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わたしだけの侯爵

わたしだけの侯爵


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ダイアン・ガストン(Diane Gaston)
 軍人の三女として生まれ、子供時代、日本に住んだ経験を持つ。新しい土地でなじめず寂しい思いをしたとき、読書に心慰められたという。大学では語学に加え心理学も学び、卒業後はメンタルヘルス・セラピストとしてキャリアを積む。一男一女に恵まれたのち、子供のころ大好きだったロマンス小説の作家をめざし、見事ゴールデン・ハート賞を受賞し華々しくデビュー。『嵐が丘』よりも『ジェーン・エア』のようなハッピーエンドの物語が好き。リージェンシー時代の英国を題材にした作品を得意とする。ベネチアが世界一ロマンチックな場所だと語る。特技は歌をうたうこと、ダンス、ピアノ。ワシントン州在住。

解説

 伯爵家の使用人の娘にすぎないアナは、明るい性格を買われ、伯爵令嬢の話し相手を務めて育った。ところがある日、突然くびを言い渡され、アナはすがるような思いで唯一の紹介先の扉を叩く。ハンサムだが陰鬱な顔つきのブレントモア侯爵は、妻を亡くし、子供の家庭教師を探しているらしい。まだ二十歳のアナはすぐさま追い返されかけるが、必死さに心動かされたのか、侯爵は渋々雇ってくれた。やがて、侯爵の心の痛みを知るにつれて、アナはその悲しみを癒してあげたくなって……。

 ■子供たちの暮らす田舎の領地に赴いたアナは、屋敷の陰気さと使用人たちの冷徹さに驚きます。必死で子供たちの気持ちを解きほぐそうとするアナに、殻に閉じこもっていた侯爵も心惹かれていきます。

抄録

「では、ブレントモア・ホールにいなければならないということか」早口の言葉が聞こえた。
 侯爵が立ちあがった。あまりに急だったので、アナは驚いて飛びあがった。
 彼は暖炉の前にかがみこむと、石炭をつついた。火の粉が散り、部屋が一瞬明るくなった。「ぼくはこの屋敷が大嫌いでね、子供のころからそうなんだ。妻はここにいたがったが、ここに住んでも幸せにはなれなかった。ここには不幸しかない」侯爵が火かき棒を放り投げると、それが石の炉床に当たって鐘のような音をたてた。「祖父といい、ユーニスといい、いやな記憶しか残っていない」彼は戻ってくると、沈痛な面持ちでアナの前に立ちはだかった。「ここにいたくないんだ」
「ですが……」アナは唾をのみこんだ。「今はご自分のしたいことではなく、子供たちにとって必要なことをするべきときです」
 彼はふたたび椅子に腰をおろし、酒を飲み干した。「子供たちには安楽な生活をさせてやりたかった。人よりいい生活を。こんなふうではなくて……」
 アナは口を開くのが怖くなった。
 侯爵は両手に顔をうずめ、肩を震わせている。アナはおじけづきながらも同情を覚え、何も考えずに椅子を離れて彼の脇へ行った。顔を覆っている侯爵の手を取り、自分のほうに目を向けさせた。「気を落とさないで。きっとうまくいきます」
 侯爵は立ちあがるとアナに腕をまわし、彼女の肩に頭をうずめた。彼のシャツの薄い生地越しに肌のぬくもりが伝わってくる。規則的な鼓動と、顎ひげのちくちくする感触も。
 だが、何よりもアナを揺さぶったのは侯爵の心の痛みだった。
 アナは侯爵を抱き寄せて、カルを抱きしめたときと同じようになだめる言葉をかけた。
 やがて、カルと同様に彼の体から力が抜けると、アナは体を引いて言った。「もうベッドに入られたほうがいいですわ」
 侯爵の目の色は翳っていたが、彼は何も答えなかった。得体の知れない感覚がアナの体を駆け抜けた。恐怖ではなく同情でもない、何か別のものだ。アナは一キロも走ったかのように息苦しさを覚えた。
 侯爵がアナの手をつかんで、強く握りしめた。
 アナは手を引っこめて侯爵から逃れ、蝋燭を持って、彼を階段へとせきたてた。侯爵は手すりにつかまりながら、階段を一緒にあがった。アナは彼を寝室まで連れていった。屋敷の見学のときにちらりとだけ見たことのある部屋だ。アナはドアの前で別れるつもりだったが、侯爵は彼女を部屋に引き入れてふたたび腕に抱いた。
「一緒にいてくれ、アナ」耳元でささやく。「ぼくを置いていかないでくれ。ひとりになりたくない」
 侯爵はアナの体に手をすべりおろしてヒップを押さえた。ズボンの下で、彼の体がこわばっているのがわかる。
 アナは息をのみ、蝋燭を取り落としそうになった。
 お酒が侯爵にこんなふるまいをさせているのだ。自分の心や衝動を抑制できなくなっているのよ。
 でも、わたしの頭ははっきりしている。それなのに、なぜ侯爵を押しのけないのだろう? 彼の誘いにあらがうのがこんなに難しいのはなぜ?
「もちろん、一緒にいます」アナは小声で言った。「ベッドへ行きましょう」
 蝋燭をそばのテーブルに置くと、侯爵を自分に寄りかからせてベッドまで歩かせた。寝苦しい夜を過ごしたあとのように、ベッドはくしゃくしゃに乱れている。侯爵はベッドに横たわると、アナに手を差しのべた。
「すぐに戻ってきますから」
 彼はアナの髪に指をからめて新たな感覚を呼び覚まし、彼女の心をますますかき乱した。そして、アナを引き寄せて唇を重ねた。
 男性から受ける初めてのキス。
 あまりの熱さに頭がくらくらする。侯爵の唇はあたたかくて硬い。欲望をあらわにしたその唇が彼女の唇を割った。彼の舌がアナの舌に触れ、彼女を味わった。まるでめずらしいごちそうを味わうみたいに。アナの体は新たな衝動にうずいた。
 アナはなんとか唇を離した。「上掛けの下に入ってください」
「きみもだ」侯爵はざらついた声で言いながら、上掛けの下に入った。
「ええ」アナは子供たちにしてやったように彼に毛布をかけた。「目を閉じて。すぐに戻ってきますから。蝋燭を消してこないと」
「蝋燭か」侯爵がつぶやき、アナのローブの腰ひもを引っぱった。
 アナが歩きだすと、腰ひもがすべり落ちたが、彼女はそれを取り返そうとはしなかった。代わりに、蝋燭の明かりで彼の様子を見ながら、少し待った。侯爵は腰ひもを手にしたまま、じっと横たわっている。まもなく呼吸が規則正しくなった。
 アナは蝋燭を手に持つと、ドア口に引き返した。それでも彼は動かない。彼女は急いで廊下に出て、ドアを閉めた。
 できるだけ急いで階段をあがり、三階へ向かった。自室に戻る前に子供部屋をのぞいてみると、ふたりは寄り添って穏やかに眠っていた。
 自分があんなふうに添い寝をして、侯爵の力強い腕に包まれたら、穏やかに寝てなどいられないだろう。早鐘を打つ胸をかかえて、アナは自室に戻った。この体に触れた彼の体や、この唇を味わった彼の唇を思いだすと、全身がかっと燃えあがる。
 だが、アナはひとりで自分のベッドに入った。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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