マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションSF・ファンタジー小説日本SF小説

狼たちの曠野

狼たちの曠野


発行: 集英社
価格:530pt
形式:XMDF形式⇒詳細 
対応端末:パソコン ソニー“Reader”
みんなの評価 未評価
◆レビューを書く

¥0サンプル
購入する


著者プロフィール

 高千穂 遙(たかちほ はるか)
 1951年11月7日、名古屋生。本名・竹川公訓(たけかわきみよし)。法政大学社会学部社会学科卒。大学在学中にアニメーションの企画・制作集団「スタジオぬえ」を設立。1977年、「クラッシャージョウ 連帯惑星ピザンの危機」で作家デビュー。1980年「ダーティペアの大冒険」で星雲賞(日本短篇部門)受賞。1986年「ダーティペアの大逆転」で星雲賞(日本長編部門)受賞。
 日本SF作家クラブに所属。

解説

 蒼い空があった。真紅に燃える巨大な太陽があった。そして果てしなく広がる曠野と遙か地平線まで続く一本のハイウェイ。それらすべては男たちの世界だ。風のように駆け抜ける狼たちのものだ。大地を高性能のバイクで疾駆する群盗の一団。戦いに飢え、愛に飢え、原野を馬賊のごとく暴れまわる狼たちの群れの行方に待つものは……。SFバイクアクション。

目次

第一章
第二章
第三章
第四章

抄録

 XJのライダーが、振りむきざまに俺をライアットガンで撃った。やつだけは無事だったのだ。スモークシールドのフルフェィスをかぶっているので顔が見えない。しかし、体格と乗り方で、やつが誰かは見当がついた。やつは、テッドだ。
 俺の左肩に激痛が走った。散弾の一発が喰いこんだらしい。ダメージはないが、痛む。
 俺はスクラップの塊になったバイクと倒れて動かない四人のライダーをよけ、XJに迫ろうとした。パワーは劣るが、向こうは後方に気をとられながらの操縦だ。
 また一発、撃った。例のM97だ。今度は大きくはずれた。上体をひねっての射撃は、やつの腕では無理だ。撃つ瞬間がはっきりとわかり、逃げることすらできる。
 俺はじりじりとテッドを追いつめた。立場が逆になっていた。今は、俺が狩る側だ。
 テッドが、最後の一発を撃った。銃口を腋からだしての不意撃ちだったが、俺にはすっかり読めていた。むろん、はずれだ。
 テッドがM97を投げ捨てた。俺にはそのときやつが発したののしり声までが聞こえたような気がした。
 XJがひらりと左にバンクした。逃げるつもりだ。
 俺が待っていたのは、実にこの一瞬だった。
 俺は速度を緩めず、こちらに側面を見せたXJのテールを狙った。
 GTとXJが接触寸前の位置にくる。
 俺は車体を左に倒し、同時にXJのシートを左足で思いきり蹴飛ばした。
 テッドのからだが泳いだ。あおりでXJがバランスを失った。そのまま滑るようにひっくり返った。
 俺はといえば、反動が思ったよりも大きかった。
 GTのバランスが右に崩れた。あわてて立て直しをはかったが、フレームがよじれてうまく制御できない。
 結局、俺も転倒した。からだと路面が平行になった。ヘルメットを捨てたので、頭だけは打たないように注意したが、それもむずかしかった。背中と肩は、革のプロテクターでカバーされている。しかし、つ・な・ぎ・はズタズタに裂けた。
 一〇〇メートル近く滑走して、まず俺が止まった。GTは、もう少し滑っていった。
 やはり頭を打っていた。たいしたことはないが、軽いめまいがあった。俺は上体を起こし、二、三度、頭を振った。
 唐突に、俺の血がたぎった。
 何だか知らないが、ものすごい怒りが、ふつふつと湧いてきた。
 理由はすぐにわかった。記憶が、戻ったのだ。
 俺はテッドの姿を求めた。全身が熱くなり、理性というものが、完全に失せた。
 殺してやる!
 ただそれだけが頭の中にあった。すべてはやつのせいなのだ。M31が暴発して村人の頭を吹き飛ばしたのも、俺がムレオクリにされねばならなかったのも……。
 殺してやる!
 テッドはひざまずき、呻(うめ)いていた。ダメージはさほどでもないらしい。好都合だ。生きていれば、ぶち殺すことができる。
 俺は立ち上がろうとした。
 だが、立ち上がれなかった。
 右の太ももに激痛があった。見ると、ウィンカーのステーが折れて突き刺さっていた。
 「くそったれ!」
 俺は悪態をつき、ステーを引き抜いた。血がほとばしった。右足全体が痺れていて、力がはいらなかった。
 俺は両手だけで前進を開始した。もうなんでもいい。とにかくやつのところに辿り着いて、やつの首をねじ切ってやるのだ。
 テッドが呻きながら首をめぐらした。フルフェイスのシールドが、どこかに飛んでいってしまっている。
 俺と、目が合った。
 テッドは、すべてを悟った。
 驚くべき早さで立ち上がった。
 「待て!」
 俺は叫んだ。
 テッドはXJを起こし、エンジンを始動させた。タフなバイクだ。XJは動いた。
 「待て!」
 俺はもう一度叫んだ。そして、必死の力を振り絞り、立とうとした。しかし、だめだった。
 XJが走りだした。
 その姿は瞬時にして、視界から消えた。
 俺は泣いた。耐えきれずに泣いた。戻ってきた記憶が恨めしかった。路面をなぐって、泣いた。
 やがて涙も枯れた。
 俺はムレオクリのときにミーナの顔がなかったことを、なぜか思い出した。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。