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夏・風・ライダー(上)

夏・風・ライダー(上)


発行: オンライン出版
シリーズ: 夏・風・ライダー
価格:530pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 高千穂 遙(たかちほ はるか)
 1951年11月7日、名古屋生。本名・竹川公訓(たけかわきみよし)。法政大学社会学部社会学科卒。大学在学中にアニメーションの企画・制作集団「スタジオぬえ」を設立。1977年、「クラッシャージョウ 連帯惑星ピザンの危機」で作家デビュー。1980年「ダーティペアの大冒険」で星雲賞(日本短篇部門)受賞。1986年「ダーティペアの大逆転」で星雲賞(日本長編部門)受賞。
 日本SF作家クラブに所属。

解説

 バイクを愛し、走ることを何よりも愛する者たちが集まって、町内に二輪ロードレース・チームが誕生した。その名も、“チーム・ノブ”。イラストレーター、喫茶店マスター、モトハウスの社長、そして仕事を捨ててもレースに賭ける一人の若者。めざすは鈴鹿四時間耐久レースだ。一方、隣町にも対抗のチーム“尾高レーシング”が誕生。両者は真っ向から対決することになった。そしてそれが、長い夏の始まりだった──。吼えるようなエクゾースト・ノイズに彩られて、幾つもの青春が交錯しながらひとつになってゆく。綿密な取材が生んだ、感動の熱血バイク・レース小説。

目次

夏・風・ライダー(上)

抄録

 シグナルタワーのデジタル表示が、一秒刻みで動きはじめた。
 9……8……7……6……5……
 時報の音が加わった。目は数字を追い、耳はその音しか捕えない。あとは一切が無だ。からだがリズムを刻む。
 ……3……2……1……ゼロ
 シグナルが青に変わった。
 何も考えなかった。何も意識しなかった。肉体だけが反応した。マシンにひらりとまたがり、シートに腰を置く前にセルボタンを押した。
 エンジンが掛かった。ステップに両足が乗った。クラッチをつないだ。かかとでマシンを押さえこむ。スロットルを開けた。シートに腰を落とした。
 マシンが、巨大な雪に弾き出されたかのように、凄まじい勢いで加速した。
 数台のバイクが後方に消え去った。
 第一コーナーめざして、ひたすら加速した。スロットルを開け、タンクにへばりついた。
 第一コーナー手前でインにつけ、フルブレーキング。同時にシフトダウン。クリッピング・ポイントまでに五速、そして第二コーナーの直前で四速に落とし、さらにアウト側にふくらんで、三速にダウンした。
 第三コーナーを立ち上がった。ここで三速から四速にシフトアッブ。S字コーナーへとはいる。――そこではじめて、八代は気がついた。自分の前には二台のマシンしか走っていないことを……。
 コーナーの途中で先行車のゼッケンを読んだ。トップが3で、二位が5だった。
 八代はスタートで八台を抜いた。まさしく絶妙のスタートだった。幸運に恵まれたのだ。八代は予選上位のマシンに囲まれなかった。何の妨げもなく、するりと前に出ることができた。ノーマルに近いマシンばかりで性能自体に大差がないのなら、この位置はいうまでもなく絶好のものとなる。
 だが。
 幸運は長続きしなかった。
 逆バンクを過ぎ、最終コーナーを立ち上がろうとするところで、八代はタコメーターの針を見失った。つい今しがたまで激しく首を振っていた針が瞬時にして視野から失せた。
 いや、見失ったのではなかった。針はあった。ノーマル・タコメーターの太いオレンジ色の針は、ゼロを指していた。針は、そのままぴくりとも動かない。
 タコメーターが壊れたのだ。八代は、オーバーレヴさせた覚えはなかった。マフラーを変え、キャブレターをいじったとはいえ、エンジンは基本的にはノーマルだ。レッド・ゾーンが大きく変わることはない。
 しかし、たしかにタコメーターは壊れていた。八代は全神経を耳に集めた、メーターが使えない以上、音だけが頼りだ。音で回転数をチェックするのだ。
 スタンド前のストレートで、八代は四台のマシンに抜かれた。耳に神経を集めれば、おのずからできる走りは限られてくる。勝負は捨てたも同然だった。勝負を捨てれば、少なくとも完走はできる。
 だが、八代は勝負にこだわった。正確にいえば、八代のからだが勝負にこだわった。
 二周目の第三コーナーの立ち上がりだった。インをつこうとしたマシンを八代はブロックした。スロットルを開け、前に出ようとした。
 バルブ・サージングを感じた。ピストンの動きにバルブのスプリングがついていけない。
 スロットルをすぐに戻せば良かった。戻せば後続車に抜かれるが、バルブ・サージングは収まる。
 八代はスロットルを戻さなかった。意地とかそういったものではない。そんなことを八代は意識していなかった。戻したくとも戻せなかったのだ。
 結果は即座にあらわれた。
 ピストンがバルブを突き上げた。
 嫌な音がエンジン音に混じった。
 それで八代のレースは終わった。ダメージは、わずかでも浅い方が良かった。S字を惰性で回り、逆バンクの手前で、八代はマシンをコースアウトさせた。車体をガードレールに立てかけて、シートから降りた。

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