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春を待ちながら

春を待ちながら


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 キャサリン・スペンサー(Catherine Spencer)
 三十数年前にイギリスからカナダのバンクーバーに移り住む。英語の教師からロマンス作家に転身。カナダ人の男性と結婚し子供にも恵まれ、現在は孫もいる。あいた時間があれば、ピアノを弾いたり、アンティークショップをのぞいたり、庭の手入れをしたりしている。

解説

 カサンドラは途方に暮れていた。数カ月前、顧客の一人からベネディクトという男性を紹介された。ひと目で心奪われた彼と、情熱的な夜をともにし、思いがけず妊娠してしまったことに気づいたのだ。ベネディクトにとっては、ほんの遊びだったに違いない。だから彼には何も告げず、一人で子供を育ててみせるわ。親友のパトリシアは、すべてを打ち明けたカサンドラに、彼には知る権利があると反論する。いいえ、いいの、これですべて解決だわと叫んだとたん、カサンドラは深みのある男性の声に驚いて振り向いた。「まったくだ、カサンドラ。すべて解決だ。君は僕と結婚する」。

抄録

「踊ってくださってありがとう」キャシーは平静を装おうとして失敗し、つっかえながら言った。
 ベネディクトは彼特有の優雅な物腰でささやいた。「お礼を言うのは僕のほうさ。あっという間に終わったことだけが心残りだよ」
 背を向けないと、彼の腕の中にまた飛び込みかねないのを恐れて、キャシーはハイヒールのまま許されるかぎりのスピードで主会場の自分の持ち場に駆け戻った。パトリシアの主任アシスタントがビュッフェ式ディナーの最後の仕上げを指揮している。それから一時間、キャシーは人手の足りない箇所を手伝った。だが指は動かし続けても、頭では絶えずベネディクト・コンスタンティーノのことを考えた。
 彼の別れぎわの言葉を思えば、十一時三十分に乗組員の一人が下のデッキに至急来てほしいと告げたとき、キャシーは怪しむべきだった。だが病人が出たのかもしれないと思い、乗組員について階段を下り、船尾にあるプライベートな一画に向かった。
 スイートの入口の鍵は開いていた。狭いロビーのマホガニーの壁にランプが柔らかく光を放っているが、人が待っている気配はない。居間から薄暗い光の帯がもれてくる。病人はそこにいるのだろう。
 あとは引き受けるから職務に戻っていいと告げるため、キャシーは振り返った。しかし乗組員は早くも後ろ手にドアを閉めていた。秒を追うごとに当惑をつのらせながら、キャシーは居間に近寄って中をのぞき、はっと息をのんだ。
 一ダースかそれ以上のキャンドルが船室のあちらこちらで揺らめいている。純白のリネンをかけたテーブルには、シャンパンの瓶を入れた銀のワインクーラーと、冷えたクリスタルのグラスが二個。仕上げとして一輪ざしに生けた一本の赤いばら。そして、ジャケットのボタンをはずし、両手をポケットに入れて窓のそばの壁に寄りかかっているのは、ベネディクト・コンスタンティーノだった。
「どういうことか説明していただくわ。ここで緊急事態が起こったみたいに言われて来たのよ」
「それは事実だよ」ベネディクトは動じずに言った。「早急に君と二人だけになる必要があった」
 キャシーはその言葉が感じさせる小さな喜びを抑えた。「それは光栄ね、ミスター《シニヨール》・コンスタンティーノ。でも一人のゲストにつきっきりで、残りのゲストを無視することは好ましくないわ」
 ベネディクトはキャシーの手を取って抱き寄せながら、上のデッキの騒々しい声の方にあごをしゃくった。「ほら! あれが無視されて傷ついた人たちのように聞こえるかい?」
「それは論点じゃないわ」キャシーは弱々しく反駁した。
「まったくだ。だけどこれは間違いなく論点だよ」
 ベネディクトは深々とキスをした。
 キャシーは自分を抑えられずにキスを返した。唇が触れ合った瞬間、激しい渇望に捕らわれる。
 幸い、彼は自制心を持ち合わせていないわけではなかった。「こんなことをするのは早すぎる。それに君を呼んだのは、これが目的ではない」
「まあ」もはや自分の声に落胆が感じられるのも気にならなかった。キャシーは泣きそうになった。「じゃあ、何が目的だったの?」
「君と二人で新年を迎えることさ」
「無理よ。デッキにいないと変に思われるわ」
「もう二十分ぐらい大丈夫だよ」ベネディクトはワインのコルクを抜こうとしながら言った。「正直言うと、理想的な長さではないが、二人だけで乾杯するには充分だ」
 シャンパンはグラスの中で勢いよく泡立った。フルート形のグラスを渡されたとき、彼女の血潮も同じように躍っていた。
「こんなこと、本当に困るわ」
「小さな罪だ。気に病むことはない」ベネディクトはグラスを軽く触れ合わせた。「幸運を祈るよ、カサンドラ! 来年は君の夢が全部実現するように」
「ありがとう」キャシーは、目に浮かぶ何かを読み取られるのが心配で、彼を見る勇気がなかった。彼の目に浮かんでいるかもしれないものはもっと恐ろしい。「いつもこうしてニューイヤーズイヴを祝うの?」
「そういうわけでもない。デッキで開かれているようなパーティは避けることにしているんだ。単に習慣として出席している女性全員にキスをさせられるのはいやだからね。でも、この場合は例外だ。君にキスをするのは最高の喜びだよ」
 彼のキスはいっそう深いものになった。
 いつキス以上に進んだのか、キャシーには定かでなかった。わかるのは、生まれて初めて男性にこの世でいちばん貴重なもののように抱かれていることと、その腕が絶対に解かれないようにと自分が願っていることだけだった。
 彼についてほとんど何も知らないことは、気にならなかった。それは頭で考えることだ。今は断じて頭の出番ではない。このできごとに理屈が入る場所はない。用心や優先事項が入る余地も。
 肝心なのは、ベネディクトにかき立てられた荒々しい渇望や震えるほどの期待感だ。キャシーはそういうものがあることを本で読んでも、決して信じたことはなかった。だが肌は彼を意識してぞくぞくした。ベネディクトの指が喉をなで下ろして胸の谷間に達したとき、彼女は向こう見ずな欲望に捕らわれて、不明瞭な声でうめいた。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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