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ミモザの園

ミモザの園


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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解説

 持って生まれた予知能力のため周囲から敬遠されて生きてきたローレルは、都会を離れ、亡き祖母の土地にひとり移り住んだ。ルイジアナの深い森に囲まれたその美しい屋敷と庭を地元の人は“ミモザの園”と呼び、愛していた。穏やかに暮らす希望をやっと見つけたローレルはある日、思いがけない出会いを果たす。目の前に現れた男性こそ、毎晩夢に訪れる、存在するはずもない空想の世界の恋人……。驚きを隠せないローレルに彼は言った。「会いたかったよ」。

抄録

 預かった現金をいったん仕事部屋の机の引き出しにしまって、キッチンへ向かった。シャワーを浴び終えるころにはコーヒーが沸いているだろう。コーヒーを飲んだら、いよいよミモザの園へ出発だ。
 三十分後、シャワーと髭剃りを終え、二杯のコーヒーを飲み干してから、町の銀行に預けるための現金をポケットに入れて家をあとにした。
 私道を出て、ミモザの園へ向かう舗装道路に車を乗り入れたが、そのあいだも頭にはさまざまな思いが渦巻いていた。公道にさまよいでて路面をつついている隣家のほろほろ鳥に気づくと、反射的にクラクションを鳴らして車の速度を落とし、鳥たちが移動するのを待った。このあたりでは、人間も動物も好き勝手に暮らしている。
 ほろほろ鳥をやり過ごすと、思いは昨夜のできごとへ引きもどされた。何キロも離れた場所から呼びかけてきた不思議な声が、姪のもとへ導いてくれたのだ。記憶にあるマーセラの顔から孫娘の容貌を思い浮かべようとしたが、ほどなく考え直して運転に集中した。昨夜の苛酷な捜索のせいで体のふしぶしが痛み、思いはあてどなくさまよいつづける。今日は何もせずに体を休めたほうがよかったのかもしれない。カーブで急ハンドルを切り、タイヤがもう少しで側溝にはまりそうになったとき、ベッドを出るべきではなかったという思いが頭をかすめた。
 ようやく目的地の近くまで来た。ミモザの園の郵便受けのところでブレーキを踏んで、本道を離れる。ここへは何度も来たことがあるが、敷地に乗り入れたとたん、過去の時代に迷い込んだ感じがした。
 三階建ての古びた屋敷の正面に車を停めて、エンジンを切った。本道から奥まっているためか、車の騒音がまったく聞こえない。静寂とすさまじい暑さのせいで、じっとしていると眠り込んでしまいそうだ。ジャスティンは疲れきったため息をひとつつくと、ドアをあけて外へ出た。
 ゆっくりした足取りでステップをのぼり、屋根のついたポーチを玄関に向かって歩いていくあいだも、マーセラがいないことが信じられなかった。葬儀には参列したが、それ以来ここを訪れるのは今日がはじめてだ。マーセラは絶大な存在感の持ち主だった。彼女のいないミモザの園は、どこかしっくりこなかった。
 一羽の大きな孔雀が、攻撃すべきか退却すべきか決めかねるように、ポーチの端をうろついている。ジャスティンはドアをノックした。孔雀が自分のほうに近づいてくるのを見て、さらに強くドアを叩きながら、敵意がないことを示す口調で孔雀に声をかけた。
「やあ、エルヴィス。元気にやってるかい?」
 孔雀が羽を大きく広げて、耳をつんざくような鳴き声をあげた。と同時に、ドアが内側へ開かれた。マリーの姿を期待して、ジャスティンは笑みの名残を顔にとどめたまま、ドアのほうを向いた。
 しかし、そこに立っているのはマリーではなかった。
 幻覚かもしれないと思って、手で顔をこすった。だが幻覚ではなかった。女性の息づかいさえ聞こえてくる。
「なんだかわけがわからない」ジャスティンは小声でつぶやいた。頭がおかしくなったとしか思えなかった。
 そのとき、ふと思った。家を出たのも、シフラーと話したのも、蛇の死骸を見たのも、きっとみんな夢だ。シャワーと髭剃りをすませ、家から二十キロ以上離れたこの屋敷まで車を運転してきたのも夢なのだ。実際にはまだベッドで眠っているに違いない。そうでなければ、夢に出てくる女性が目の前に立っているはずがない。
 自分の考えに納得して、一歩前へ進みでた。
「会いたかったよ」低い声で告げると、女性を抱きあげた。

 男の顔を目にしたローレルは驚きのあまり息をのんだが、次の瞬間には事実をあるがままに受けとめ、さらには喜びで胸を躍らせていた。運命の導きによって、夢の恋人と出会えたのだ。しかし、男は彼女がものを言う間も与えずにさっと体を抱きあげ、足で蹴ってドアを閉めた。男がため息をつくと、温かい息が首筋にかかった。夢に見ていたとおりだ。でも、これは夢なのだろうか。少し前まで、自分は階上にいたはずだ。階段の上で亡霊から冷ややかな歓迎を受けたのは夢ではない。
 床におろされ、口づけされたとき、頭に渦巻いていた疑問はどこかへ飛んでいった。頭にあるのは、長いあいだ会えなくて寂しかったという思いだけだ。現実であろうとなかろうと、この出会いを簡単に終わらせたくない。ローレルは彼の首に腕を巻きつけて、キスのお返しをした。
 痛みもうずきも、足を引きずるほどの激しい疲れも、ジャスティンの体から吹き飛んでいった。
「愛しい人《シエール》……どこにいたんだ? 会いたかった」
 甘いささやきに、ローレルは背筋がぞくぞくしてきた。会いたかったとはどういう意味だろう。彼の夢を見ていたのはこちらのほうなのに。
 彼が手をのばして、てのひらへの収まり具合をたしかめるように両手で乳房を包んだ。うねるような欲望が体の内側から押し寄せるのをローレルは感じた。彼がほしい――苦しいほどに。体が彼を求めている。これが夢なら、覚めないでほしいと願った。
「わたしも会いたかった」ローレルは低い声でささやいて、もう一度彼にキスした。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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