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名ばかりの結婚

名ばかりの結婚


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン文庫ハーレクイン文庫コンテンポラリー
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ダイアナ・ハミルトン(Diana Hamilton)
 イギリスの作家。ロマンチストで、一目で恋に落ち結ばれた夫との間に三人の子供をもうけた。就寝前の子供たちにベッドで読み聞かせるために物語を書きはじめる。ロマンス小説家としてのデビューは1987年、その後数多くの名作を世に送る。2009年5月、ファンや作家仲間に惜しまれつつ亡くなった。

解説

 まだ幼い姪を育てるため、キャシーはイラストを描いて、なんとか生計を立てていた。そんな彼女のもとを、ある日突然一人の男性が訪れる。見るからに高慢そうなスペインの名門一族の当主ハビエルは、自分が姪の父親の兄だと告げ、亡くなった弟の忘れ形見を、なんとしてもスペインへ連れ帰ると主張するのだ。しかも彼はキャシーを姪の母親と人違いしているらしく、脅迫同然に彼女の同行をも促した。悩んだ末、キャシーは正体を隠したままスペインへと赴いた。

抄録

「オラ!」その男はキャシーの呼びかけに応え、大きな雄馬の歩調をゆるめて彼女と並んだ。大きな口の端が持ち上がって微笑を作る。
 キャシーはあわてて一歩退いた。心ならずもハビエル・カンプサーノを最高に魅力的だと思ってしまったことに、まだ胸がどきどきしている。
「道に迷ったのかい、キャシー? それとも、ぼくを捜していたのかな?」彼のすてきな声は物静かだが、痛烈な皮肉がこめられていた。
「あなたを捜したりなどするものですか」キャシーはようやく自分を取り戻した。彼はこれまでに出会った中でもっとも魅力的な男性かもしれない。だが、同時にもっとも危険な男でもある。わたしの気持など少しも考えずに、なんとかしてジョンを取り上げようとしているのだから。
「ほう」
 ハビエル・カンプサーノの声にはかすかな皮肉が感じられたが、キャシーはそれにもう慣れていた。けれども、彼が馬から降りるときに頭の向きを変えたので、表情は読み取れなかった。おしゃれをして彼を捜しに出てきたと思われたりしたら……。キャシーは、こんなワンピースを着てこなければよかったと考えながら唇をかんだ。
「どうしてもらいたいんだい? 家まで送り届けてもらいたいかい?」
「いいえ」キャシーは深々と息を吸った。けっして背が小さいわけではないのに、はるかに背の高いこの人のすぐそばに立つと圧倒されてしまう。いかにも男っぽいたくましさ。馬具の革や熱気を帯びた白塵や日の光などのにおいと入りまじった肌の香り。
 キャシーは動揺しながら、キャンバス地のバッグのストラップをもてあそび、肩の上までたぐり寄せた。ジョンの将来の問題に加え、行きがかり上どうしようもなくついた嘘に負い目を感じているのに、そのうえ、こんなふうにハビエル・カンプサーノに魅力的な男らしさを感じてしまうなんて。そのせいで無気力になって、かねてから念願だったジョンを正式に自分の養子にするといういちばん大事な目的が達成できなくなっては困る。落ち着くのよ、とキャシーは自らに命じた。
「最初は、あなただとはわかりませんでした。家にはひとりでちゃんと帰れます。ただ、お水を一口いただきたいんです、もしお持ちなら」彼女は自分でもうれしくなるほど冷静に答えた。
「もちろんだとも」ハビエルの手がキャシーの肘を軽くつかんだ。感情を交えない何げない行為から生じた衝撃が、再び彼女の体の中を激しい勢いで駆け抜ける。キャシーは足が地に着いているのかいないのかわからないまま、松林の日陰へと彼に連れていかれた。
 大きな白い雄馬はハビエルの口笛に応え、羊みたいにおとなしくあとをついてくる。ご主人様が眉を片方つり上げれば、誰もが――馬でさえも――びくっとするんだわ。
 彼女はひんやりとする松の香りに再び包まれた。だが、今回はくつろぐどころではなかった。ハビエル・カンプサーノといっしょにいると必ずいらだちを覚えるのは、ジョンの将来について意見が食い違うからではなく、彼の横柄さのためだとわかった。
「お昼をいっしょにどうだい?」彼が誘い、サドルバッグの留め金をはずした。「座りたまえ。楽にしたらいい」
 キャシーは頑固に立ったままでいた。わたしはあなたの言うことにただちに従う人間ではない、ということをハビエル・カンプサーノに見せつけようとしたのだ。それなのに、彼は気づく様子もなくバッグから布の包みを取り、魔法瓶を取り出している。
「飲んだらいい。山に来るのにこんな時間を選ぶとは、無謀だよ。日焼け止めは十分つけてきただろうね?」
「それぐらい、わきまえてます」キャシーは魔法瓶の栓をはずした。「火ぶくれになってあなたに心配かけ、面倒を見ていただくわけにはいきませんもの」使い古した魔法瓶は、プラスティックのカップがなくなっている。彼女はそっと肩をすくめて魔法瓶をそのまま口に運び、ごくごくと飲んだ。魔法瓶に入っていた水は、すがすがしい冷たさとすばらしいおいしさを保っている。彼女はしぶしぶ魔法瓶を下ろし、唇からたれる滴を一滴ももらさずに舌の先でなめた。
 ハビエル・カンプサーノがじっと見ている。彼のおもしろがっているような目が、キャシーの警戒心を誘った。この人は何をそれほどおもしろがっているのだろう。
「そんなつもりで言ったのではない。ぼくが君のことなど心配せず、面倒も見ないと思うのかい?」
「それが大事な問題だとおっしゃるの?」キャシーは、憤りに自分の顔が赤くなるのがわかった。地面に座って脚を折り曲げて引き寄せ、心を乱す男性のそばから少し離れた。これ以上、彼に注意を払ってもらいたくない。どうしたわけか、これ以上続けたい話ではなかったのだ。そこで、彼女は急いで話題を変えた。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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