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ベルベットは愛の語りべ

ベルベットは愛の語りべ


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:800pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★☆☆☆1
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解説

 侯爵令嬢ルーシーは、きらびやかな社交界の花という仮面の下に、愛されたいと願う気持ちを隠していた。彼女に無関心な両親が望むのは、爵位のある男性と結婚して跡継ぎを生むことだけ。父が押しつけてくる花婿候補のサセックス公爵は堅物で冷ややかで、キスさえも礼儀正しい。確かにハンサムかもしれないけれど、彼には心なんてないに違いないわ。周囲が公爵を賞賛するほど、ルーシーの心は頑なになった。だがあるとき、彼女の向こう見ずな振る舞いに怒った公爵は思いがけず情熱を燃やした声で告げた。「きみを誰にも渡さない」

抄録

「どうやって?」サセックスが応える。上唇で顎をそっと撫で上げられ、ルーシーは目をしばたたいた。「君がどこへ行こうと僕はついていく。君の影になる」
 ささやくような彼の声は深みがあって、官能的だった。彼の口は……どうしよう、このままでは体がばらばらになってしまう。下唇をさっとこすりつけられた。彼の温かな息が肌を撫でる。目を閉じていても、彼が見えた。乱れた黒髪、肌に触れたとたんに開かれる唇。
「君がどこにいようと、僕はそこにいる。どこへ行こうと、僕も行く。君の夢のなかへだって入っていくし、君が眠っているあいだも食事をしているときも、決して離れない」サセックスは下唇を彼女の唇に軽く触れさせた。もてあそび、なだめすかすように彼女の口を開かせる。「僕が君の空気になる」
 ルーシーはゆっくりと目を開いた。サセックスがじっとのぞき込んでいた。
「そんなふうに脅したって無駄よ。絶対にできるはずがないわ」
 サセックスは、まるで忍冬の葉をそっとくちばしでつつく蜂鳥のように彼女の唇をついばんだ。
「いや、約束する。誓ってもいい。必ずやり遂げてみせる」
「私が絶対にさせないわ。私の望みを、私の夢を、壊させはしない」
「僕は、君の望みや夢の一部になりたいだけなんだ、レディ・ルーシー」
 彼女の肌に触れるサセックスの口や息、そして手のひらのぬくもり以上に親密さを感じさせる言葉だった。ルーシーは必死に抵抗した。彼女の肉体やその奥、そしていつも寒々しさを感じていた場所を彼につかまれることに。トーマスでさえ、のぞき込んだり触れたりすることを許されなかった場所なのだ。しかし、サセックスはそれ以上のものを望んでいるし、それ以上のものが見えている。おそらく彼女が自分でも与えられるとは思っていなかったもの、持っていることすら知らなかったものを求めてくるのだろう。子どもだましな永遠に続く愛とか、悪者から彼女を救うためにやってくる、かつては恋をしていたことさえ忘れてしまった白馬に乗った騎士とか、そんなおとぎ話のような感情など、とうに埋めてしまったというのに。
 ルーシーも以前はそんな夢にふけったものだった。だが、無残にも父にめちゃくちゃにされ、奪いとられてしまった。革の鞭で叩かれるよりも、心を砕かれる痛みのほうが何倍も強力で辛いことを知ったのは、まさにそのときだった。
 涙も涸れ果てたかと思うほど悲しみに暮れていたルーシーが立ち直るきっかけとなったのは、愛ではなく情熱だった。情熱は肉体的なもので、心や精神、魂とは別物だ。情熱はたとえ失ったとしても、心地いい記憶が残る。でも愛がいったん壊れると、心や魂は粉々に砕け散ってしまい、二度ともとには戻らない。
 サセックスの目を見上げながら、ルーシーはおとぎ話を、愛は永遠に続くもの、愛さえあれば何事にも耐えられ、いつか自分のところへ戻ってくるのだと信じていたころの自分を思い返した。愛なんて結局は消滅してしまったわ。残ったのは、傷ついた心と粉々になった夢だけ。
「レディ・ルーシー」サセックスがささやいた。彼の口がすぐ近くに迫ってきていた。「僕を受け入れてくれ」
 そうよ、私が彼と結婚できない理由はここにある。ルーシー自身にとっての問題は、情熱なのだ。サセックスが嫌いな理由のひとつは、彼と一緒にいると自分らしく振る舞えなくなってしまうということにある。彼は私の心の奥を、私が内緒にしてきた秘密の場所をものぞき込もうとするだろう。そうして、私の心の盾を粉々に砕き、私をぼろぼろにするまで満足しないはずだ。すでに私の心や夢は、娘の人生にまで口を差し挟んでくる父親にめちゃくちゃにされてしまっているというのに。
 私は二度と父親の指示に従うだけの哀れな人間にはならない。公爵との結婚を望む父の願いなど聞く気はない。
「放して」ルーシーは小声で言った。だがその声は弱々しく、サセックスは聞き入れようとはしなかった。それどころか彼女をつかむ手に力をこめ、彼女を不安にさせるような目で見つめるばかりだった。
 抵抗しようとしたが声が出ず、動くこともできない。すると、急に彼が手を放した。ルーシーはうれしいとかほっとしたというより、どちらかといえば小さな失望を感じていた。緊迫感に満ちた瞬間、花に囲まれ、遠くで滴る水の音を聞きながらの禁断のキス。そんな誘惑に満ちた瞬間だったのに。
 それなのに、彼はこの瞬間を生かそうとはしなかった。彼の持つわずかな情熱は、ロンドン塔に保管されている戴冠式用の宝玉よりもしっかりと心の奥にしまわれてしまった。
「ごきげんよう、レディ・ルーシー」サセックスはお辞儀をしながら言った。「今夜ご一緒できるときを楽しみにしています」
「私はちっとも楽しみではないわ」ルーシーはそう言い放つとさっときびすを返した。
「それでも」サセックスが彼女に呼びかけた。「お供させていただく。どうか忘れないでほしい。僕は君の空気になるということを」

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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