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美貌のシャペロン

美貌のシャペロン


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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著者プロフィール

 ニコラ・コーニック(Nicola Cornick)
 イギリスのヨークシャー生まれ。詩人の祖父の影響を受け、幼いころ歴史小説を読みふけり、入学したロンドン大学でも歴史を専攻した。卒業後、いくつかの大学で管理者として働いたあと、本格的に執筆活動を始める。現在は、夫と二匹の猫と暮らしている。

解説

 二十七歳になったアニスは今の境遇に満足していた。貴族の娘のシャペロン(付き添い人)として生計をたて、誰に頼ることなく心静かに暮らす――それはやっと手に入れた心の自由だった。だから、遊興に耽るアシュウィック卿に声をかけられたときも、彼女は素知らぬふりをしてやり過ごそうとした。だが彼は見逃さなかった。不格好なボンネットをとったアニスの豊かな金髪が陽光に輝き、その溌剌とした笑顔から白い歯がこぼれるのを。これはこれは……。彼の口元が思わずほころんだ。
 ★2005年9月から始まった〈放蕩貴族の素顔〉第二話をお送りします。物語の舞台はイギリス北部の保養地ハロゲート。バースやブライトンに飽きたロンドン貴族たちが、温泉の物珍しさにつられ、大勢やってきて……。人気作家ニコラの筆がうなります!★

抄録

「アシュウィック!」チャールズが押し殺した声でつぶやいた。
 アニスはちらりと従兄を見た。今度もまたチャールズの口調が少し変だった。田舎の弁護士が華やかな貴族を羨《うらや》むとか非難するとかならわかるのだが、そうではない。アニスも当然、アダム・アシュウィックは知っていた。三年も社交界の令嬢たちのシャペロンを務めていて、彼を知らない者はいないだろう。彼の目下の主な仕事はギャンブルにふけり、悪い連中とつき合うことだ。長年ロンドンの噂《うわさ》の中心にいるフリート公爵、タラント伯爵といった有名人もアシュウィック伯爵の友人だった。タラント伯爵は今は結婚し、がっかりするほど妻の言いなりだが、セバスチャン・フリートとアダム・アシュウィックは依然、ゴシップで社交界を騒がせている。そんな彼がハロゲートの保養地などに出現するとは、いかにも場違いだった。
 アシュウィック卿《きょう》とその連れが宿の玄関へ向かうにはアニスたちの前を通り過ぎなくてはならない。アニスは馬車の脇《わき》へ下がった。ところが驚いたことに、アシュウィック卿が目の前で立ち止まり、チャールズに軽く会釈したのだ。
「ラフォイ」彼の口調は冷ややかだった。
 チャールズも同様にごく軽い会釈を返した。「アシュウィック卿」
 沈黙が張りつめた。アニスはふたりの顔を見比べ、そこに激しくぶつかる何かがあるのを感じた。アダム・アシュウィックは不快な笑みを口元に浮かべ、チャールズを見つめている。アニスは彼の関心が自分からそれているこの機会を利用して、じっくりと観察した。
 特に彼を一般的な意味でのハンサムだとは思わなかった。日に焼けすぎているし、顔立ちはいかめしく、頑固そうだ。まっすぐな黒い眉の下の目は大きく、涼しげな灰色の瞳をしている。まだ三十代前半だろうが、豊かな暗褐色の髪がすでに銀色に変わりはじめ、それが彼の容貌《ようぼう》に特別な趣を与えている。服装は故意に地味にしている感がある。長身で鍛え上げられた体格に、淡い灰色のぴったりした乗馬ズボン、漆黒の上着に純白の麻のシャツ、ヘシアンブーツではなく上質の革の乗馬靴をはいている。彼はアニスが想像していた放蕩《ほうとう》者の貴族とは違い、活動的な印象で、強烈な磁力を発していた。チャールズのように仕事で成功した男性が放つ自信とはまた異なり、アダム・アシュウィックの威厳はいわば天性の、疑問の余地のないものだった。
 彼の冷ややかな灰色のまなざしがアニスへと移ったので、彼女は慌てて目を伏せた。アシュウィック卿は今度は恭しくお辞儀をした。「はじめまして、マダム」
「ぼくの従妹《いとこ》のアニス、レディ・ウィッチャリーだ」チャールズの明らかに不本意なようすに、アニスの口元がぴくりとした。従兄が紹介を渋るのはアシュウィック卿の評判が悪いせいか、それとももっと個人的な嫌悪からだろうか。一瞬ののち、アニスはアシュウィック卿もチャールズの警戒の理由を考えているのに気づいた。アニスと目が合うと、彼は問いかけるように眉をつり上げ、ふたりはつかの間ともにこの偶然の一致を楽しんだ。なんだか従兄を裏切った気がして、アニスは急いで目をそらし、礼儀正しく握手の手を差し出した。「はじめまして」
「今後ともよろしく、レディ・ウィッチャリー」アシュウィック卿はアニスと握手した。アニスはもう一度彼の顔を見たくなり、見てすぐに後悔した。彼がじっとこちらを見つめている。それは明らかに男として関心を抱いているまなざしだった。悪寒が体を走り、アニスは彼に握られた手を引っ込めた。
 アシュウィック卿の連れの美女は、自分が無視されているのにいら立ち、彼の腕を引っ張った。「わたしは紹介してくださらないの、アッシー?」かすかなフランスなまりがとてもかわいい。しゃれた帽子のつばの下からアシュウィック卿を見上げる彼女には、わがままな子供のような魅力があった。
 アッシーですって!アニスは吹き出しそうになった。アシュウィック卿とまた目が合い、心を読まれたのではないかと慌てて視線をそらす。彼に妙な親近感など抱かれたくない。
「マーゴ、こちらはレディ・ウィッチャリー――アニスだ。それから彼女の従兄のチャールズ・ラフォイを紹介しよう」チャールズとの反目の瞬間などなかったように、アシュウィック卿はごく普通に愛想よく言った。マーゴと呼ばれた美女はアニスに向かってうなずき、チャールズに対しては大げさにまつげをぱちぱちさせた。アニスはそんな彼女の態度を、むしろ少しおもしろがっていた。宿の中庭全体が美女を見つめるために静止してしまったようだ。
 アニスはいつもながら、なぜ人は常にこういう見え透いたものに引きつけられるのだろうと思った。社交界にデビューしたばかりのういういしく魅力的な令嬢が、もっと派手な女性が現れたとたん見向きもされなくなるのを、数えきれないほど目にしてきた。ここでも同じだ。アシュウィック卿の連れの美女に、馬丁たちはぽかんと口を開けて見とれ、旅人たちは称賛のまなざしを注ぎ、宿の窓からこちらをのぞいている客までいる。
「わたしはマーゴ・マーディン」彼女は重大な事実でも告げるように言った。「名前を聞いたことがおありでしょう?」
「もちろん」チャールズがきょとんとした顔をしているので、アニスは慌てて言った。「この夏のシーズンには王立劇場に出演なさるんですって?従兄とわたしもぜひ見に行きますわ」
 マーゴ・マーディンはチャールズに向かって微笑しながらうなずいた。「終演後にお会いできるといいけれど」彼女は恩着せがましく言い、アシュウィック卿の腕を取った。「行きましょう、アッシー。寒いわ。あなたの国の北部って、びっくりするほど未開なところね。ご存じかしら……」彼女はチャールズを振り返り、秘密を打ち明けるように言った。「途中の宿で、わたしたち、共用水栓から水を飲まなくてはならなかったのよ。なんてこと!下々の者たちと一緒によ!さあ行きましょう」
 アニスはアシュウィック卿がまだ自分を見つめていたのでぎょっとした。彼は首をかしげ、かすかにほほえんでいて、それがいっそう彼女の心をかき乱した。手袋の縫い目をなぞりつつ、アニスは顔が赤くなっていませんようにと願った。わたしは花婿候補のハンサムな青年たちに心を動かされないことで有名だったのに、自分とは生き方のまったく異なる男性に惹《ひ》かれてしまうなんて、なんとも不思議だわ。ふたりのあいだの空気がぴりぴりと張りつめているのは否定できない。彼女はそれにひどく狼狽《ろうばい》してしまった。
「またお会いできる日を楽しみにしています、レディ・ウィッチャリー」


*この続きは製品版でお楽しみください。

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