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虚構大学

虚構大学

著: 清水一行
発行: オンライン出版
価格:546円(税込)
10ポイント還元
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 清水 一行(しみず いっこう)
 昭和六年一月十二日東京生まれ。早稲田大学中退後「東洋経済」「週刊現代」などの雑誌で株式評論を執筆、証券業界に活躍する男たちを描いた処女長篇企業小説『兜町(しま)』を四十一年に発表、作家生活に入る。その後はベストセラー作品を立て続けに発表し、企業小説の旗手と呼ぶにふさわしい活躍をしている。四十八年には、低公害車が全国キャンペーン中に事故を起こすという発端の処女長篇推理小説『噂の安全車(セーフティカー)』を刊行、企業ミステリーや社会派サスペンスも発表している。
 『動脈列島』で第二十八回日本推理作家協会賞を受賞。

解説

 「理想的な大学を造らないか」千田にとって旧友の依頼はあまりにも驚くべきものであった。かつて高校を創設した実績はあるものの、具体的計画はゼロ、資金調達のめどもあやふやな状態でスタートした大学創設プロジェクトは苦難を極めることとなる。政治家との駆け引き、建設会社や銀行の思惑、教授たちの確執などの障壁に千田は何度も挫折しかけるが、持ち前の知恵と不屈の精神と、妻・友子の献身的な助力を支えに奔走する――。
 “学校屋”と蔑まされながらも、自己犠牲をかえりみず挑み続ける男の姿と、大学建設をめぐる人間ドラマを魅力たっぷりに描いた感動長編!

目次

一章
二章
三章
四章
五章
六章
七章
八章

抄録

 「いよいよ学生募集ですか」
 大隈は、静かに盃を置いて、千田を覗(のぞ)き上げた。
 「仮認可が下りたら、正式に学生募集をしてもいいことになっています。ま、いままでに必要な書類は印刷し終えていますし、京都市内のほとんどの高校に、受験生を送り込んでくれるよう、実は、三か月も前から工作をはじめていました」
 「開学までに、校舎は間に合うんですか」
 「二月の入学試験は、ちょっと無理ですが、四月の入学式は、新しい校舎でやれるはずです」
 「ここまで、よく漕(こ)ぎつけましたね」
 「深間さんがいてくれたらと、それがやはり残念ですね」
 千田の言葉に、大隈は小刻みにうなずいた。正月を迎える準備で、衣替えをしたものとみえて、客間の畳の藺草(いぐさ)の匂(にお)いが、千田の心をなごませた。
 「綜合大学としての基礎が確立するまで、やはり十年はかかるでしょうね」
 「さあ、そこまでの計算は、まだしていません」
 「しかし、一年や二年では、どうしようもないでしょう」
 「それはもちろんです」
 「どうされるつもりですか」
 大隈のその言葉に、友子が思わず息を詰めた。千田は、空の盃を友子のほうへ差し出し、酌を促してから、視線を大隈に返す。
 「いまだからこういう言い方もできるのでしょうが、ぼくとしては、大隈さんに有無を言わさず引きずり込まれたような気分で、結局、成り行きでここまできてしまったという感じがまだ払いきれません。しかし、ぼくはそれでいいのだと思っているのです。もともと野心があってはじめたことではない。かかってしまってからは、自分の能力をギリギリまで試してみたいということで、ぼくなりに精一杯やってみたつもりです。文部省のほうへ、新設大学の設置認可申請を出すに当たって、一応今後四年間の計画を練り、その計画書を添付して提出したわけですが、わたしが果たさなければならない基礎作りの期限を、その四年間というふうに読んでいます」
 「それは?……」
 「今後四年以上は、京都で暮らす意思がないというふうに、受け取っていただいていいのではないでしょうか」
 「すると、これだけの努力をして大学を作り、今後四年間で基礎を固めたら、投げ出してしまうということですか」
 「四年経ったら、身を引くべきではないかと考えているという意味です」
 千田のその言葉に、友子が、千田にもわかるくらいに、はっきりと肩を落とした。千田には、それが安堵(あんど)をこめた友子の吐息に感じられた。
 「しかし、惜しいじゃないですか」
 千田は、大隈のその言葉には答えなかった。
 学校屋……。
 それは、自由経済大学の設立の必要性を、多くの人たちに説得して廻(まわ)っている間に、何度も耳にし、ときには面と向かって、浴びせかけられた言葉であった。
 それだけではなく、天野の教え子グループの中には、いまもなお、千田をうさん臭げにしか見ようとしない人たちが、すくなくない。彼らは、一発当てて、うまいことをしようとしているとしか、千田の努力を評価していなかった。そういう中で、学校屋になり下がり、一発当てた……と言われつづける姿を、いつまでも晒(さら)していたくはないと思った。

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