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不在証明〜アリバイ〜

不在証明〜アリバイ〜

著: 愁堂れな
発行: フロンティアワークス
レーベル: ダリア文庫e シリーズ: 証明シリーズ



著者プロフィール

 愁堂 れな(しゅうどう れな)
 12月20日生まれ。東京都出身・在住。

解説

 刑事の秋吉満は警視庁捜査一課から突然、西多摩署へ異動を命じられた。着任早々起きた発砲事件の現場で秋吉の前に現れた被害者は、かつて突然姿を消した高校の同級生・高柳泰隆だった。優等生だった彼は、今は青龍会の若頭で神宮寺と名乗り、しかも初対面であるかのように振る舞うのだった。秋吉の脳裏には18年前、立ち去る彼が残したキスが蘇るが……。

※ 本文にイラストは含まれていません。

目次

不在証明〜アリバイ〜
Pure
あとがき

抄録

 飲み慣れない酒に気分を悪くする者が続出したが、最後には皆、騒ぎ疲れて宿舎の中で寝てしまった。当時から俺は酒には強かったようで、人一倍飲んだはずであるのに、気分が悪くなることも、わけがわからなくなることもなく、皆の高鼾が響く中、それでも騒ぎ疲れてうつらうつらしていた。
 宿舎には冷房設備がなく、むっとする暑さが俺を快適な眠りから遠ざけていた。かといってはっきり目が覚めているわけでもなく、半分寝ぼけているような、そんな状態だったと思う。
 と、そのとき不意に、むっくりと隣に寝ていた男が起き上がった。トイレにでも行くのかな、という俺の予測に反し、男は半身を起こしたままじっとして動く素振りを見せなかった。
 彼の視線が俺に注がれているように感じたが、室内は暗く、実際のところはよくわからなかった。じっと動かずにいることで、気分でも悪いのではないかと心配になり、声をかけようとしたとき、男のシルエットがゆっくりと俺に覆いかぶさってきた。
「…………」
 息がかかるほど近くに男の顔がある。なんだ、と問いかけようとしたが、思ったより俺は眠りの世界に近いところにいたようで、口を開くことができなかった。更に男の顔が近づいたのを感じ、一体何をする気だと身構えたその瞬間、やわらかな感触を唇に得た。
 キス――?
 恥ずかしい話だが、いっぱしの不良を気取っていた俺は、その頃正真正銘の童貞で、女の子と付き合ったこともなければキスの経験すらなかった。
 それだけに唇に触れたその温かな感触が、他人の唇によるものか、すぐには判断がつかなかったのだが、驚きのあまり俺が固まってしまっている間に、屈み込んでいた男は身体を起こすとすっと立ち上がり、部屋を出ていってしまった。
「…………」
 さすがに今の衝撃に俺の目はすっかり覚め、がばっと起き上がると慌てて周囲を見回し、今、部屋を出ていったのは誰かと探り始めた。
 薄暗い中では埒が明かないと立ち上がって灯りをつけ、一人一人の顔をチェックする。
「なんだよ、消せよ」
「眩しいぞ」
 クレームを聞き流しながらチェックを終えたとき、そのとき室内にいなかった男はただ一人だと俺は察していた。
 俺の横に寝て、俺の唇を唇で塞いだのは多分――部屋に唯一いなかった応援団員、泰隆だった。
 わかった瞬間、俺は激しく混乱した。急に酔いが回ってきたように頭が酷くぐらぐらした。
 泰隆が俺にキスをした――にわかには信じられず、夢でも見たのだろうと思ったほうがよほど納得できた。が、これが夢などではないということもまた、誰より自分がよくわかっていた。
 部屋を出ていった泰隆はなかなか戻ってこなかった。多分手洗いだろうと思い、最初のうち俺は、彼が戻ってきたとき声をかけるか否か、迷いまくっていたのだが、いつまで待っても彼は部屋に戻ってこず、やがて白々と夜が明ける頃になっても、部屋の扉が開くことはなかった。
 翌朝、酒臭い室内で皆が目覚め始めても、泰隆の姿は消えたままだった。朝食前に解散となったのだが、泰隆がいないことを心配したOBが自宅に連絡を入れたところ、昨夜のうちに帰ってきたと言われたそうだ。
「酔っ払って寝ぼけたんじゃないか」
 その場はそれで皆で笑って終わったのだが、翌日の練習にも泰隆は姿を現さず、やがて担任経由で彼の突然の転校を知らされたのだった。

*この続きは製品版でお楽しみください。