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和書>小説・ノンフィクションボーイズラブ小説短編集

月丘くらら傑作選1

月丘くらら傑作選1


発行: ぶんか社
レーベル: ぶんか社BLノベル シリーズ: 月丘くらら傑作選
価格:800pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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解説

 借金の形として高級呉服店の主人に引き取られた美しい青年。みづきと名づけられたその男を跡取り息子・一朗は兄のように慕っていた。ある日一朗はみづきが若い番頭たちに裸にされ、布団の上で凌辱されているところを目撃してしまう。みづきの隠された過去とは!? ……『名無しのみづき』
 この他、高校生の初体験を描いた『夕立』『雨に狂いな』等を収録した傑作選。
※こちらの作品にはイラストが収録されていません。

目次

名無しのみづき
夕立ち
とろけるおみみ
とろけるからだ
とろけるおみず
雨に狂いな
幸太とないとうあきお

抄録

「駆け落ちをしよう」と言ったら、みづきは困ったように笑って「はい」と頷いた。
 そんなわけで、一朗はみづきと駆け落ちをしている。
 でも何をしたらいいのか、何処に行ったらいいのか分からない。一歩後ろから付いてくるみづきとこれからどうしようかと思った。
「痛みますか?」
 腫れた左頬を押さえていると、みづきが心配そうに声をかけてきた。
「ちょっとだけね」
 強がりだった。本当はすっごく痛い。じんじんして痛みが頭に響いてくる。
 容赦ない力で父は一朗の頬を張ったのだ。
「ちょっと其処で待っててください」
 みづきは一朗を置いて走りだし、近くの魚屋に入っていった。暫くして出てくると、その手にはビニール袋に入った氷が握られていた。
「さ、これで冷やせば楽になりますから」
 受け取って頬に当てた。冷たさで痛みがすっと引いて、頭痛も和らいだ。
 歩いていった先の、川縁の土手に二人並んで腰を下ろした。
 一朗はむすっとして氷を頬に当てながら、膝を抱えていた。みづきはそんな一朗を何度か横目で見ているようだったけど、声はかけてこなかった。
 父に張り倒されて、一朗は本当に何メートルか飛んだ。目の前を星が瞬いていて、何が起こったのか解らず、思わずきょとんとしてしまった。
「何を考えてる!」
 父の怒鳴り声で鼓膜が破れるかと思った。何の騒ぎかと、皆が集まってきていた。
 一朗が夜中に部屋を抜け出て徘徊していることが父にばれたのだった。
 いる筈の主の姿が無いことに気付いた妙さんが父に報告して、一朗が部屋に戻ってくるとそこには怒髪天の父が待ち構えていた。そして張り飛ばされた。
 こんな夜中にお前は何をしてるんだ、そんな教育をした覚えはない、近所中に響き渡るような大声で怒鳴られた。
 朝になって痛みで目が覚めて、鏡を見て頬の腫れにびっくりした。
 こんなになるほど強く殴らなくたっていいじゃないかと腹が立って、お前なんぞ行きたければ何処へなりとも行けばいいと言った父の言葉を思い出して、それなら丁度いいから一朗はみづきと駆け落ちしてやることにした。
 みづきを家から連れ出して、自由にしてやろうと思った。
「何も言わないで出てきちゃって、皆心配してますよね……」
 みづきがぽつりと言った。
「当たり前じゃないか、僕たち駆け落ちしてるんだから。心配なんて勝手にすればいいんだ」
「ですけど……」
「こんな、力一杯殴らなくたっていいと思わない?」
「……旦那様は坊ちゃんのことを思ってそうなさったんだと」
「それでこれ?」
「そうですよ。愛情の深い方ですから、それだけ怒りも大きかったのでしょう」
 そりゃあ、悪いことをしたとは思う。
 なんだかんだと夜中の徘徊が癖になってしまって、自分でも良くないと感じていたし。いい加減にしないとそのうち見付かると思いつつも、止められなかった。
 現場を押さえられなかったのが幸いだった。
 みづきが悲しげに眉を寄せる。
「旦那様のこと、お嫌いにならないでくださいね」
「どうだろ。みづきは父さまのことが好きなんだ」
「そりゃあそうです」
 きっぱり言い切るみづきに、そりゃあそうかと思った。父が家にみづきを連れてきたんだから。
「……水無月、今月は私の生まれた月なんです」
 突然言い出したみづきの言葉にびっくりする。
「え……、知らない」
「はい、誰にも言ってませんから。この誕生日を私にくださったのは、旦那様なんです。名前をくださったのも旦那様です。
 私の身の上は御存知ですね。私は自分という存在が嫌いで、生まれた不幸を呪っていました。幼い頃から身を売って暮らし、そこまでしなければ生きていかれない自分なんかいっそ消えてしまえばいいとさえ思っていました。だから旦那様に引き取られ、皆に名前を訊かれても、同じ事を繰り返す気がして言えなかったんです。
 名無しと呼ばれてても私は一向に構わなかったんですが、旦那様は気に入らなかったみたいでした。私を呼ぶと、お前の名前は今日からみづきだと仰った。
 前の名は捨ててそう名乗りなさいと。
 水無月に此処へ来たから。水無月から「な無し」でみづき。もうお前は名無しではない、立派な名前を持ったこの家の人間になったんだ。
 私はこのご恩を一生忘れない。どんなに辛い思いや悲しい思いをしようとも、この人の為にこれからの私の人生を捧げようと、その時心に誓ったんです。
 旦那様は私の恩人であって、父親のような存在の人なんです」
 父親だなんて、それじゃあ坊ちゃんに失礼ですね、とみづきは舌をちょっと出してみせた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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