マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ロマンス

プリンセスの恋

プリンセスの恋


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★★1
◆レビューを書く

¥0サンプル
購入する


著者プロフィール

 キャサリン・スペンサー(Catherine Spencer)
 三十数年前にイギリスからカナダのバンクーバーに移り住む。英語の教師からロマンス作家に転身。カナダ人の男性と結婚し子供にも恵まれ、現在は孫もいる。あいた時間があれば、ピアノを弾いたり、アンティークショップをのぞいたり、庭の手入れをしたりしている。

解説

 ■私を救ってくれたあの人は白馬の騎士ではなかったの?

 ■二十七歳のイモジェンはインテリア・デザイナー。仕事は充実、父が遺した財産もあり、デートの誘いも数えきれず。若い女性が理想とするものはすべて手に入れたはずなのに、胸の奧にぽっかりとあいた穴を埋めることはできない。十八歳だった彼女の心に深い傷を残してジョーが去った日から……。ジョー・ドンリーは女子高校生のあこがれのヒーローだった。たくましい体でバイクを乗りまわし、危険な噂の絶えない彼にイモジェンもひそかに胸をときめかせ、思いを日記に綴った。そしてダンスパーティーの夜、酔った同級生に襲われた彼女の前にまるで騎士のように現れて、救ってくれたのがジョーだった。イモジェンを乗せたバイクが夜の闇に走り出る。これが大人の世界への第一歩だった。あこがれが現実に。だがその現実はあまりにも厳しく……。

抄録

「イモジェン!」
 ジョーの声には愕然とした響きがあった。こらえようもなくすすり泣いている自分が恥ずかしく、イモジェンは彼に背を向けた。人間が味わってはならないほどの孤独やだれにも愛されていないという思い、それを抱いてファーンデールのクリニックをあとにしてからこの八年、こんなに泣いたことはなかった。長い間抑えてきた悲しみが、せきを切ったようにあふれだし、彼女をのみ込んでしまった。
「私にかまわないで、あっちに行って!」
「いいとも」彼女の両肩に優しく手をかけて、ジョーはつぶやいた。「仰せのままに、プリンセス」
 だが、そう言いながらもジョーは立ち去らずに彼女を振り向かせ、その顔を両手で包むと、頬にこぼれる涙を親指の腹でぬぐい、唇を重ねてキスですすり泣きをとめた。
 それは癒すように、慰めるようにそっと触れる友人のキスだった。胸の奥で惨めさの塊がゆっくりと溶けていった。彼の硬く温かい胸に押し当てられていたこぶしがほどけ、痛いほど喉を締めつけていた緊張が和らいでいく。やがて首がそよ風に吹かれるデイジーの茎のようにしなった。
 それからすべてが変わった。まるで霧がいつしか立ち込め、風景の鮮明な輪郭がぼやけ、視界がおぼろになっていくように、それと気づかないうちに、彼の抱擁が友人と恋人を分ける境界線を越えていた。
 ジョーの指先が彼女の頬から喉、鎖骨をなぞり、膝が彼女の脚の間に巧みに、誘うように分け入り、片腕がウエストにまわされる。そしてあんなにも穏やかに始まったキスが、奔放でむさぼるようなキスへと激しさを増していく。
 次に何が起こるか予期しているべきだった。彼とは初めてではないのだから。けれど暗がりの中、夏の香りに包まれ、黒々とそびえ立つようなジョー・ドンリーの腕に抱かれると、体の奥に渦巻く情熱を抑えきれなくなり、イモジェンはぐったりと彼にもたれかかった。
 いつの間にか両腕を彼のうなじにまわし、指で髪をまさぐっていた。その髪はとてもしっとりと柔らかく、豊かで、彼自身はとても硬く……。
 とたんに熱いものが体を貫き、抵抗する意志を奪っていった。ただ力強い彼を包み込みたいという思いしか頭になかった。ジョーがそれに終止符を打たなかったらどうなっていただろう?
 どうなっていたかはわかっている。そしてイモジェンはぞっとした。十八歳のときなら無知のせいにできても、二十七歳のいまは自分を責めるしかない。ジョーが両肩をつかんで体を少し離さなかったら、石ころが細かい砂へと変わっている水際に彼と一緒にくずおれてしまい、愛を交わしていたことだろう。もう一度彼に抱かれるつかの間の歓びのために、何もかも投げ出していただろう。ああ、私は決して懲りるということがないのかしら?
 だがジョーは懲りていたようだ。彼女を押しやって、きしるような声で言った。「家まで送るよ」
 そしてぐったりともたれかかる彼女を抱いて、つかつかとバイクに近づき、後部座席に下ろした。
「かぶって」ジョーはヘルメットを彼女に押しつけると、まるで地上から舞い上がり、遠い惑星に彼女を下ろしてこようとするような勢いでエンジンを吹かした。
 あっという間に、二人はディープディーン館に着いた。ジョーは彼女の手を引っ張って温室の横を通り、菜園のそばの小道を進んでいき、コテージのある空き地まで来ると、不意に足をとめた。コテージのドアへと続く、月の光がまだらな影を落とす道を魅せられたように見つめている。
「ここを覚えている?」イモジェンはそう尋ねずにはいられなかった。九年前はこのコテージの壁が二人を取り囲み、いやな事件を締め出してくれたのだ。この屋根に守られ、二人は一緒に魅惑の世界を味わった。二つの心、二つの体、二つの魂で。それが哀れみからだったと、彼はどうしてあんなにはっきり言えるのかしら?
「覚えているよ」握っていた手を、まるで赤く燃える石炭のようにぱっと放し、ジョーはイモジェンから離れた。「ここからは一人で帰れるね?」
 亡霊のようにジョーは暗がりに溶け込み、たちまち消えてしまった。けれど体にまわされた彼の腕や重なった唇の感触は、いつまでも消えずに残っていた。彼がなんと言おうと、あの湖畔で彼が私にキスをして抱いたとき、あれは私をかわいそうに思ってではなかった。私もそれほど経験豊かではないけれど、男性が熱く燃え、欲望に駆り立てられているかどうかくらいはわかる。胸の激しい鼓動、苦しそうな息遣い、男性の誇らしげな高まり──それは、同情によって呼び覚まされはしない。熱に浮かされたようなあの数分間、ジョーは私を求めていた。
 私はと言えば──そう、どうしようもない女! 過去に打ち勝つには、過去とまともに向き合うしかないと気づいてはいたけれど、そのもう一歩先まで彼に押し出され、自分がせっかく作り上げた危険も苦痛もない大人の女性としての慎重な暮らしが、少女時代のディープディーン館での息詰まるような束縛と同じ牢獄であることを悟らされてしまった。そして、それと知らずにジョーはまた私を助けに来て、自由にしてくれたのだ。感じ、欲し、渇望する自由を私に取り戻してくれたのだ。愛する自由を。


 *この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。