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狼を愛した姫君

狼を愛した姫君


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 デボラ・シモンズ(Deborah Simmons)
 日本では『狼を愛した姫君』でデビュー以来、ナンバーワンの人気を誇る作家。ディ・バラ家やド・レーシ家の面々を主人公に据えた中世の物語と、華やかなイギリス摂政期(十九世紀初頭)の物語を描き分ける。「どの作品もそれぞれ個性の際立ったものに仕上がるよう心がけている」と語る。夫と息子二人、猫二匹と迷い犬とともに、米オハイオ州に在住。

解説

 13世紀イングランド。わずかな従者を連れて旅を急ぐ姫君が、賊に襲われた。姫君は落馬して気を失い、ディ・バラ家の男たちに助けられたときには記憶を失っていた。所持品からマリオンと呼ばれるようになった彼女は救い主たちの城に迎えられ、城主の老伯爵と、狼と表現するのがぴったりの6人の息子たちとの暮らしにとけ込んでいく。ある日、7人目の狼、長男のダンスタンが久々に帰郷する。ほかの6人になかったときめきを感じるマリオン。しかし彼女の身元がわかり、マリオンはダンスタンに伴われ、家路をたどる旅に立った……。

抄録

 ダンスタンの目つきが、きみはたしかに女だよ、わけがわからん、と語っていた。「泥の中に頭からつっこみたいというのか?」
「いいえ」
「それじゃ、いったい何を望んでいるんだ?」そのばかにしたような言い方に、あらためてマリオンの怒りが燃え上がった。
「何を望んでいるかですって? 教えてあげるわ、ウェセックス男爵ダンスタン・ディ・バラ。やめてほしいのよ――何もかも」片手でぐるりと輪を描く。「いますぐに。どうせ死ぬとわかっているのに、どうしてこの雨の中を歩かなくてはいけないの? 殺人者の手に引きわたされるだけでもたくさんなのに、その前にどうしてこんなつらい目に遭わなくちゃいけないの?」
 ダンスタンの口もとがいらだちをうかべて引きしまったが、マリオンは言いつのった。
「お願いだから、引き返して! わたしをキャンピオンにでもウェセックスにでも、一番近くの村にでもいいから連れていって。でなければ、ここにおき去りにしてちょうだい! さあ、行って。そしてご自分の仕事に専念して」マリオンは手を突き出した。「わたしはみんなと一緒に死んだと報告すればいいわ。それぐらいの嘘をついても、あなたにはなんの害もないでしょう? それでわたしの命は救われるのよ!」
「父上が――」怒りに顔をゆがめてダンスタンが口を開いたが、マリオンがさえぎった。
「あなたのお父様はわたしのことなんて気にしていないわ。そして叔父は、わたしが死んだと聞いたら大喜びするでしょうよ」すっかり疲れた気分で、マリオンはダンスタンを見つめた。なんとか彼が納得してくれればいいのだけれど。
「言いたいことはそれで終わりか?」
「いいえ、まだよ」マリオンはそばの岩によりかかった。「わたしはここから動かないわ。さあ、行って。ひとりにしてちょうだい」
 ダンスタンが仏頂面で言った。「どうしてもと言いはるなら、かついでいくぞ。それで多少なりときみのみじめさが減るとも思えないがね」
 マリオンはぼそぼそとダンスタンをなじると、立ち上がって腹立たしげに彼のかたわらを通りすぎた。いまふたりは街道を離れて、羊道らしきところを歩いていた。ぬかるみに靴をとられ、いまにも倒れそうになりながらも、かまわずマリオンは歩き続けた。ダンスタンがすぐに追いついてくる。
 小高い丘の上に着くと、ダンスタンは片手を額にかざして雨を避けながら眼下をうかがった。マリオンも同じように下を見た。窪地に何かがある。
「ほら、あそこ! あれは何かしら?」
「たぶん羊飼いの小屋だろう。なんとか雨宿りぐらいはできそうだ」
 雨宿り! マリオンは喜び勇んで歩きだした。そのとたん、ぬかるみに靴がすべって、顔から泥の中につっこんだ。ダンスタンの豊かな笑い声が響いた。ふつうのときなら心がときめきそうな笑い声だったけれど、泥まみれになって立ち上がったマリオンはそんな気分ではなかった。
「あなたって……あなたって卑劣だわ!」怒りにかられて、マリオンは鎧に包まれたダンスタンの胸を力いっぱい叩いた。しかし、小さな泥のあとをつけたほかにはなんの効果もなく、自分が後ろによろめいただけだった。
 今度は、笑いながらもダンスタンが腕を伸ばして彼女を支えた。ところが、ふいにマリオンの足もとの土が崩れ、ダンスタンのびっくりした顔が目に入ったのを最後に、ふたりはもつれ合うようにしてぬかるんだ丘の斜面を転がり落ちた。
 マリオンはけがもせずに丘のふもとの泥の中に背中から着地した。ところが、息をととのえる暇もなく、ダンスタンのからだが落ちてきて、一瞬彼女の呼吸をとめてしまった。目をあけると、真上にある彼の顔から雨の滴がしたたっていた。黒い髪がぬれてよじれ、緑色の目がひたとマリオンを見つめている。
 マリオンの頭にまずうかんだのは、押しつぶされる、という思いだった。でも抗議の声をあげようとしたときには、もうダンスタンがわずかに巨体をずらしていたので、なんとか息ができるようになっていた。彼はひじをついて体重を支えていたが、まだマリオンの上にのしかかっていることに変わりはなかった。そして、その状態がマリオンにはひどく心地よく感じられた。
 驚きにも似た気持ちで、マリオンはダンスタンを見上げた。見返す緑色の目はぬれて何かを訴えるように光っていた。長い間どちらも息もできなかった。ふしぎな緊張感が生まれた。彼の下で、マリオンのからだが少しずつ熱くなっていく。ダンスタンの目が底知れぬ深みをおびた。
「とうとう来るべきときが来たようだな、マリオン」ダンスタンがうめくように言って顔を近づけた。
 唇がふれた。熱く、狂おしく。記憶が戻ったいま、マリオンは自分に口づけの経験がないのはわかっていたが、これはあまりにも想像と違っていた。いかにもダンスタンらしく、優しさは感じられず、ただひたすらむさぼるような口づけだった。ふとマリオンは、ウェセックスの狼にのみこまれてしまうのではないかと怖くなった。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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