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王家の蝶 上

王家の蝶 上


発行: ハーレクイン
レーベル: MIRA文庫mirabooks シリーズ: 王家の蝶
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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解説

 シカゴの高級宝飾店モナークは、かのティファニーと肩を並べるほどの一流ブランド。代々一族の女性だけが才能を受け継ぎ、トップデザイナーとして君臨してきた。女の子の誕生を待ちわびるモナーク家に、ついに新たな子供が誕生した。輝く宝石のような肌をした、女の赤ちゃん。しかし幸せなはずの母マデリンは不吉な影に身を強ばらせた。娘を執拗に見つめるあのまなざし。この家には邪悪な何かがうごめいている……。エリカ・スピンドラーの長編傑作。

抄録

 だが、クレアは帰っていなかった。チャンスは人の気配のしないトレーラーの真ん中に立って、失望を顔に出さないようにつとめながら、次になすべきことを考えた。スカイは心配のあまり、今にも泣き叫ばんばかりになっている。頭痛もずいぶんひどいようだ。
 それでもスカイは頭痛薬をのもうとしなかった。薬をのむと眠くなることがあるので、眠ってしまうのが怖いからだと言う。チャンスは、クレアが戻ってくるまでそばにいると約束してようやく説得し、薬を二錠のませてベッドに入れた。
 チャンスはベッドのそばの床に座りこんだ。かろうじて体が入るくらいの広さだ。時間がどんどん過ぎていくのが気になるが、それでもできるだけ快活な笑みをつくった。「大丈夫だよ、キッド。こうしてる間にもお母さんはあのドアから入ってくるさ。そしたら、心配してたのがばかばかしくなるって」
 スカイは探るような視線を向けた。「もし戻ってこなかったら?」
「戻ってくるさ」
「チャンスのお母さんは今、どこにいるの?」
 チャンスは一瞬たじろいだ。スカイの質問が、いきなりみぞおちにパンチを食らったようにこたえた。「死んだよ」
 スカイは息をのむと、眉をひそめて尋ねた。「なんで亡くなったの? 事故かなにか?」
「病気になったんだ」チャンスはそっけない口調で言った。「ついに治らなかった」
「そう」気まずい沈黙がふたりを包んだ。しばらくためらってから、スカイはこほんと咳払いをした。「チャンス」
「うん?」
「どんな感じ? お母さんがいないって?」
「あんまり考えたことないよ。このごろはとくにね」
 スカイは目に涙をいっぱいためている。母親のことを考えているのが、チャンスにはよくわかった。もう二度と会えないかもしれないと思っているのだろう。
 彼は身を乗りだすようにして言った。「ばかだなあ、スカイ。お母さんはすぐに戻ってくるよ」
「でも、もし戻ってこなかったら?」言葉が舌足らずに響く。薬がきいてきたらしい。
「戻ってくるって」
 スカイがまぶたをしばたたかせた。「出てっちゃいやよ……約束したでしょ」
「ああ、わかってるよ。確かに約束した。だから、出てったりしないよ」
 まもなくスカイのまぶたがくっつき、安らかな寝息が聞こえてきた。どちらにしてもチャンスは、このままベッドのそばでつき添っていてやるつもりだった。ばかなかわいいスカイ。いつもつっ張って、誰にも負けない強い子ぶっているが、今は全然そんなふうに見えない。ひどくあどけなく、愛らしく見える。迷子の子猫みたいに途方に暮れて……。チャンスは人差し指でそっとスカイの頬にふれた。ふいにスカイをいとしく思う気持ちがつきあげてきて、彼はそんな自分にうろたえ、あわてて手を引っこめた。
 チャンスはひとりっ子だったが、昔は兄弟が欲しいと思っていた。そうすればなんでも分かちあえるし、母親が忙しくて――あるいはそんな気分になれなくて――そばにいてもらえないときにずっと一緒にいられるからだ。
 もうずっと昔のことだ。あまり昔なので、よく覚えていない。きっと寂しい思いをしていたのだろう。そして自分を幸せにしてくれる人を探していたのだ。自分を守ってくれ、安心させてくれる誰かを。
 チャンスはベッドの隙間から身を起こし、ドアまで歩いていった。足をとめ、スカイをふり返る。そういえば、さっきスカイは変なことを言っていたな。夜中に荷物をまとめて、夜逃げ同然に出ていくとかなんとか。だけど、ギャングに追われているなんて、そんなことあるわけないさ。それじゃまるで、ハリウッドのギャング映画だ。
 そうさ、クレアはおおかた、借金とりから逃げまわっているのに違いない。スカイに父親のことを話さないのは、たぶん自分でもスカイの父親が誰だかわからないからだろう。
 ひどい話だが、それが真実だ。あまりにもひどい話で、しかも真実だから、盲目的に母親を慕っている幼い娘には話せなかったのだろう。
 チャンスはもう一度スカイに目をやってから、トレーラーの前部に移り、クレアを待つことにした。いったん腰をおろしたが、落ち着かなくて、あたりをうろうろ歩きまわった。腕時計を何度も確かめる。時間は刻一刻と過ぎていくが、クレアはまだ戻ってこない。
 チャンスは首をふった。おそらくクレアには恋人がいて、こんなふうにたびたび抜けだしては、ときのたつのも忘れてよろしくやっているのだろう。
 だが、いくら頭でそう考えても、それが真実らしくないことは認めざるをえなかった。なぜかはわからない。実のところ、クレアのことはほとんど知らないのだ。もしかしたら、とんでもない色情狂だということだってありうるではないか。
 けれど、クレアがスカイにそそぐあのまなざしを見れば、どんなに娘を愛しているか、わからないほうがどうかしている。クレアにとって、娘よりも大切なものはない。ましてや、こんな小さな田舎町の男との逢引なんて話にもならないはずだ。甘いと言われるかもしれないが、クレアがそんなことのために娘を置いて出かけるなんて考えられない。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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