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トスカーナの花嫁 シンデレラに憧れて

トスカーナの花嫁 シンデレラに憧れて


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・リクエストシンデレラに憧れて
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ダイアナ・ハミルトン(Diana Hamilton)
 イギリスの作家。ロマンチストで、一目で恋に落ち結ばれた夫との間に三人の子供をもうけた。就寝前の子供たちにベッドで読み聞かせるために物語を書きはじめる。ロマンス小説家としてのデビューは1987年、その後数多くの名作を世に送る。2009年5月、ファンや作家仲間に惜しまれつつ亡くなった。

解説

 大財閥の跡継ぎを産んだ彼女への周囲の目は冷たかった。

 ■カフェで働いていたポーシャは、客のヴィトーに言い寄られ、熱意にほだされて結婚の約束をした。ところが、身ごもった直後、彼と連絡がつかなくなる。ヴィトーの身に何か起こったのだろうか――ポーシャは心配でたまらず、彼の仕事先のレストランに何度も手紙を出したが返事はなかった。数カ月後、ポーシャは新聞でヴィトーの事故死の記事を見て愕然とする。彼はイタリアの大財閥の次男坊で、妻までいた。レストラン開店を夢見て、貯金に励んでいる若者などではなかったのだ。かわいい男の子に恵まれたものの、祝福してくれる人もなく、両親の非難にさらされながら、つらい日々を送る彼女は、ある夜、冷たい目をした見知らぬ男の訪問を受けた。彼はヴィトーの義兄ルチェンゾと名乗り、軽蔑もあらわに言った。「きみと赤ん坊をイタリアに“招待”したい。父の意向だ」

抄録

 ポーシャは天にも昇る心地になり、なんとも言えない感動に包まれた。
 ルチェンゾの唇が重なったとき全身に広がった快い衝撃は、なかなか鎮まろうとしなかった。ぼうっとしたまま立ちつくし、かすかに息を弾ませていると、彼がゆっくりと髪に指をからませ、唇の形を唇でなぞった。
 ポーシャの頭の中は真っ白になり、全身の感覚が重ねられた唇へと引きつけられていった。唇にやさしく分け入る舌先のけだるい動き。彼女はそのすばらしい快感に身をゆだねた。
 ふとキスが終わりかけている気配がした。このうっとりするような魔法が消えていこうとしている。ポーシャは抗議の声をもらしてすがりつき、豊かな姿態をかたく熱い体に押し当てた。今まで存在することすら知らなかった、天国に入っていくような切ない快感におぼれたかった。
 低い声がしてキスが深まった。熟れた曲線を両手でたどられると体に火がつき、ポーシャは無我夢中になった。激しく抱擁しているさなか、突然彼が身を引くのを感じた。目の焦点が合ったとき、自分のしたことに気づいた。彼の肌をじかに感じたくてシャツをほとんど引きはがしていたのだ。
 恥ずかしさで顔が真っ赤になり、身震いが出た。彼にどう思われたかしら。欲しいと言われたら誰のものにでもなる尻軽な女?
 どうしてこんな真似ができたのだろう。わたしが彼にしがみつくなんて。もし彼がわたしの激しさに興ざめして止めてくれなかったらどうなっていたか。
 どこか遠くへ逃げ出したい。でももう一度彼に抱かれたくてたまらない。なぜこんな矛盾した気持ちになるのだろう。ポーシャは叫びだしたくなり、ぶるぶる震える手で口をふさいだ。
「悪かった。これはあってはならないことだった」
 ルチェンゾの声は淡々としていたが、ボタンを留め、シャツをズボンの中にたくし込む手がかすかに震えているのに彼女は気づいた。
 ポーシャは心から自分の振る舞いに恥じ入り、無言で見つめている彼のまなざしから目をそらせた。彼の言うとおりだ。もちろん彼が正しい。これはあってはならないことだった。最高のキスだったけれど、ふたりのあいだには以前にも増して高い障壁ができてしまった。
「家に入るわ」ポーシャは気まずい沈黙に一瞬も耐えられなくなり、こわばった声で言った。自分を叱りつけて足を進め、思い悩みながら迷路のような小道をただ歩いた。
 日差しがぎらぎらと照りつけるテラスの階段を上がり、懸命に自分を慰める。こんなことがあったのだから、きっと彼に滞在しろと言われないですむだろう。それにわたしがイギリスに帰国したいと話した動機を、あんなふうに邪推されることもない。
 帰国の決心はなおさら固まった。
「こっちだ」彼に肘をつかまれ、ポーシャは足を止めた。ぼんやりして入りかけた入り口は、エデュアルドの部屋に通じるフランス窓だった。
 こんな間違いをするなんて。彼の温かい手を感じたときの電流が走るような衝撃はなんなのだろう。ポーシャは何がなんだかわからなくなった。こみ上げる吐き気のことは考えないようにして、意志の力を振り絞って彼をにらみつけてから、長い指を一本ずつ腕から引きはがした。
 ルチェンゾの頬に赤みが差し、押し殺した怒りで目が険しくなった。「落ち着いて。何も君に不埒な真似をしようっていうんじゃない」ルチェンゾはもの憂げに言った。彼女の顔が蒼白になり、長いまつげがすばやく瞳を隠したのを見たとたん、無用の嫌みを言わなければよかったと後悔した。
 せっかくの親切を、触られると虫ずが走るとばかりはねつけるとは。ルチェンゾは激しい非難を浴びせたくなる自分を叱りつけ、顎をこわばらせた。もちろん彼女には無用の親密な振る舞いを断る権利がある。
「こっちだ」また体に触るほど愚かではない。それでもルチェンゾは彼女が並ぶまで待ち、ゆるやかな足取りでテラスの端に向かった。そしてわざと軽く言った。「いつかガイドつきツアーをする必要があるね。自分でどこへでも行けるようにならないと」
 返事はなかった。
 彼女にキスすべきではなかったのだ。ルチェンゾは自分がいやになった。最初はただ慰めるつもりだった。ほかの家族の苦しみを思いやる、彼女の感じやすい一面を気遣い、思わずキスしてしまった。
 またある種の償いでもあった。今までのひどい態度――ことにあの、子どもをだしに脅していると言いがかりをつけた償いだ。
 そんなふうに初めは慰めるための、きょうだいの軽いキスと抱擁だった。それが制しきれなくなった。唇を重ねたとき、彼女がかすかに身を震わせた。しだいに強まってゆく日差しを浴びたばらの花びらのように、ふっくらした唇をそっと開いた。彼女はこよなく甘い美酒、とほうもなく強いワインの味がした。途中で危ないと気づき、やめようとした。
 そのとき彼女がキスにこたえ、彼の体の中で大混乱が起きたのだ。ほとばしる欲望をせき止める力をどうにか見つけなかったら、その場で愛を交わし、弟の二の舞になるところだった。奪うばかりで、ほんとうに大切なものは何も与えない弟の。


 *この続きは製品版でお楽しみください。

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