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夜明けのフーガ

夜明けのフーガ


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆2
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著者プロフィール

 リンダ・ハワード(Linda Howard)
 数々の受賞歴を誇る、世界中で大人気の作家。栄えあるNYタイムズやUSAトゥデイのベストセラーリストにもしばしば顔を出す。読むにしろ書くにしろ、本は彼女の人生において重要な役割を果たしているという。読み始めはマーガレット・ミッチェルの作品。それ以後、広く読書に熱中するようになった。少女のころから書くことが好きだったリンダの作家デビューは三十歳のとき。現在はアメリカの作家大会や授賞式の席に常連の人気作家で、サイン会にもひっぱりだこである。とりわけ、彼女の描くヒーローが魅力的だというファンが多い。現在、生まれ故郷のアラバマ州に夫とともに住んでいる。

解説

 休暇中のセラピスト、ディオンヌが新たに依頼を受けた患者は、海、空、山をこよなく愛し、どんな冒険にも勇敢に挑む男ブレイク・レミントンだった。登山中に大怪我を負い、再び歩くどころか食べる気力さえ失って衰弱の一途だという。渡されたレントゲンを見るかぎり、傷は癒えている。承諾を迷うディオンヌは添えられた写真を手に取った―鍛えあげた肢体をあらわにし、深いブルーの海をバックに生き生きと微笑む事故前の彼。ディオンヌの心がうずいた。

抄録

「わたし、腕相撲が不得意だなんてひとことも言わなかったわよ」そう言いながら、ディオンヌはこみ上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。
 この人、あんなに怒ったせいでいまにも立ち上がりそうじゃない! 我慢しきれず、ディオンヌは笑いだしてしまった。すると、ますます腹を立てたブレイクはこぶしをふり上げ、車椅子の肘かけに打ちつけ始めた。どんどんという音とともに、車椅子が前後に揺れる。まるで荒れ狂う野生馬の背中にでも乗っているかのようだ。
 もうだめ。ディオンヌはそれまで必死にこらえていたおかしさを、一気に爆発させた。おかしくて涙が出る。げらげら笑いながら、ウエイトベンチをたたく。それを見てますますブレイクが怒る。それがまたおかしくて、もう息ができないくらいだった。
「笑うな!」ブレイクの声がジムの壁に響いてはね返った。「座れよ! 今度はどっちが勝つか、試すんだ!」
 ブレイクはマッサージテーブルに車椅子を動かすと、むっとした顔をして肘をついた。ディオンヌもテーブルに向かう。が、笑いすぎたせいでなかなか体が言うことを聞かない。テーブルについても、まだ笑いが止まらなかった。
「フェアじゃないわ」ディオンヌは彼の手首に手を置いて言った。「まだよ。この笑いがおさまるまで、ちょっと時間をちょうだい」
「何がフェアだよ。ふつうの女性なら許せるけど、きみはウエイトリフティングの選手なんだぞ」
「わたしはふつうの女よ」
「どこがだよ! いいから早く勝負だ」
「わかった、わかったわよ。だからちょっと待って」
 ディオンヌはこみ上げてくる笑いをこらえ、彼と手を組み合わせた。腕にぐっと力を入れる。
「オーケー、いいわよ」
「カウントは三つだ」ブレイクが語調も荒く指示する。「一……二、三!」
 ブレイクのそのいんちきな数え方にもなんとかごまかされずにすんだ。全身に力をみなぎらせる。彼の体力は思いのほか回復している。予想外だった。さらに、彼には怒りも味方していた。それにひきかえ、笑ってばかりいたディオンヌはなかなか腕に力が入らない。この勝負、彼が勝ってもおかしくなさそうだわ。
「だましたわね!」ディオンヌは歯をくいしばり、腕に全力を集中しながら言った。
「何を?」
「カウントよ、カウント!」
「お互いさまだろ!」
 しばらくのあいだ力の均衡状態が続いた。組み合わせた腕がぶるぶるとふるえてくる。顔と顔がくっつきそうなほど近づき、ふたりの額に汗がにじんできた。ディオンヌは低くうめいた。彼がいきなり力強く押してきたのだ。でも、なんとか耐えられそうだ。ここはスタミナ勝負ね。そのとき、ふとある考えが彼女の頭をよぎった。彼に勝たせてやったら……きっと彼のエゴは慰められるだろう。いえ、でもだめよ。それこそだましたことになるもの。それにいままでの努力も水の泡になってしまう。
 ディオンヌの顔に強い決意の色が浮かぶのを見て、ブレイクが苦しそうに悪態をついた。
「ちくしょう、こんなときは勝ちをゆずるのが礼儀ってもんだぞ!」
 ディオンヌは息を深く吸いこんだ。「もしわたしに勝ちたかったら、もっとトレーニングを積むことね。誰が勝たせるものですか!」
「ぼくは患者なんだぞ!」
「いくじなしよ!」
 ブレイクは歯をくいしばってますます腕に力を入れてきた。ディオンヌは彼の肩にまで頭を傾け、その攻撃に耐えた。ゆっくりゆっくりと、ブレイクの腕が戻り始める。いまがチャンスだ。ディオンヌはかけ声をかけて一気に力を集中させ、彼の手をテーブルの上に押し倒した。
 静かなジムのなかで聞こえるのはふたりの乱れた息の音だけだった。ディオンヌは激しく肩で息をしながら、ブレイクの肩に頭をのせていた。彼の動悸が聞こえるようだ。ゆっくり体を離すと、彼女はテーブルにもたれこんだ。彼もどさっと音を立て前にのめりこむ。はあはあ息をついたせいか、もう健康人の顔色だ。
 しばらくすると、ブレイクがあごを上げ、澄んだブルーの瞳でじっとディオンヌを見つめた。いや、にらんでいるといったほうがいい。まだわたしがウエイトトレーニングを続けていたことを怒っているのかしら。
 ディオンヌは息を深く吸うと、じっと彼の目に見入った。「あなた、怒るととてもすてきよ」
 ブレイクは一瞬あっけに取られたような表情をしたが、じっと長いこといぶかしげな目でディオンヌを見ていた。そして、喉の奥からかすかに声をもらし始めた。だんだんその声は大きくなり、やがてジム中をふるわせるような笑い声に変わった。顔を上に向け、おなかを両腕で抱えこむ。ディオンヌもつられてくすくす笑い始めた。
 ブレイクはもう大笑いだ。車椅子を前後に揺らしたり、こぶしでたたいたりして笑いころげている。ディオンヌは彼の脇にスツールを置いて腰かけた。おかしくておなかがよじれそうだ。ブレイクもわざとふざけて、車椅子を揺らし続ける。
「やめて……やめてよ!」そう言いながらも笑いは止まらず、涙まで出てきた。
「やめて!」ブレイクはおどけてディオンヌのまねをしてみせる。そして、彼女の脇腹をくすぐった。
 くすぐられるのはディオンヌにとって初めての経験だった。これまでは、くすぐったいということがどんなことかも知らなかった。男性に触れられて彼女が感じるのは嫌悪感だけだったのだから。が、その彼女もいまはくすぐったさとおかしさで、男性に触れられているという事実すら忘れていた。彼女はブレイクの腕から逃れようとしてもがいた。そのときだ。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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