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レッド 下

レッド 下


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks シリーズ: レッド
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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解説

 ■二人のあいだで運命は振り子のように揺れ動く。心を揺さぶるノンストップ・エンターテインメントの傑作。

 ■ハリウッドで若手カメラマン、ジャックのアシスタントになったベッキー・リンは、やがて彼に恋するようになる。しかしジャックには、父親でファッション写真界の巨匠ジョバンニ・トリアーニと異母兄のカルロを見返すという大いなる野望があった。見向きもされなかったジャックと結ばれ、喜びに浸る彼女を襲う新たな裏切り……。絶望の淵で美貌と才能を開花させ、瞬く間にトップモデルへの階段を駆けのぼったベッキー・リンは、真実の愛をつかめるのか。

抄録

 ジャックは目を閉じた。だが、別の物音が聞こえて、また目を開けた。それは、うつろで絶望に満ちた声だった。背筋がぞっとして、ジャックは体を起こした。すべてを失った人間が出すような声だ。そんな考えを振り払うように頭を振ってから、上掛けをはねのけ、ベッドから出た。
 ジャックはジョギングパンツをはいた。なにかまずいことがあるにしても、素っ裸で立ち向かうのはいやだ。彼はベッドの下に置いてあったバットをかかえ、そっと階段へ向かった。
 階段を下りるにつれ、聞こえてくる嗚咽が大きく激しくなってきた。下までたどり着くと、床に座っているベッキー・リンが目に入った。膝をかかえて顔をうずめ、体を揺らしながら泣いている。そばに電話機が落ちており、スライド写真の入っていたトレイがころがっていた。
「ベッキー・リン?」ジャックはそっと声をかけながら近づいていった。「ベイビー……どうしたんだい?」ベッキー・リンは顔も上げなければ、返事もしない。呼びかける声が聞こえているのかどうかもわからない。
 ジャックはベッキー・リンのそばにしゃがみ、彼女の頭にそっと手をのせた。「いい子だ……ジャックだよ」
 ベッキー・リンが顔を上げ、ジャックと目を合わせた。彼女の目に浮かんでいる絶望の色に、ジャックは息をのんだ。
「ああ、ベイビー……なにがあったんだい? さあ、おいで。もう心配いらないから」ジャックはベッキー・リンに腕をまわした。一瞬、彼女の体がこわばり、慰めを拒むかに見えたが、すぐにすがりついてきて、ジャックの裸の胸に顔をうずめてすすり泣きはじめた。
 守ってやりたいという強い衝動がジャックの中を駆けめぐり、心の奥底を揺さぶった。彼は片腕をベッキー・リンの体にまわし、もう一方の腕を膝の下に差し入れて抱きあげた。そのまま階段をのぼり、ロフトの乱れたままのベッドの端に腰かけた。そして、膝の上にベッキー・リンをのせたまま、泣くだけ泣かせた。その合間に、揺さぶったり、撫でたり、慰めの言葉をやさしくかけたりした。
 ようやくすすり泣きがおさまり、絶望のこもった弱々しいうめきに変わった。どうしたらいいのか、なにを言えばいいのか、ジャックはわからなかった。こんな状況に巻きこまれたのは初めてだった。こんな厄介な立場になるようなことは決してしなかったはずだ。しかし今、こうなってしまった。そしてジャックは、ベッキー・リンを慰めてやりたいという気持と、この場から逃げ出したいという気持の間で揺れていた。
 あまりの感情の高ぶりに、ジャックは不安になった。こわいほどだった。このままでいたら、生きたまま感情にのみこまれてしまいそうで恐ろしくなった。
 ジャックは喉にこみあげてきた塊をごくりとのみこみ、逃げ出したいという欲望と闘った。彼女を一人にしてはいけない。彼女は友達なのだ。そして、彼女には僕以外にだれもいない。そのことがどうしてそんなに大切なのか、わからなかった。ただ、大切なことはたしかだった。
 ジャックにとって、ベッキー・リンは大切な存在だった。
「話してごらん、ベイビー。なにがあったのか、話せるかい?」ジャックの腕の中に隠れるように体をまるめながら、ベッキー・リンがなにかささやいたが、彼には聞き取れなかった。彼女の温かくて弱々しい吐息が裸の胸をくすぐった。
「あのね……もっと大きな声で言ってくれないか? 悪いけど、聞こえないんだ」ベッキー・リンが顔を上げた。その顔を見て、ジャックはまた胸がつまった。だが、感情を押し殺し、静かに呼吸を整えようとした。そして、彼女の濡れた頬をそっと手で撫でた。
「ゆっくりでいいんだよ。僕はどこへも行かないから」ベッキー・リンの目がふたたび涙でいっぱいになったが、あふれ出しはしなかった。唇がふるえている。泣くまいとしているのだ。ジャックには、彼女が闘っているのがはっきりとわかった。こんなに勇敢な人間に会ったのは初めてだ。いったいどんな目にあって、彼女はこれほど強くなったのだろう? 今までだれか頼れる人がいたのだろうか? 倒れそうになったら必ず支えてくれると思える人がいたのだろうか?
「私の……母さん……母さんが……」新たにこみあげてきた涙に、言葉がとぎれた。涙が静かにあふれ出し、ベッキー・リンはまたジャックの胸に顔をうずめた。ジャックは彼女の髪を撫でた。彼女の背中をてのひらでそっと撫でた。少しずつ緊張と闘志が薄れていくのがわかる。今や彼の腕の中にあるのは打ちひしがれた弱々しい体だった。
 ベッキー・リンは顔を上げようとはせず、ジャックの左肩に頬を当てていた。「母さんが死んだの」ジャックがかろうじて聞き取れるほどの声だった。「さっき電話をしたの。母さんと話をしたかったから。どうしても知らせたかったの……私が……」涙で喉がつまったが、それでもベッキー・リンはなんとか話そうとしている。「ミス・オパールが教えてくれたの……母さんが……死んだって」


 *この続きは製品版でお楽しみください。

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