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宵闇の鳥のささやき

宵闇の鳥のささやき


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks
価格:800pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★☆☆1
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解説

 きみが望むのなら、月も星もあげよう――
それは罪と背徳の伯爵が夢見た、儚くも狂おしい愛の物語。

 社交界を賑わすウォーリングフォード伯爵マシューは、その見目麗しい容貌で幾多の浮き名を流しつつも、退屈な日々に辟易していた。女などしょせん欲望の捌け口――そう思っていたマシューの心を初めて揺さぶったのが、ジェイン。ごろつきに襲われ入院した際、一時的に盲目となった彼を天使の声で癒してくれた看護師だ。ジェインの姿も知らぬまま退院したマシューは、柄にもなく彼女に会いたくてたまらず、どうにか手紙で会う約束を取りつけた。だが当日、そこには地味な眼鏡の女性がいるだけで、ジェインらしき人物は現れず……。

抄録

 リチャードは半信半疑といった顔でこちらを見た。「これからは、ほかの看護師を彼の担当にしよう」
「だめです!」ジェインは思わず言い返してしまった。リチャードは、ぎょっとしたような顔をしたあと、ジェインの肩ごしにベッド上のマシューへ視線を向けた。
「だめ?」
 ジェインはごくりと喉を上下させた。ほかの看護師が彼の隣に座るなんて、考えるのもいやだった。彼はわたしの……わたしの患者だ。
 彼に妻か婚約者がいる可能性など、ジェインの頭にはまったく浮かんでこなかった。ジェインにとって、マシューは自分だけのものだった。イーストエンドで育ったことによる最後の影響が、いまなお心に残っているせいだ。ジェインはまともな親さえおらず、何も持たずに育った。その結果、手に入れたものをかたくなに死守するようになった。今夜だけでもいいから、マシューのことを決して手放したくなかった。
「そうか……では、きみにまかせる。だが、きみがいちばん熟練した看護師で、彼が貴族だからだ」
 ジェインはうなずいた。「身元がわかったのですか?」
「父に心当たりがあったらしい。父が昼間、行きつけのクラブで話を聞いてきた。いまはメイフェアに行っている」
「そうですか」
「看護はきみにまかせるが、また様子を見に来るからな」リチャードは低い声で言いながら、ジェインの両肩に手を置いた。そのまま腕のほうまで手をすべらせ、いったん強く握ってから放した。何も言わずとも、その瞳がすべてを告げてきた。リチャードは知っている。ジェインがマシューに惹かれてしまったことを、どういうわけか見抜いているのだ。

 誰かの手で体をさわられている。だがそれは、かつて全身をなでまわしてきた女の汚らわしい手ではない。ジェインだ。そう判別できる能力が自分にあったのも驚きだが、とにかく、これが余人の手でないことはわかる。
 もっとも、夢に現れたのは別人だった。いやな夢だ。そのあと体に残された感覚も厭わしい。しかし、いま触れてきたのはジェインの手だ。
「ジェイン?」マシューは乾いた唇と痛む喉から、かすれた声を吐いた。
「はい」静かな返事があった。「少しずつ、ゆっくり飲んでください」
 冷たい水が喉にしみわたる。とても少しずつなど飲んでいられず、マシューはジェインの注意も忘れて水をがぶ飲みした。それから枕に倒れこんだとき、ぐったりと疲れきっている自分に気づいた。ジェインとあんなことをしたからだと、マシューは思い返した。快感の余韻もいまだに残っている。
「ちゃんと寝ていなくてはだめですよ」そう言いつけてきたジェインの声は冷ややかで、よそよそしい。
「もう十分に寝た」
「睡眠がいちばんの薬です」
「いや、僕に必要な薬はきみだ」
 沈黙が部屋いっぱいに広がり、マシューは無駄口を叩いたと悔やんだ。誰かを言い負かそうとするときならともかく、いつもはこんなに口数は多くないのに。こうしてジェインのそばにいると、どうにも口を閉じていられず、皮膚の下が粟立つような妙な気分も隠せない。それどころか、自分が何をしたいのかもわからなかった。
 黙って横になり、ジェインを仕事に戻してやるべきだと、頭ではわかっていた。だが体のほうは、そばにいてほしいと訴えている。沈黙のなか、彼女の声が聞きたい、両手で触れてほしいと叫んでいる。こんなふうに思うのは熱のせいだろうか。それとも、自分でも気づかぬまま、心の奥底に隠し持っていた欲望のせいか。いや、どうでもいい。肝心なのは、ジェインを取り戻して自分のものにすることだけだ。
「そばに座っていてくれないか?」
「無理です。ほかの患者さんも看護しなくてはいけませんので」ジェインの体がマシューをかすめた。ごわごわしたスカートがシーツをこする音も聞こえた。マシューは手を伸ばし、なんでもいいからつかもうとした。
「きみが見えたらいいのに」かすれ声で言う。「手を貸してくれ」マシューはジェインに手を握ってもらうことを期待しながら、やみくもに宙をかいた。
「マシュー」哀願するような声が返ってきた。「ごめんなさい、無理です」
 何も見えないが、マシューはなんとかジェインの手をとらえて引き寄せ、ベッドに座らせた。
「痛みがあるとか、何か欲しいものがあるなら――」
「きみが欲しい」マシューはジェインと指をからめ、その手で彼女の顔に触れた。
「こんなことをして何になるんです?」
「きみの姿を心に描きたい」
 マシューはジェインの顎の柔らかい曲線をたどり、わななく指先でなめらかな肌をなでた。白桃色の傷ひとつない肌が心に浮かぶ。鼻筋から豊かな唇へと指をすべらせ、口角に触れたとたん、ジェインが顔を背けた。いくらせがんでも、こちらを向いてくれない。
「唇にさわらせてくれ」
「だめです」ジェインが離れようとした。しかしマシューは彼女の体にまわした腕にいっそう力をこめ、抱き寄せて唇を奪った。優しく、しっとりしたキスだった。ただ唇を触れ合わせているだけで心が沸きたつ。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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