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夏・風・ライダー(下)

夏・風・ライダー(下)


発行: オンライン出版
シリーズ: 夏・風・ライダー
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 高千穂 遙(たかちほ はるか)
 1951年11月7日、名古屋生。本名・竹川公訓(たけかわきみよし)。法政大学社会学部社会学科卒。大学在学中にアニメーションの企画・制作集団「スタジオぬえ」を設立。1977年、「クラッシャージョウ 連帯惑星ピザンの危機」で作家デビュー。1980年「ダーティペアの大冒険」で星雲賞(日本短篇部門)受賞。1986年「ダーティペアの大逆転」で星雲賞(日本長編部門)受賞。
 日本SF作家クラブに所属。

解説

 バイクを愛し、走ることを何よりも愛する者たちが集まって、町内に結成された二輪ロードレース・チーム、その名も、“チーム・ノブ”と“尾高レーシング”。両者は、その産声をあげた時から対抗する宿命にあった。鈴鹿四時間耐久レースに向けて、彼らは全速力で突っ走る。だが、チーム・ノブはライダーをひとり事故により奪われ、尾高レーシングはレース当日クラッシュによってマシンを失ってしまう。そこに残された唯一の方法は、友情と野望と夢という名の、ひと夏の魔法(マジック)だった──。
 バイクをこよなく愛する人気絶頂の気鋭が、“一瞬の夏”のきらめきを通して描く、感動の熱血バイク・レース小説。

目次

夏・風・ライダー(下)

抄録

 松山とマシンが、車両回収車から降りた。松山の表情が、いつになく硬い。
 「エンジンか?」
 松山が言うより早く、山崎が訊いた。
 「そうです」松山はうなずいた。「ヘアピンの立ち上がりでぐぐっときて、そのあとエンジンが止まりました」
 「焼きついたんだ」
 古川が言った。
 「すぐに向こうへ」山崎がハイエースの方を差し示した。「ヘッドを開ける」
 古川と杉谷が、すかさずマシンに飛びついた。三人がかりでマシンを押した。
 山崎は険しい表情をしていた。心なしか、血の気も引いている。真一文字に結ばれた唇の色がどす黒い。
 ハイエースの横にマシンを置き、レーサースタンドを掛けた。一同がマシンを取り囲んだ。
 山崎がタンクをはずし、エンジンのヘッドカバーを開けた。
 カムシャフトが二本並び、その間にバルブスプリングとバルブが見える。しかし、バルブの様子が、なんとなくおかしい。
 「シリンダーヘッドも!」
 桐島が言った。
 シリンダーヘッドをはずした。
 「う……」
 絶句した。茫然と息を呑み、凍りついたように立ち尽くした。誰もがシリンダーを見つめたまま言葉を失った。
 二番ピストンがない。一番、三番、四番ピストンは存在するが、二番ピストンはどこにもない。シリンダーの底にいびつな形状の金属塊があり、そこに百円玉ほどの黒い穴が二つ、ぽっかりと口を開けている。――それが、かつて二番ピストンだったものだ。
 「バルブが落ちている」
 シリンダーヘッドに目をやり、山崎がつぶやいた。
 激しく上下するピストンが、バルブを突き上げたのだ。そして二番ピストンのバルブが砕け、シリンダーの中に落下した。バルブの破片はシリンダーの中でピストンにかきまぜられた。ピストンは粉々になり、熔けて金属塊となった。
 「これ、ここだけじゃないよね?」沖がシリンダーを指差して言った。「コンロッドやクランクも……」
 「いってますね」
 山崎は小さくうなずいた。声がひどくしわがれていた。
 「直るの? このマシン」
 みさとが恐る恐る訊いた。
 「だめです」
 山崎は力なくかぶりを振った。
 「――これは直しようがない」
 「そんなァ……」
 のり子が両の拳を口もとにあて、いやいやをした。
 「二号車のエンジンは?」
 沖が訊いた。
 「分解してパーツにしてあります。組み立ててエンジンにするには、半日かかります」
 「パーツか」
 沖は唇を噛んだ。車検のことを考慮しても、予選までには、まだ三時間近くある。予備のエンジンがあれば、換装は可能だ。しかし、エンジンが分解されていては、それはできない。
 「だめだ」
 山崎の全身から力が萎えた。山崎はずるずると腰を落とし、地面にへたりこんだ。
 頭を垂れ、動かなくなった。
 寂として、声はない。

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