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消せない絆

消せない絆


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆3
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著者プロフィール

 ケイト・ヒューイット(Kate Hewitt)
 アメリカ、ペンシルバニア州で育つ。大学で演劇を学び、劇場での仕事に就こうと移ったニューヨークで兄の幼なじみと出会い結婚した。その後、イギリスに渡り六年間を過ごす。雑誌に短編を書いたのがきっかけで執筆を始め、長編や連載小説も手がけている。読書、旅行、編みものが趣味。現在はコネチカット州に夫と三人の子供と住む。

解説

 ニューヨークでイベント・プランナーとして働くエレナは、ある日、オフィスに入ってきた男性を見て、頭の中が真っ白になった。ジェイス・ゼルヴァス! 10年前に去っていった恋人がなぜここに? ギリシアで実業家として活躍する彼が委託したパーティーの企画を、まったくの偶然からエレナが担当することになったのだ。彼女の脳裏に葬り去ったはずの過去が甦る。わたしの妊娠を知るや、彼は自分の子供であるはずがないと言い放ち、卑劣にも姿を消してしまった……。「おなかの子は、あれからどうなったんだ?」古傷をえぐるような問いに、エレナは唇を噛み締めるほかなかった。

抄録

 セントラルパークは暗く、招待客はとうに姿を消していた。エレナは両手をポケットに突っ込み、フィフス・アヴェニューを目指して足早に歩きだした。そこまで出れば、この時間でもタクシーが行き来しているはずだ。
 エレナは池のほとりを進んだ。春や夏にはボートの浮かぶ池だが、いまは水が抜かれていた。背後から足音が聞こえ、彼女はさらに足を速めた。最近のセントラルパークは夜でも安全だったが、それでも注意は必要だ。
 「エレナ、さっきは悪かった」
 ジェイスだった。エレナの心臓は一瞬落ち着きを取り戻したが、やがて猛烈な勢いでリズムを刻みはじめた。彼女は歩調をゆるめ、振り返った。
 「いまなんて言ったの?」
 「“悪かった”と言ったのさ」あたりは暗く、彼の顔はよく見えなかった。細い弦月が公園を照らす唯一の光だ。表情まではわからなかったが、彼の声からは後悔の念が感じ取れ、エレナは驚いた。
 「どうして謝るの?」
 「きみを深く傷つけたからだ」ジェイスは彼女に向かって足を一歩踏み出した。銀色の月光がその顔を照らし出す。そこには悔恨の思いが刻まれていた。「一方的にきみの前から姿を消したからだ。きみがつらい思いをしているときに、そばにいられなかったからだ」
 「やめて」エレナはささやくように言った。ジェイスにわかるはずがないのだ。わたしが乗り越えた日々が、どれほど苛酷なものだったのか。わたしがどれほど謝罪の言葉を聞きたかったか。けれど、その言葉を聞くのがどれほど怖かったか。謝罪されれば何か答えなくてはならない。それは状況を変えることを意味した。彼女が自分から状況を変えることを。
 「謝るなというのか?」ジェイスが微笑んだ。「だが、ぼくは謝らなければならない。自分のためにも、きみのためにも。ぼくが謝罪しないかぎり、ぼくたちの問題は解決しないんだ」
 「別にそんな必要は……」喉が詰まりかけたせいで、エレナは乱暴な調子で言った。が、最後まで続けることができなかった。嘘なのだ。ジェイスには謝ってもらいたかった。彼を許せるようになりたかった。
 「許してくれるかい、エレナ?」ジェイスは静かに言った。「きみを傷つけてしまったことを」
 エレナは首を横に振り、泣き叫びたかった。許さないと言ってやりたかった。彼女はいまだに怒り、傷つき、怯えていた。だが同時に、許したいと思っていた。彼女には幕引きが、救いが必要だった。エレナはぎこちなくうなずいた。それ以上のことはできなかったのだ。
 ジェイスは二人のあいだのわずかな距離を詰め、彼女を腕のなかに引き寄せた。エレナの凍えた頬にウールのコートがふれる。彼を突き放すべきなのはわかっていた。だが、できなかった。「すまない」感情の高ぶりにジェイスの声は乱れていた。エレナの心を覆っていた殻が、ついに砕けたのだ。
 「あなたを許すわ」かろうじて声と呼べるような、低いささやきだった。エレナは顔を上げ、ジェイスを見上げた。その瞳に宿っていたのは、抑えがたいほどの熱い思いだった。
 彼は一瞬ためらったのち、エレナに唇を近づけた。
 唇が軽くふれたとたん、ショックが襲った。指先から魂の中心に向かって電流のようなものが走る。
 やがて、彼女のあらゆる感覚が甘美な歌を歌いはじめた。心も体もこの衝撃を覚えていた。忘れてはいなかった。ジェイスの腕に抱かれ、ふれられることが、どれほど正しいことなのかを。
 エレナは唇を開き、ジェイスを促した。このチャンスを逃さず、彼がさらに激しいキスをする。彼女の下腹部に耐えがたい欲望が広がった。まだ満足できず、両手をジェイスのコートに沿って肩から背中へ滑らせ、体を押しつける。
 キスがどれだけ続いているのか、エレナにもわからなかった。彼女は頭をのけぞらせ、背中をそらせた。ジェイスの手が体をまさぐると、唇からうめき声がもれた。
 過去のことは頭に浮かばなかった。猛然と押し寄せる官能の波以外、何も意識することができなかった。が、そのとき、池の反対側からティーンエイジャーの騒々しい笑い声が聞こえ、欲望の靄からエレナを現実に引き戻した。彼女はジェイスの腕を逃れ、強引に体を離した。
 エレナは自分が信じられなかった。どうしてこんなことを許してしまったのだろう? 彼が謝罪したから、わたしはその腕のなかで溶けてしまったの? ふれてほしい、奪ってほしい、とわたしは無言のうちに懇願したの? ジェイスは、キスをするつもりじゃなかったという顔をしている。そのとおりなのかもしれない。ことによると、わたしが自分でも気づかないうちに、ジェイスにキスを……。
 「エレナ」
 「こんなことはすべきじゃなかったわ」
 「わかっている」
 彼の簡潔な言葉を耳にしたとたん、エレナは泣きそうになった。間違いだったと彼に言ってほしくはなかったのだ。
 「たとえそうだとしても――」
 「だめ」エレナは言った。“たとえそうだとしても”はあり得ないのだ。彼女は首を左右に振ると、泣き声を抑え、夜の闇のなかに逃げ込んだ。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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