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幸福の幻影

幸福の幻影


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ケイ・ソープ(Kay Thorpe)
 シェフィールドで生まれる。学校を卒業後、さまざまな職種を経験。趣味で書いた最初の作品が1968年のデビュー作となり、小説家の道を歩む。それ以後、50作以上を発表している。現在は夫、息子、愛犬のシェパード、幸運を呼ぶ黒猫とともに、イングランド中部のチェスターフィールド郊外に住む。読書、ハイキング、旅行が趣味。

解説

 ローレンは十三年ぶりに故国イギリスに帰ってきた。十六歳のときにたった一度の過ちで妊娠し、女の子を産んだ。娘を養子に出し、カナダに移り住んで保母になったものの、わが子に会いたい気持ちは抑えきれなかった。彼女はやっとつきとめた養子先の屋敷を訪ね、真実は伏せたまま、娘ケリーの世話係としての職を得る。屋敷の主であるブラッドは、五年前に妻を亡くした魅力的な男性で、彼に引かれつつも、ローレンは娘と暮らせる嬉しさで夢中だった。だがケリーが敵意をこめて放った言葉に、彼女は唖然とする。「パパを言いなりにしようなんて思わないほうがいいわよ!」

抄録

 ローレンは日が暮れるまで庭をぶらぶらし、家に戻って玄関広間で足を止めた。しばしためらったが、ピアノを弾きたい衝動は抑えられなかった。ケリーとの話にも出たけれど、ドアが厚いので音がもれる心配はないだろう。
 いつものように音楽は気持ちを静めてくれた。覚えている曲を片っ端から弾き、そのあとスツールのなかにあった楽譜から新しい曲を試してみた。
 いつのまに帰宅したのか、ブラッドが突然部屋に入ってきた。ローレンは驚いて手を止めた。
「やめないで」彼が言った。
「帰ってきたのに気づかなかったわ」ローレンは平板な声を出そうとした。「ドアから音がもれていたのかしら」
「いや。車を止めたとき窓から聞こえたんだ」ブラッドの声には懐かしそうな響きがあった。「あのころのように」彼はそばの椅子に腰を下ろし、クッションに頭を預けた。「弾いてくれないか。心の安らぐメロディを」
 出ていきたい衝動をこらえ、ローレンはふたたび鍵盤に指を走らせた。仕立てのいい濃いグレーのスーツに真っ白なシャツは、デートよりむしろ商談に向いている気がする。相手の女性はぱりっとした実業家風の服装が好みなのかもしれない。
「楽しい夜だった?」
「それなりに」あいまいな答えだった。ブラッドは目を閉じ、脚をゆったりと伸ばしている。見るからにくつろいでいるようだ。「長時間留守にしてすまない。ケリーは行儀よくしていただろうね」
 ローレンは穏やかな声を保った。「彼女はまったく問題ないわ」
「へえ?」疑わしげな口ぶりだ。「ミセス・ペリマンの話では、昼食前、きみがずぶ濡れで裏口から忍びこんでくるのを見たそうだ。きみはいつも服を着たままで泳ぐのかい?」
「足をすべらせたのよ」
「ミセス・ペリマンはそう思っていないようだ」
「彼女はその場にいなかったわ」
「そして、きみは告げ口する気がない」青い目が大きくなった。そこには謎めいた表情があった。
 ピアノを弾きながらローレンは落馬で痛めた肩をそっと動かした。腫れてきたようだ、ひと晩たったらかなり痛むだろう。明日の朝の乗馬はまさに挑戦になりそうだ。もっとも、ケリーが気を変えていなければの話だが。
 ブラッドが椅子を離れてローレンの背後に立ち、鎖骨に沿って軽くマッサージを始めた。苦しいほど鼓動が激しくなる。カーテンを引いていない窓に二人の姿が映っている。指が思うように動かなくなり、ローレンは弾くのをやめて蓋を閉じた。
「早朝の乗馬があるので、そろそろ寝たほうがよさそうだわ。時間どおりに行かないと、ケリーは待っていてくれないでしょうから」
「だろうな」ローレンがスツールから立ちあがると、ブラッドは一歩下がった。「早めに寝るのも悪くはない」
 ローレンは腕時計を見た。まだ十時半だ。もっと遅いと思っていた。指先でうなじを撫でられ、はっと身をこわばらせる。
「やめて!」
「どうすることもできない」ブラッドはやんわりと言った。「きみは、ここに来てからというもの、何かとぼくの心をかき乱す」彼女を自分のほうに向かせ、口元に笑みを浮かべてじっと顔を見つめる。「きみが欲しい、ローレン」
「そればっかり」ローレンは身を引いた。「わたしは寝るわ。もちろんひとりで」
「たいした精神力だ」
「精神力なんか持ちださないで。あなただって衝動を抑えられないわけじゃないでしょう」
 口元の笑みが大きくなった。「つまり、きみにも衝動があるのは認めるのか?」
「誰だって衝動にかられることはあるわ。大事なのはそれをどうするかよ。欲求不満の夜を過ごしたからといって、わたしに息抜きを求めないで」
 眉間にしわが寄った。「ぼくが欲求不満の夜を過ごしたと思うのは、どういうわけだ?」
「つまり……。早く帰ってきたから」ローレンは途方に暮れた。とんでもない非難をしたことが悔やまれる。
「ぼくがどこへ行っていたと思ってるんだ?」
 ローレンはためらった。だけど、答えないわけにいかないだろう。「ケリーは、ダイアンという女性に会いに行ったと思っているみたい」
「そのとおりだが、なぜあの子がダイアンの名前を知っているのかな。ぼくたちは夕食をともにして、それから彼女を家まで送っていった。それ以上の意図はまったくなかった。だから欲求不満説は当てはまらない」
 ローレンは弱々しく両手を広げた。「ごめんなさい」
「謝る必要はない。ひょっとして、ある種の嫉妬だったのか?」
「まさか」ローレンはむきになって否定した。「嫉妬する理由がないわ。わたしは――」
「ケリー以外には関心がないんだろう。くどいほどきみはそれを繰り返し、自分を納得させようとしている」ローレンの顔を両手で包み、まっすぐに視線をとらえる。「だが、ぼくを納得させることはできない。ぼくと同じことをきみは求めている」
 体に走る震えがたちまちそれを暴露した。唇が重ねられるとローレンは目を閉じ、キスの感触を味わった。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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