マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ヒストリカル

不道徳な淑女

不道徳な淑女


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ヒストリカル
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 未評価
◆レビューを書く

¥0サンプル
購入する


著者プロフィール

 ニコラ・コーニック(Nicola Cornick)
 イギリスのヨークシャー生まれ。詩人の祖父の影響を受け、幼いころから歴史小説を読みふけり、入学したロンドン大学でも歴史を専攻した。卒業後、いくつかの大学で管理者として働いたあと、本格的に執筆活動を始める。現在は、夫と二匹の猫と暮らしている。

解説

 レディ・ジュリアナはロンドン社交界でも一風変わった存在だった。たとえば自ら裸になってフルーツやクリームを身にまとい、銀の皿に載って晩餐の席に登場するなどという奇行で知られ、余興の度が過ぎるというので誰も彼女に求婚する者はいなかった。実は彼女には十四歳のとき結婚を約束した相手がおり、もし三十歳になっても独身だったら、彼が目の前に現れることになっている。ふしだらに振る舞うのはそのためだったのだ。そして今年、ジュリアナは三十歳になった。

抄録

「それならどんな遊びが好きですか、レディ・ジュリアナ?」
「もう遊ぶ年齢ではないわ」ジュリアナは軽蔑《けいべつ》したように言った。「十四歳ですもの。二、三年したらロンドンに行って夫を見つけるのよ」
「言ってはなんだけど」マーティンが目をきらきらさせて言った。「遊ばないなんてつまらないな。毎日、どんなことをして過ごしているの?」
「ダンスをしたり、ピアノを弾いたり。刺繍《ししゅう》やそれに……」言葉がつまった。どれもつまらなく聞こえたのだ。「ほら、わたしはひとりぼっちでしょう」彼女はすまして言った。「だから自分で楽しむしかないの」
「天気のいい日には勉強を怠けて淵に来るとか?」
 ジュリアナの口元がほころんだ。「ときどき」
 彼女は不思議にくつろいだ気分でずっと草の上に座っていた。一方、マーティンは何度も本を見返しては、苦労して木切れを組み合わせ、はね橋らしきものを作っていた。
 とうとう太陽が柳の木の向こうに隠れた。ジュリアナは別れの挨拶《あいさつ》をした。しかしマーティンは何かの計算に夢中でろくに返事もしなかった。彼女は家路をたどりながら、彼の姿を想像して微笑した。あのぶんでは暗くなるまで柳の木陰で作業に没頭して、夕食をとりそこなってしまうわ。
 驚いたことに、マーティンは次の日も、その次の日も柳の木の下にいた。それから二週間、ふたりは晴れた日の午後は、そこで過ごした。マーティンは兵器の模型を作ったり、本を読んだりしていた。哲学や詩歌、文学の本だ。ジュリアナが話しかけても、うんとかああとか言うだけで、本から顔を上げようとしない。ジュリアナはときどき彼の無関心ぶりをなじったが本気ではなく、ふたりは穏やかで楽しいときを過ごした。
 秋の気配がかすかに感じられる八月末のある日、ジュリアナはいつものように草の上に身を投げ出して、ロンドンに行って夫を見つけるなんてばかげているわと憂鬱《ゆううつ》そうにぼやいた。わたしと結婚したいと思う人なんか絶対にいないわ。わたしはみっともないし、いい花嫁にもなれない。それにドレスはみんなすぐに短くなってしまうし。二年たって十六歳になるまでに、あとどれだけ背が伸びることやら。ロンドンに行ったってなんにもいいことなんかないわ……。
 浅瀬でたわむれている二羽の鴨をスケッチしていたマーティンは、ジュリアナがドレスがすぐに短くなってしまうと言ったとき、重々しくうなずいた。ジュリアナは彼に本を投げつけた。マーティンはそれを器用に受け止めてわきに置くと、また鉛筆を取った。
「マーティン」ジュリアナは呼びかけた。
「うん?」
「わたしをきれいだと思う?」
「ああ」マーティンは顔を上げずに答えた。眉間《みけん》にしわが寄っている。集中しているのだ。
「でも、そばかすがあるわ」
「そうだね。それもきれいだ」
「わたしはおてんばだから、夫なんか見つからないと父は言うの」ジュリアナは草をちぎって、うつむいた。「母と同じで手に負えない性格だから、ろくなことにならないだろうって。母のことはなんにも覚えていないけど」ちょっと悲しげに言う。「でも、みんなが言うほど悪い人ではないはずよ」
 マーティンはスケッチする手を止めた。ジュリアナを見た彼の顔に珍しく怒りの色がよぎった。
「父親は娘にそんなことを言ってはいけないんだ」ぶっきらぼうに言う。「お父さんが、きみのことをろくなことにならないだろうって言ったのかい?」
「父の言うとおりですもの」ジュリアナは言った。
 マーティンは乱暴な言葉を吐いたが、幸いジュリアナにはよくわからなかった。沈黙が流れ、ふたりはしばらくじっと見つめ合った。
「もしきみが三十歳になったとき、まだ結婚していなかったら、ぼくが喜んで夫になってあげる」マーティンが恥じらいながら言った。声がかすれている。
 ジュリアナはまじまじと彼を見つめ、吹き出した。「あなたが?まあ、マーティン!」
 マーティンは顔をそむけて哲学の本を取った。彼の首筋が赤くなり、赤みが顔中に広がるのを、ジュリアナは眺めた。彼は本を凝視したままだ。
「三十歳なんてすごい年齢ね」笑うのをやめて、ジュリアナは言った。「そのころには、もう結婚して何年もたっていると思うわ」
「そうだろうね」マーティンが答えた。まだ顔を上げない。
 ぎこちない間があった。ジュリアナはドレスの裾《すそ》をもてあそびながら、伏し目がちにマーティンをうかがった。本に没頭しているふりをしているけれど、彼はきっと同じページを何度も読んでいるにきまっている。
「すてきな申し出だわ」ジュリアナはそう言って、マーティンの手の甲におずおずとさわった。指先に触れる彼の肌は温かくてなめらかだ。それでも彼は顔を上げようとしなかった。だが、彼女の手を振り払いもしない。「わたしが三十歳になっても結婚していなかったら、喜んでその申し出を受けるわ」彼女は小声でつけ加えた。「ありがとう、マーティン」
 マーティンがやっと顔を上げた。やさしい微笑を浮かべ、ジュリアナの手をしっかりと握った。


*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。