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緋色の雪<特別版>【イラスト入り】

緋色の雪<特別版>【イラスト入り】

著: いとう由貴 画: 緒田涼歌
発行: リブレ
レーベル: ビーボーイノベルズ



解説

 冷酷な青年実業家・永井によって、家族との裕福な生活を奪われた貴文。数年後、復讐のために永井の許を訪れた貴文だったが、いとも簡単に捩じ伏せられ、死ぬか自分のもとで生きるか、究極の選択を迫られる。永井に囲われることを選んだ貴文に、夜ごと与えられる戯れの口付け。やがて貴文の身体はその甘い悦楽に揺れ始め……!? 濃密な本編にノベルズ未収録ショートを追加した特別版!
(※本作品はイラスト入りです。電子書籍化して配信するにあたり一部単行本と異なる仕様がございます)

抄録

 拒もうとしないのをいいことに、永井はその唇に指を伸ばした。
「……っ」
 触れると、貴文がびくりと肩を震わす。
 その拍子に、手にした杯から酒が零れた。
「あ……っ」
 触れた唇は、案に相違して柔らかく、熱かった。もう少し触れていたくなる。
 動揺した貴文の手を、永井は杯ごと包み込んだ。
「なにをする……っ」
「意地を張らずに、人の世話になればいい。おまえほどの容姿があれば、なんの働きができなくとも世話をしたがる人間はいるはずだ。なんなら俺が世話をしてやろうか?」
 貴文の手を握り、永井は囁いた。触れている貴文の手はかさつき、荒れていた。
 そういえば、四年前には滑らかな、貴族の手をしていたことを、永井は思い出していた。
 貴文はまだ二十歳そこそこに見える。記憶の中の貴文は、もっと少年だった。
 思えば、岸乃沢家が隆盛を誇っていた時、貴文はまだ幼い子供だっただろう。貴文にとって生家の豊かな記憶は、人生の最初期だけにすぎなかったはずだ。
 運の悪い坊やだ。
 だが、この気丈さは永井の好みに添う。
 たまには、情をかけてやるのも悪くはない、と永井は貴文の手を撫でた。
 その手を、貴文は振り払った。
「そうやって俺を懐柔する気か。誰がその手に乗るものか。おまえの世話になどなるくらいなら、血反吐を吐いて死んだほうがましだ。俺は必ず、おまえを引きずり落としてみせる」
「……気丈だな」
 永井の頬に、面白そうな笑みが浮かぶ。
 憎々しげに自分を睨む貴文を、永井は改めて観察するように見つめ返した。髪だけでなく、目まで、貴文は薄い色をしている。
 思わず、永井はその目元に唇を寄せた。
「な……に……っっ」
 目尻に口づけられ、貴文が驚いた声を上げる。
 永井の憐れみをいらぬというのなら、このきゃんきゃん吠えかかる小動物で遊んでみるのも一興だろう。
 逃げられないように肩を抱き、永井は囁いた。
「気丈なのもいいが、降参したくなったらいつでも言えよ。その時は、たとえおまえがどれだけ俺にたてついていたとしても、おまえの世話のために金を出してやろう。約束だ」
 貴文が手にしている杯を、貴文の指ごと唇に運ぶ。
 一息に口に含み、永井は貴文の頤に手をかけた。
 貴文はなにをされるのかわからないようで、呆然と永井を見つめている。

*この続きは製品版でお楽しみください。