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和書>趣味・生活・雑誌>生き方・教養>心理学

著者プロフィール
心の謎を探る会(こころのなぞをさぐるかい)
心理学・精神医学・カウンセリングなどに関心を持つ面々で構成されたグループ。人間という小宇宙の核である「心」や「脳」の活動を鋭く観察し、隠された本心、性格、性質、人格などの謎と不思議を解き明かすことに日々、没頭。心の奥底まで見抜いてしまうその秀でた洞察力と分析力は注目を集めている。著書に『あなたも心理学者だ』『乱用を禁ズ!ワルの心理学』『精神分析が面白いほどわかる本』(小社刊)がある。
心理学・精神医学・カウンセリングなどに関心を持つ面々で構成されたグループ。人間という小宇宙の核である「心」や「脳」の活動を鋭く観察し、隠された本心、性格、性質、人格などの謎と不思議を解き明かすことに日々、没頭。心の奥底まで見抜いてしまうその秀でた洞察力と分析力は注目を集めている。著書に『あなたも心理学者だ』『乱用を禁ズ!ワルの心理学』『精神分析が面白いほどわかる本』(小社刊)がある。
解説
似たような犯罪が流行するのはなぜ? エリート・サラリーマンが犯罪を犯してしまうのはなぜ?……「殺人」「ストーカー」「幼児虐待」「万引き」「詐欺」など、悪質な犯罪に手を染める人間に共通の心理や行動を読み解き、彼らの心にひそむ“闇”に鋭く迫る入門書!
目次
†性格、人格、環境…犯人に“共通する”もの――
1章 犯罪に手を染めてしまう人は我々と、どこがどう違うのか
犯罪者は特別な人間なのか? ●生来性犯罪説
犯罪者は生まれつきなのか?環境がつくるのか? ●素質説と環境説
犯罪を犯す人間に共通する、ある性格とは? ●意志欠如者
「劣等感」が犯罪を生むって、ほんとう? ●補償
「ストーカー」になる人って、どんな人? ●人格障害
くり返し犯罪に手を染めてしまうのは、なぜ? ●累犯者の性格
なぜ「コソ泥」はドロボーしかできないのか? ●純粋窃盗犯
「放火」をやめられなくなる心理とは? ●ピロマニア
「スリ」なぜ、常習になりやすいのか? ●古典的犯罪
なぜ、死刑囚は“傑作”を残すのか? ●プリゾニゼーション
「制服」を着ると、なぜ人は残酷になるのか? ●没個性化
なぜ、独裁者にさからうことができないのか? ●絶対服従の心理
人はなぜ、集団リンチに加勢してしまうのか? ●群集心理
【犯罪捜査の心理学(1)】プロファイリングとは何か?
†事件を生む社会と心のウラ側にひそむもの――
2章 犯罪とは何か、なぜ犯罪が起きるのか
そもそも、犯罪はどうして起きるのか? ●アノミー理論
なぜ、わざわざ犯行声明を出す犯人がいるのか? ●劇場型犯罪
似たような犯罪が“流行”するのは、なぜ? ●犯罪の連鎖
犯罪が発生しやすい地域って、どんなところ? ●犯罪都市
“犯罪の陰に女あり”というのは、ほんとう? ●ファム・ファタール
なぜ、助けを求められても動けないのか? ●援助行動
なぜ、人はみな犯罪心理を解説したがるのか? ●シロウト理論
【犯罪捜査の心理学(2)】連続殺人犯をプロファイリングする
†ふだんはマジメなあなたほどアブナイ?!
3章 つい“魔が差してしまう”心の闇を解き明かす
ふだんはマジメな人が、なぜ、犯罪に手を染めるのか? ●ペルソナ
エリート・サラリーマンが犯罪を犯すのは、なぜ? ●ホワイトカラー犯罪
マジメなコが、つい万引きをしてしまう理由とは? ●初発非行
何度捕まっても、万引きをやめないのは、なぜ? ●レッテル貼り
魔が差したように、痴漢行為に走ってしまう心理とは? ●イド
“覗き魔”は“レイプ魔”になりやすい?! ●窃視
なぜ、男は“魔性の女”にハマってしまうのか? ●アニマ
なぜ“ドン・ファン”は世界中のヒーローなのか? ●代理満足
【犯罪捜査の心理学(3)】目撃者の証言は、どこまでアテになるか?
†怒り、恨み、猟奇…が“殺意”に変わるとき
4章 理性ある人間なのになぜ“殺人”を犯すのか
人を殺したくなるほどの「恨み」の正体とは? ●依存
なぜ、カッとなって人を殺してしまうのか? ●ブラック・アウト
「復讐」を決意するのは、どんなとき? ●過剰報復
「怨恨殺人」のウラ側にひそむ心理とは? ●投影的同一視
“犯行の記憶”がなくなるって、ほんとう? ●精神的視野狭窄
犯行後も平然としていられるのは、なぜ? ●抑圧
猟奇的な殺人を犯す人は“サディスト”なのか? ●サディズム殺人犯症候群
「暗殺」犯の奥底にひそむ心理とは? ●ヒーロー妄想
“動物いじめ”は、ほんとうに危険な兆候か? ●置き換え
船の上で殺人事件が起きやすいのは、なぜ? ●ストレス殺人
【犯罪捜査の心理学(4)】警察の取り調べにみる容疑者との心理的駆け引き
†DV、幼児虐待、親への憎しみ…憎愛は紙一重?!――
5章 “家族”に殺意をいだく 本当の理由とは
夫が妻に暴力をふるうのは、なぜ? ●接合妄想
DVをエスカレートさせてしまう心理とは? ●心理的監禁
なぜ、愛しているはずの妻を殺すのか? ●犯行動機の二重登録
なぜ、可愛いわが子を虐待するのか? ●ミュンヒハウゼン症候群
“良き父親”が、なぜ、息子を殺してしまうのか? ●同一化
息子が父親に殺意をいだく理由とは? ●エディプス・コンプレックス
“良き息子”“良き娘”が母親を殺してしまうのは、なぜ? ●バッド・マザー
なぜ、娘が父親に殺意をいだくのか? ●エレクトラ・コンプレックス
【犯罪捜査の心理学(5)】ポリグラフはどう使われるのか?
†優等生とワルを分ける、ほんの微妙な差――
6章 “非行”へと走る少年は心の奥底に何を抱えているか
“優等生”が、突然ワルに豹変する理由とは? ●悪の免疫
“優等生のワル”の心のウラ側とは? ●漂流理論
非行少年は、どうやって“本物のワル”になるのか? ●ラベリング理論
非行少年は、どうして“群れたがる”のか? ●集団非行
暴走族が“初日の出暴走”をする本当の理由とは? ●日常性からの離脱
暴走族はなぜ、二〇歳になると“引退”するのか? ●遊び型の非行
なぜ“いじめられっ子”は、口を閉ざすのか? ●投影
“引きこもり”の若者が、ときに爆発するのは、なぜ? ●依存性攻撃
ポルノグラフィは、少年の性犯罪を誘発するか? ●カタルシス
†詐欺師、危険な宗教…にみるイカサマの心理
7章 なぜ人は、人を騙し、人に騙されるのか
なぜ“平気でウソをつく人”がいるのか? ●防衛機制
ウソをマコトと信じこむ、詐欺師にひそむ心理とは? ●空想虚言症
なぜ、詐欺師には“役者”が多いのか? ●演技性人格障害
結婚詐欺師にやすやすとお金を貢いでしまうのは、なぜ? ●感情転移
だまされていることを、なぜ、認めようとしないのか? ●否認(デナイアル)
なぜ人は、アブナイ宗教にハマってしまうのか? ●プラシーボ効果
予言がはずれても信者が離れないのは、なぜか? ●認知的不協和
1章 犯罪に手を染めてしまう人は我々と、どこがどう違うのか
犯罪者は特別な人間なのか? ●生来性犯罪説
犯罪者は生まれつきなのか?環境がつくるのか? ●素質説と環境説
犯罪を犯す人間に共通する、ある性格とは? ●意志欠如者
「劣等感」が犯罪を生むって、ほんとう? ●補償
「ストーカー」になる人って、どんな人? ●人格障害
くり返し犯罪に手を染めてしまうのは、なぜ? ●累犯者の性格
なぜ「コソ泥」はドロボーしかできないのか? ●純粋窃盗犯
「放火」をやめられなくなる心理とは? ●ピロマニア
「スリ」なぜ、常習になりやすいのか? ●古典的犯罪
なぜ、死刑囚は“傑作”を残すのか? ●プリゾニゼーション
「制服」を着ると、なぜ人は残酷になるのか? ●没個性化
なぜ、独裁者にさからうことができないのか? ●絶対服従の心理
人はなぜ、集団リンチに加勢してしまうのか? ●群集心理
【犯罪捜査の心理学(1)】プロファイリングとは何か?
†事件を生む社会と心のウラ側にひそむもの――
2章 犯罪とは何か、なぜ犯罪が起きるのか
そもそも、犯罪はどうして起きるのか? ●アノミー理論
なぜ、わざわざ犯行声明を出す犯人がいるのか? ●劇場型犯罪
似たような犯罪が“流行”するのは、なぜ? ●犯罪の連鎖
犯罪が発生しやすい地域って、どんなところ? ●犯罪都市
“犯罪の陰に女あり”というのは、ほんとう? ●ファム・ファタール
なぜ、助けを求められても動けないのか? ●援助行動
なぜ、人はみな犯罪心理を解説したがるのか? ●シロウト理論
【犯罪捜査の心理学(2)】連続殺人犯をプロファイリングする
†ふだんはマジメなあなたほどアブナイ?!
3章 つい“魔が差してしまう”心の闇を解き明かす
ふだんはマジメな人が、なぜ、犯罪に手を染めるのか? ●ペルソナ
エリート・サラリーマンが犯罪を犯すのは、なぜ? ●ホワイトカラー犯罪
マジメなコが、つい万引きをしてしまう理由とは? ●初発非行
何度捕まっても、万引きをやめないのは、なぜ? ●レッテル貼り
魔が差したように、痴漢行為に走ってしまう心理とは? ●イド
“覗き魔”は“レイプ魔”になりやすい?! ●窃視
なぜ、男は“魔性の女”にハマってしまうのか? ●アニマ
なぜ“ドン・ファン”は世界中のヒーローなのか? ●代理満足
【犯罪捜査の心理学(3)】目撃者の証言は、どこまでアテになるか?
†怒り、恨み、猟奇…が“殺意”に変わるとき
4章 理性ある人間なのになぜ“殺人”を犯すのか
人を殺したくなるほどの「恨み」の正体とは? ●依存
なぜ、カッとなって人を殺してしまうのか? ●ブラック・アウト
「復讐」を決意するのは、どんなとき? ●過剰報復
「怨恨殺人」のウラ側にひそむ心理とは? ●投影的同一視
“犯行の記憶”がなくなるって、ほんとう? ●精神的視野狭窄
犯行後も平然としていられるのは、なぜ? ●抑圧
猟奇的な殺人を犯す人は“サディスト”なのか? ●サディズム殺人犯症候群
「暗殺」犯の奥底にひそむ心理とは? ●ヒーロー妄想
“動物いじめ”は、ほんとうに危険な兆候か? ●置き換え
船の上で殺人事件が起きやすいのは、なぜ? ●ストレス殺人
【犯罪捜査の心理学(4)】警察の取り調べにみる容疑者との心理的駆け引き
†DV、幼児虐待、親への憎しみ…憎愛は紙一重?!――
5章 “家族”に殺意をいだく 本当の理由とは
夫が妻に暴力をふるうのは、なぜ? ●接合妄想
DVをエスカレートさせてしまう心理とは? ●心理的監禁
なぜ、愛しているはずの妻を殺すのか? ●犯行動機の二重登録
なぜ、可愛いわが子を虐待するのか? ●ミュンヒハウゼン症候群
“良き父親”が、なぜ、息子を殺してしまうのか? ●同一化
息子が父親に殺意をいだく理由とは? ●エディプス・コンプレックス
“良き息子”“良き娘”が母親を殺してしまうのは、なぜ? ●バッド・マザー
なぜ、娘が父親に殺意をいだくのか? ●エレクトラ・コンプレックス
【犯罪捜査の心理学(5)】ポリグラフはどう使われるのか?
†優等生とワルを分ける、ほんの微妙な差――
6章 “非行”へと走る少年は心の奥底に何を抱えているか
“優等生”が、突然ワルに豹変する理由とは? ●悪の免疫
“優等生のワル”の心のウラ側とは? ●漂流理論
非行少年は、どうやって“本物のワル”になるのか? ●ラベリング理論
非行少年は、どうして“群れたがる”のか? ●集団非行
暴走族が“初日の出暴走”をする本当の理由とは? ●日常性からの離脱
暴走族はなぜ、二〇歳になると“引退”するのか? ●遊び型の非行
なぜ“いじめられっ子”は、口を閉ざすのか? ●投影
“引きこもり”の若者が、ときに爆発するのは、なぜ? ●依存性攻撃
ポルノグラフィは、少年の性犯罪を誘発するか? ●カタルシス
†詐欺師、危険な宗教…にみるイカサマの心理
7章 なぜ人は、人を騙し、人に騙されるのか
なぜ“平気でウソをつく人”がいるのか? ●防衛機制
ウソをマコトと信じこむ、詐欺師にひそむ心理とは? ●空想虚言症
なぜ、詐欺師には“役者”が多いのか? ●演技性人格障害
結婚詐欺師にやすやすとお金を貢いでしまうのは、なぜ? ●感情転移
だまされていることを、なぜ、認めようとしないのか? ●否認(デナイアル)
なぜ人は、アブナイ宗教にハマってしまうのか? ●プラシーボ効果
予言がはずれても信者が離れないのは、なぜか? ●認知的不協和
抄録
なぜ、わざわざ犯行声明を出す犯人がいるのか? ●劇場型犯罪
「劇場型犯罪」という言葉が最初に使われたのは、江崎《えざき》社長誘拐《ゆうかい》にはじまる一連の「グリコ・森永事件」においてだった。
犯行グループは、江戸川乱歩《えどがわらんぽ》の怪人二十面相をパロッた“怪人二十一面相”を名乗り、マスコミ各社に犯行声明をおくりつづけた。それらの犯行声明は、奇妙な謎かけと大阪弁のとぼけた言い回しがあいまって、警察も世間もまるごとオチョクッているようなムードを投げかけたものだ。
しかし、いまになってふり返ると、この犯罪は「劇場型」の称号を与えられるためのもっとも大きな条件を欠いていたことに気づかされる。
というのは、犯行声明は、いかにも「世間に注目される快楽」を満喫しているようでいながら、犯行グループは、最後まで姿をあらわさず、正体を明かすこともなかったからだ。
その点では、少年の「劇場型犯罪」の走りとなった「神戸連続児童殺傷事件」についても同じことがいえる。
犯人の一四歳の少年は、「酒鬼薔薇聖斗《さかきばらせいと》」を名乗り、その死体に挑戦状をそえ、新聞社に犯行声明をおくるなどして、劇的なアンチ・ヒーローをきどっていた。じっさい、くだんの少年は、のちに「すべてマスコミ受けをねらってやった」と自供したという。
だが、その少年にとっても逮捕は予定外のことであり、素顔と本名を世間にさらすつもりはなかったといわれている。その証拠に逮捕後は、少年法の殻《から》のなかに入りこむかたちとなり、アンチ・ヒーローをきどることはできないだろう。
映画『セブン』に登場する殺人鬼ジョン・ドゥは、七つの大罪を擬《ぎ》した連続殺人を完遂して世間の注目を集めたあと、みずから警察に出頭した。そうでなければ、悪の主役が自分であるというドラマが完成しないからだ。
アメリカやヨーロッパの名だたる殺人犯たちは、いずれも、警察を翻弄《ほんろう》する快楽にひたるいっぽうで、大ドラマの主役として名乗り出ることができないことにジレンマをいだいていたという。
その意味では、それこそジョン・ドゥのように、役者の花道を通るようにして姿をあらわしてこそ、真の「劇場型犯罪」ということができるだろうか。
はたして、そんな映画みたいなことが、じっさいに起こりうるものだろうか。
ところが、それが、この日本で起こったのである。二〇〇〇年の五月連休に起きた「西鉄《にしてつ》高速バスジャック殺人事件」が、それだ。
バスジャックとなれば、いうまでもなく、自分の姿を堂々とさらすことになる。犯人の一七歳の少年は、合同捜査本部の調べに対し、「『酒鬼薔薇聖斗』を神のように尊敬していた」と自供したばかりか、「『酒鬼薔薇聖斗』を医療少年院から救い出し、一緒に少年の王国をつくりたい」などと供述したという。
この少年の精神鑑定をおこなった精神科医によれば、彼のなかには、絶えず「世間から忘れ去られる」という不安が渦巻《うずま》いていたという。
勉強もスポーツもダメ。かといって、ツッパリにもナンパ野郎にもなれない。そんな彼は、本気で、自分が消えてなくなってしまうという不安をいだいたようだ。「酒鬼薔薇聖斗」の犯行声明にあった「透明な僕」というフレーズが、そこにオーバーラップしてくる。
「劇場型犯罪」の原点は、「犯行がマスコミに大きくとりあげられることで得るスター気分」にあるとされているが、その背後には、もはや大事件の主役にでもならないかぎり、自分は“無のまま”で終わってしまうという、自己存在についての激しい危機感があるのだろうか。
「劇場型犯罪」という言葉が最初に使われたのは、江崎《えざき》社長誘拐《ゆうかい》にはじまる一連の「グリコ・森永事件」においてだった。
犯行グループは、江戸川乱歩《えどがわらんぽ》の怪人二十面相をパロッた“怪人二十一面相”を名乗り、マスコミ各社に犯行声明をおくりつづけた。それらの犯行声明は、奇妙な謎かけと大阪弁のとぼけた言い回しがあいまって、警察も世間もまるごとオチョクッているようなムードを投げかけたものだ。
しかし、いまになってふり返ると、この犯罪は「劇場型」の称号を与えられるためのもっとも大きな条件を欠いていたことに気づかされる。
というのは、犯行声明は、いかにも「世間に注目される快楽」を満喫しているようでいながら、犯行グループは、最後まで姿をあらわさず、正体を明かすこともなかったからだ。
その点では、少年の「劇場型犯罪」の走りとなった「神戸連続児童殺傷事件」についても同じことがいえる。
犯人の一四歳の少年は、「酒鬼薔薇聖斗《さかきばらせいと》」を名乗り、その死体に挑戦状をそえ、新聞社に犯行声明をおくるなどして、劇的なアンチ・ヒーローをきどっていた。じっさい、くだんの少年は、のちに「すべてマスコミ受けをねらってやった」と自供したという。
だが、その少年にとっても逮捕は予定外のことであり、素顔と本名を世間にさらすつもりはなかったといわれている。その証拠に逮捕後は、少年法の殻《から》のなかに入りこむかたちとなり、アンチ・ヒーローをきどることはできないだろう。
映画『セブン』に登場する殺人鬼ジョン・ドゥは、七つの大罪を擬《ぎ》した連続殺人を完遂して世間の注目を集めたあと、みずから警察に出頭した。そうでなければ、悪の主役が自分であるというドラマが完成しないからだ。
アメリカやヨーロッパの名だたる殺人犯たちは、いずれも、警察を翻弄《ほんろう》する快楽にひたるいっぽうで、大ドラマの主役として名乗り出ることができないことにジレンマをいだいていたという。
その意味では、それこそジョン・ドゥのように、役者の花道を通るようにして姿をあらわしてこそ、真の「劇場型犯罪」ということができるだろうか。
はたして、そんな映画みたいなことが、じっさいに起こりうるものだろうか。
ところが、それが、この日本で起こったのである。二〇〇〇年の五月連休に起きた「西鉄《にしてつ》高速バスジャック殺人事件」が、それだ。
バスジャックとなれば、いうまでもなく、自分の姿を堂々とさらすことになる。犯人の一七歳の少年は、合同捜査本部の調べに対し、「『酒鬼薔薇聖斗』を神のように尊敬していた」と自供したばかりか、「『酒鬼薔薇聖斗』を医療少年院から救い出し、一緒に少年の王国をつくりたい」などと供述したという。
この少年の精神鑑定をおこなった精神科医によれば、彼のなかには、絶えず「世間から忘れ去られる」という不安が渦巻《うずま》いていたという。
勉強もスポーツもダメ。かといって、ツッパリにもナンパ野郎にもなれない。そんな彼は、本気で、自分が消えてなくなってしまうという不安をいだいたようだ。「酒鬼薔薇聖斗」の犯行声明にあった「透明な僕」というフレーズが、そこにオーバーラップしてくる。
「劇場型犯罪」の原点は、「犯行がマスコミに大きくとりあげられることで得るスター気分」にあるとされているが、その背後には、もはや大事件の主役にでもならないかぎり、自分は“無のまま”で終わってしまうという、自己存在についての激しい危機感があるのだろうか。
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