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真夜中に揺れる向日葵

真夜中に揺れる向日葵

著: 高塔望生 画: 高峰顕
発行: イースト・プレス
レーベル: アズ・ノベルズ



著者プロフィール

 高塔 望生(たかとう みお)
 誕生日:10月28日/星座:さそり座/血液型:A型

解説

「俺が欲しいって素直に言えよ」
 ひき逃げ事故疑惑をめぐる厄介な依頼を受けた新米弁護士の津田は、調査のため辣腕と噂される一人の刑事に会った……。その男、深町は偶然にも数日前、津田が行きずりに抱かれた相手だった。混乱する津田に、深町は協力の条件として肉体を要求する。期間限定、交換条件の欲望……。露わになっていく事件の真相と深町の過去。駆け引きと愛しさと……津田の胸に芽生えるものは……。スパイラルLOVE☆
※こちらの作品にはイラストが収録されています。
 尚、イラストは紙書籍と電子版で異なる場合がございます。ご了承ください。

抄録

「もう一度訊く。どうして、俺を名指しで来た?」
「…それは……。交通部で一番所轄署に顔が利くのは、深町警部だと噂を耳にしたので」
 津田が曖昧に言葉を濁すと、深町は唇の端に自嘲めいた薄い笑みを浮かべている。
 何か気に障ることを言ってしまっただろうか。
「…あの」
「まぁいい。偶然とはいえ、こうして再会できたってことは縁があったってことだろうし。協力するのはやぶさかじゃない」
「本当か!?」
 勢い込んだ津田の機先を制するように、深町は少し強い口調で言った。
「ただし、条件がある」
「…えっ!? 条件って……?」
 ぺろりと唇を舐め、深町はにっこりと優しげに笑った。
「俺とつき合うこと」
 一瞬、何を言われているのか分からなかった。
 きょとんとして目を瞬(しばたた)かせた次の瞬間、津田は猛烈に腹が立っていた。
「ふざけたことを言わないでくれ」
「俺は大真面目だ。身体の相性はこの間、確認ずみだしな。バッチリだったろ?」
 なぶるような口調に、津田は口惜しさに心の底がざらつくような思いがした。
「あんなに身体の相性が抜群にいいヤツとなんか、滅多に出会えるもんじゃない。これは、一夜限りじゃもったいないと思ってたのに、朝になったら連絡先も残さず消えてるじゃないか。惜しいことしたと思ってたんだ」
 まるで、飛んで火に入る夏の虫のような言い方をされ、津田は屈辱に目眩がしそうだった。
 拳を握りしめ答えない津田を見て、深町はゆっくりと腰を上げた。
「嫌なら無理強いはしない。この話はこれで終わりだ」
 深町がドアノブに手をかけた瞬間、津田はハッとして思わず呼び止めてしまった。
「待ってくれ」
 無言のまま振り向いた深町を、唇を噛みしめじっと見つめる。
 胸の裡では怒りと口惜しさがせめぎ合い、出口を求めて渦巻いていた。
「一つだけ確認させてくれ。それは、この件の調査が終了するまでの期間限定ということだな」
「まぁ、それでもいいかな」
 念を押した津田に、深町は曖昧な笑みを浮かべて答えた。
 喉元まで溢れる苦渋を無理やり飲み下すようにして、津田は努めて冷静になろうと懸命に考えを巡らせていた。
 今ここで深町と決裂してしまったら、宮下孝司の事故調査はどうなるだろう。
 深町の協力なしに、ひき逃げの動かぬ証拠を見つけ出すことが津田にできるだろうか。
「どうする? 俺はどっちだっていいんだ」
 余裕たっぷりの深町を恨めしげに睨みつけてから、津田は半ばうなだれるようにうなずいた。
「分かった」
「よし、決まった。そうと決まれば、早速、今晩会いたいところだが、生憎(あいにく)仕事なんだよな。ったく、ついてないな」
 気に入った玩具(おもちゃ)を手に入れた子供のような声で弾むように言ってから、深町はさも残念そうに舌打ちをしている。
「まぁ、いいか。これから、いくらだってチャンスはあるんだ」
 気を取り直すように言った深町を、冷めた目でちらりと見やり、津田は悄然(しょうぜん)と立ち上がった。
 すると突然、なんの脈絡もなく不意打ちのように耳の奥で落合の嘲るような声が響いていた。
『…お前も好きだよな』

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