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アンダルシアの誘惑

アンダルシアの誘惑


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・セレクト
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ダイアナ・ハミルトン(Diana Hamilton)
 イギリスの作家。ロマンチストで、一目で恋に落ち結ばれた夫との間に三人の子供をもうけた。就寝前の子供たちにベッドで読み聞かせるために物語を書きはじめる。ロマンス小説家としてのデビューは1987年、その後数多くの名作を世に送る。2009年5月、ファンや作家仲間に惜しまれつつ亡くなった。

解説

 ロージーは壮大な館の前に立っていた。数カ月前に亡くなった母から、館の主人マーカスがほんとうの父であると聞かされた。母の愛した人にせめてひと目だけでも会いたい。その一心で、館に住み込む家政婦の求人に応募したのだ。ところが、マーカスは仕事でスペインに滞在中だと知り、慣れない床掃除をしながら、ロージーは思わずすすり泣いてしまう。「きみはロージーだね」やさしい声に振り向くと、グレーの瞳の若い男性と目が合った。いったいこの人は……。ときめきを覚えながらも、ロージーの胸をある不安がよぎった。

 ■ロージーがいだいた不安――それは、きっと自分も母と同じ運命をたどるという予感。貧しくとも精いっぱいに生きる二十歳の彼女と、女性を皮肉な目線でしか見られないスペイン人実業家との、誤解しすれ違う、もどかしくも切ないラブストーリーをお贈りします。

抄録

「僕のためにそうしてくれないか。まる一日めちゃくちゃに忙しかったんだ。ワインを飲んで少しゆったりしたいが、一人ではどうも、ね」
 細い眉がひそめられ、印象的なきれいな瞳が同情するように見開かれるのを見て、セバスチャンは、これで決まったな、と思った。ビジネスでも人間関係でも、弱点を見つけてそこを突くのが肝心だ。ロージーという娘のことはほとんど知らないが、人を見捨てておけない同情心の厚い優しい女性だということを、彼は本能的にかぎ取っていた。
「お願いだ」もう一度彼は言った。
 魅力的で甘い響きのスペイン語なまりの言葉に、ロージーの背筋に熱い身震いが走り、あえぎ声がもれた。黒々としたまつげに縁取られたくすんだ色の情熱的な瞳に見つめられると、ロージーの口の中はひりひりした。彼は同情で誘っているのではなく、ただ頼んでいるのだと思うと、少し自信が生まれた。「それでしたら……」彼女はかすれた声でそう返事をしていた。
「ありがとう《グラシアス》」
 ほほえみかけられると頭がくらくらし、さらに、手を肩に置かれて部屋から外に導かれた時には立っていられないほどだった。薄いTシャツ越しに彼の手のぬくもりが伝わり、骨まで焼けるように熱く感じる。自分の体がそれに反応して熱くなったのを知って、下腹にきゅっと妙な感触が走った。
 しっかりするのよ、とロージーは自分を叱りつけた。彼に寄りかかり、厚い胸板に頭を預けてシャツの下の体温を確かめたくなる気持ちを押し殺す。
 確かにセバスチャン・ガルシアはうっとりするほどすてきで、私をこれまで経験したことがないような妙な気分にさせるけれど、彼のほうは私に目もくれないわ――ホールの暖炉の前のソファにロージーを座らせ、彼が台所にワインを取りに行っている間に、彼女はもう一度自分を戒めた。
 ぎこちなくソファの端に座り、持ってきた本をクッションの下に押しこむ。明日返しておこう。こんなものをベッドで読むなんて変な女だ、ときっと思われているわ。
 ロージーは本のことを忘れてリラックスしようと努めた。ワインは一杯だけにして、どうでもいい話だけをして、彼のほうは絶対に見ないこと。非の打ち所のない彼の姿を見てしまったら、きっと困ったことになる。何より私が彼に引かれていることを知られたら、屈辱で生きていけない。
 セバスチャンはなかなか戻ってこなかった。ロージーは時間がたつにつれて緊張しはじめた。私のことを忘れてどこかに行ってしまったのだろうか。私なんかどうせ目にはいっていないんだわ、と思うと恥ずかしさがこみあげてきた。じっと待っている自分がどうしようもない間抜けに思われ、部屋に戻ろうとした時、彼が戻ってきた。
 サイドテーブルにワインとグラスが二つ置かれると、ロージーの心臓は飛びあがり、息をするのも忘れてしまいそうになった。薄暗い中で煙るような瞳が彼女を魅了する。銀色の深みの中で溺れてしまいそう、とロージーは思い、彼を見つめまい、というさっきまでの決意を忘れてしまった。
 問題は、彼がそばにいると頭がぼうっとしてまともに考えられなくなることだった。
 彼はトレーの上から何かを取りあげ、ゆったりとした優雅な物腰で近づいてきた。ロージーは履き古した靴の中で思わず爪先を丸めた。
「君に」彼は少し腰をかがめると、片手で固く握り締めていたロージーの手をそっと開き、もう一方の手でその手のひらに白い椿の花をのせた。たった一輪だが完璧な形をしたその花は、花弁の中心部がかすかにレモン色を帯びている。
 セバスチャンの口の端が苦々しげに少し持ちあがった。
「マーカスの温室から失敬してきた。彼は気にしないと思うけど。つまらないプレゼントだけど、せめて君に笑顔になってもらえるかと思って」
 セバスチャンは突然体を伸ばした。全く、僕はどうしてしまったんだ。わざとらしい芝居を演じているみたいじゃないか。花を摘んでこようと思いたったさっきの衝動が、今はとんでもなく愚かに思える。
 だが、そう思ったのは、無意識のうちに求めていたものを彼が目にするまでのことだった。ロージーの微笑だ。それを見た時、彼は、その衝動は愚かでなかったと思った。
 ロージーの視線は手の中の花に注がれていた。濃いまつげに表情は隠されている。ブロンドの髪が絹糸のように垂れ、乱れた一筋が花びらのように柔らかな頬にまとわりついていた。次の瞬間、ふっくらしたおいしそうな唇が震え、上方に曲線を描いて、花が開くような輝く微笑が生まれ、深く澄みきった、底がないように思われる瞳が無数の輝きをたたえて彼を見あげた。
「最高だわ」ささやくような声を聞いたとたん、自慢の強い意志よりもさらに強い、わけのわからない衝動に突き動かされて、セバスチャンは身をかがめ、彼女にキスをしていた。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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