方なら、逆に悪魔の頭目にだって取り憑いて、手のつけられぬ気違いにしちまうだろうぜ。
【アントニオ】なにか、頼み事でも断られたというのかな?
【ボゾラ】おれがもうちょっとオベンチャラさえ得意なら、ヒルさながらに奴の足首に喰らいついて、腹がはち切れるまで生血を吸いつくしてやろうものを。いかんせん、むさ苦しい下っぱの兵卒風情じゃあ、たとえ戦場で片脚をなくしたところで、かたじけなくも下しおかれる御褒美は、せいぜい松葉杖が関の山。
【アントニオ】まさか、そんな。
【ボゾラ】いや、そうなんだ。おまけに、病院から病院へとタライ回しにされたあげく、一文なしで寒空に抛り出されるという始末。だがね、こんなおれらを馬鹿にしちゃあいけませんぜ。宮廷だって、病院のベッドと変りゃあしねえ。一人の男の頭の上にゃあ、すぐ次の男の脚が乗っかかってる。いつベッドから蹴落とされるか、知れたもんじゃあねえもんな。(退場)
【デリオ】あの男が奴隷船に送られたのは、むごたらしい人殺しのせいだという。しかもその殺人、あの枢機卿自身が、ひそかに命じたことだという。
【アントニオ】だとすれば、あんなにないがしろにされるのは気の毒だな。実は、なかなか勇敢な男だそうだが、あれほど不平不満の虜となってしまっては、折角の勇気も、それこそ宝の持ち腐れというものだ。
奥にシルヴイオ、ロダリーゴ、グリソラン、登場。
【デリオ】ああ、宮廷の方々がお出ましだ。さっき頼んだとおり、どれがどなたか、それに、どんなお人柄か、教えてくれるな?
【アントニオ】いいとも。
フェルディナンド、召使を従えて奥に登場。
【アントニオ】あ、カラブリアの大公、フェルディナンド様だ。枢機卿の御兄弟、それに、わが公爵夫人の双子の兄君。
【フェルディナンド】(シルヴィオに)で、馬上の槍試合で、標的をいちばん多く突き落としたのは誰だったのだ?
【シルヴィオ】実は、こちとらの、このアントニオ・ボローニャでございます。公爵夫人の宮廷で、執事頭《がしら》を勤める者。
【フェルディナンド】おお、お前か。なるほど、フランス帰りだけのことはある。あちらには、馬の名手が多いからな。(ロダリーゴに)私のやった、あのポルトガルの馬は気に入ったか?
【ロダリーゴ】まさしく、全身これ焔の塊とでも申しましょうか。
【フェルディナンド】そうだろう。あの馬はな、広大な大西洋から吹きつける疾風がはらませた稀代の駿馬。さながらの天馬だからな。
【シルヴィオ】確かに。ですから槍試合でも、脚が地に着かぬことがしばしばで。
(ロダリーゴ、グリソラン、笑う)
【フェルディナンド】なぜ笑う。何がおかしい。お前らは、私が笑う時だけ笑えばよいのだ。
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