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美獣(上)

美獣(上)


発行: 集英社
シリーズ: 美獣
価格:530pt
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 高千穂 遙(たかちほ はるか)
 1951年11月7日、名古屋生。本名・竹川公訓(たけかわきみよし)。法政大学社会学部社会学科卒。大学在学中にアニメーションの企画・制作集団「スタジオぬえ」を設立。1977年、「クラッシャージョウ 連帯惑星ピザンの危機」で作家デビュー。1980年「ダーティペアの大冒険」で星雲賞(日本短篇部門)受賞。1986年「ダーティペアの大逆転」で星雲賞(日本長編部門)受賞。
 日本SF作家クラブに所属。

解説

 精悍な、猛禽のような顔つき、暗い眸と黄金に輝く髪、極限まで鍛えあげられた巨大な体躯の若人――美しき獣、ハリィデール。
 すべての記憶をなくした彼は、自分自身を捜す旅に出て、荒野を越え、海辺の村にやって来た。折りしもその村が巨人族の襲撃をうけ、彼はそこで神々の戦士「美獣」としてグングニールの神槍を授けられ、闘うことになるのだった。
 かくて、使命に目覚めた美獣の血と闘争と殺戮の日々がはじまった……。

目次

第一章 北海の獅子王
第二章 銀仮面の館
第三章 黒い呪術師
第四章 荒野の電光狼

抄録

 だしぬけにあたりが真昼のように明るくなった。瓦礫(がれき)になった最後の柱が光り輝いているのだ。目にした者はほとんど反射的に顔を覆った。だが、それは少しもまぶしくはなかった。人々は恐る恐る手をのけた。まるで白い塊(かたまり)のような光の中に、何かの影があった。
 槍、である。
 切っ先を上に向けて、光を放つ一本の長槍が宙に浮かんでいた。
 槍の穂先には、神々の文字、ルーンが刻みこまれている。
 居合わす人々で、その槍のことを知らぬものはない。それはオーディンの宝、グングニールの槍であった。
 ふいに槍が飛び出した。
 まずまっすぐに上昇し、次に直角に折れて海に向かう。立ちつくす巨人たちのただ中だ。そのあまりにも速い動きに巨人たちはなす術(すべ)もない。
 悲鳴と血しぶきが同時にあがった。
 槍がバドラスの首を貫き、肉と骨を抉(えぐ)ってうしろに抜けた。
 バドラスは血泡を吹き、全身を朱に染めて海の中に倒れ込んだ。他の巨人たちは茫然としてそれを見つめ、凍ったように動きを止めている。
 槍がくるっと回転して向きを変え、再び巨人の中に突っ込んだ。
 今度は三人の悲鳴が空気をつんざいた。
 胸、腹から血を噴き出して巨人が折り重なるように海に没した。槍はそのまま直進し、神殿をめざした。
 神殿の上空にきた。
 穂先を天に、石突きを地に向けて一直線に下降する。直下には台座があり、ハリィデールがいる。
 グングニールはハリィデールの右手の中にぴたりとおさまった。
 しばらくの間、しんとして声がなかった。また、動くものもいなかった。
 誰もがことの成り行きに息を呑み、誰もが茫然として思考力を失っていた。
 電光が黒雲と槍とを結んだ。激しい雷鳴が轟き、眩(まばゆ)い光と炎が瞬間ハリィデールを包む。
 ――即死だ!
 すべての人々がそう思った。しかし、ハリィデールはグングニールを手にしたまま何ごともなく立っていた。髪は雄々しく逆立ち、筋肉は闘志にあふれた緊張で小山のように盛り上がっている。その姿はまるで一匹の猛獣――均整のとれた美しい獣のようだ。
 ――神によって選ばれた男。
 村人たちの脳裏をあの古い予言の詩(うた)の一節がよぎった。
 「美しき獣……」
 ふっと、まったく意識することなしにセアラの口から言葉がついてでた。つぶやきのような、本当にかすかな声だったが、それは意外なほど大きく響いた。
 「美獣だっ!」
 誰かがそれに応(こた)えるように叫んだ。
 「美獣だっ!」
 さらにそれに和す声が次々とあがった。たちまち神殿の周囲は騒然となった。
 ハリィデールは当惑していた。
 なぜだ? なぜだ? なぜだ?
 おれは。おれは。おれは!
 言葉が精神の中で渦を巻いていた。何かを考えることができなくなっている。全身はたぎる血の昂奮で、火のように熱い。何かすることを彼は求められている。だが、何をすべきかが、かれにはわからないのだ。
 「ハリィデール!」
 ヴァーグルの声がかれを呼んだ。
 「ハリィデール、選ばれし者よ。お前こそ美獣、神々によって選ばれた者なのじゃ! さあ、討て! グングニールの槍もて、巨人を、悪霊を討つのじゃ。ハリィデール!」
 ――なぜだ? なぜ力がみなぎる? なぜからだが、血が燃える。おれが美獣なのか? おれが選ばれし者なのか? おれは誰なんだ!
 行動が思考を超えていた。
 いつの間にかハリィデールはグングニールの槍を振りかざし、神殿をあとにしてフィヨルドの崖の上を走っていた。なぜそうしたのかは、自分でもわかってはいなかった。身の裡(うち)にどこからかつきあげてくる闘いへの衝動がそうさせたのだ。

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