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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ロマンス

偽りの彼方に

偽りの彼方に


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ロマンス
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★☆☆☆1
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著者プロフィール

 ダイアナ・ハミルトン(Diana Hamilton)
 イギリスの作家。ロマンチストで、一目で恋に落ち結ばれた夫との間に三人の子供をもうけた。就寝前の子供たちにベッドで読み聞かせるために物語を書きはじめる。ロマンス小説家としてのデビューは1987年、その後数多くの名作を世に送る。2009年5月、ファンや作家仲間に惜しまれつつ亡くなった。

解説

 祖父が持ちかけた結婚話に、キャットは取りあおうともしなかった。相手は遠縁にあたる実業家アルド。会ったことさえない男性だ。おじい様には気の毒だけれど、丁重に断ろう。だが家を訪ねてきた彼を一目見て、キャットは考えを翻した。「チャオ、キャタリーナ」甘い声に荒削りながら整った顔立ち。室内を満たす官能的な雰囲気に、キャットは数分後には彼との結婚生活を想像さえしていた。あれから十一カ月……。トスカーナの豪勢な別荘で、キャットは失意の新婚生活を送っていた。夫はずっと愛人と一緒で、家には寄りつこうともしない。きっと彼にとっては、祖父の財産めあての結婚にすぎなかったのだ。初めて会った日、彼の瞳の奥にきらめいた炎はなんだったのかしら。

抄録

 アルドには心なんてない。そうでしょう? 効率的な機械。人間の姿をした計算機にすぎないのよ。
 屈辱的なことにいつものごとく、キャットの思いは瞬時にアルドと初めて会った運命の夜へと舞い戻っていた。ほんの十一カ月前の出来事なのに、まるで一昔前のことのように思える。
 夜八時。自らに笑顔を禁じ、あくまで堂々とした態度を貫く構えで、キャットは夕食の席におもむいた。服は手持ちの中で一番地味な、ノースリーブのシフトドレスを選んだ。ピーコックグリーンでクレープ地のドレスは、体の曲線をすっかり隠してしまう。化粧は控えめにし、苦労して襟足で束ねた髪に黒いベルベットのリボンを結んだ。幸いその晩に限り、普段扱いにくい髪がきれいにまとまってくれたのを覚えている。
「キャタリーナ」祖父の声には誇らしさがにじんでいた。孫娘が顎を毅然と上げて書斎に足を踏み入れると、彼は若い二人を引き合わせようと革のクラブチェアから立ち上がった。しかしアルド・パトルッコが立ち上がったとたん、祖父の紹介の言葉もキャットの耳を素通りしていった。
 極上の服に身を包んだイタリア人男性は百八十センチはゆうに超える長身で、力強く荒削りながら整った顔立ちをしていた。ビターチョコレートのような瞳にからめとられ、キャットは次第に目の焦点が合わなくなってしまった。
 これまでにも男性の目に同じ表情が浮かぶのを見たことはあったが、いつも無視するのが習慣になっていたのに。キャットの唯一の恋愛経験は大学最後の年にさかのぼる。同学年のジョシュと短期間の交際をへてあとくされなく別れ、以来ロマンスとは無縁の日々を送っている。
 ところがそんなキャットも男が厳しい口元をわずかにゆるめ、けだるげな笑みを浮かべるのを目にしたとたん、息をのまずにはいられなかった。両手を軽く肩に置かれ、額と口角に軽くキスを受ける。
 キスといっても唇が肌をかすめる程度だったのに、いやがうえにも体が震え、息もできないくらい動転してしまった。
「やあ《チヤオ》、キャタリーナ」簡単なイタリア語で挨拶する男の声は温かな黒蜜を思わせた。キャットはもごもごと返事をしてから、赤面を隠すため、ぷいと顔を背けた。本音を言えば、キャタリーナと呼ばれるのは好きではない。キャットのほうがシャープでずっと自分らしい気がする。それなのにこの男の唇から発音されると、自分の名前がまるで魔法の言葉のように響く。
 魔法なんかじゃないわ。単に魅力的っていうだけよ。キャットはそのあと、イタリア語と英語で交わされる会話には加わらず、一人自分の考えに没頭していた。アルドは、蛇口をひねるように簡単に自分の魅力を出し入れできる人なのよ。絶対そうだわ。なのにどうしてこんなに体がほてるの? あんなふうに、即刻ベッドに連れこみたいというような目つきで見つめられただけで心乱され、圧倒されてしまうなんて。あんなのは、自分のほしいものを手に入れるすべを心得ている男性の常套手段でしょう。ああいうタイプは自分が他人に及ぼす力を承知のうえで、上手に利用しているだけなのよ。
 室内を満たす男の存在感は、危険なまでに官能的だ。イタリア的な優雅さの真骨頂のような服に包まれた、細身ながらたくましい長身の体躯、丁寧にカットされた黒髪、日に焼けた肌。顎の線は険しいのに口元はやさしげで、セクシーな笑みによこしまな想像をかき立てられてしまう。まなざしを向けられるたびに、みぞおちで緊張と興奮が渦を巻いた。
 しばらくして、ボニーが夕食の用意が整ったことを知らせに来てくれたときは、思わず胸をなで下ろしたほどだった。が、ほっとしたのもつかの間、キャットの体に戦慄が走った。腰を上げた彼女をエスコートしようと、アルドが指の長いしなやかな手を腰のくびれに添えてきたのだ。血管を駆け巡る野火の広がりに体中がほてり、頭がくらくらする。
 男性からこんな気持ちを味わわされたのは初めてだ。ジョシュも魅力的だったし、付き合う相手としては楽しかった。でも、今目の前の男に感じている気持ちはまったく別物だ。これほど急速にこんな気持ちにさせられてしまうなんて。あまりに強烈で、どんなに振り払っても消えそうもない。
 アルドの真向かいに腰を下ろしたキャットは、気づまりで仕方なかった。いつもながらすばらしく美味なボニーの料理にも彼女はまったく手をつけられなかったが、シャンパンを祖父からぜひにと勧められ、いつしか饒舌になっていた。アルドはそんな彼女のやわらかな唇を黒っぽい瞳で見つめたままつぶやいた。「きみはイタリア語が上手だね」
「祖父の手ほどきの賜物よ」キャットはシャンパンを飲み干した。いつにもまして自分らしく大胆不敵な気分だった。昔の三文小説のようなばかばかしい状況ではあるが、わくわくする気持ちも否めない。未来の妻を吟味している男性は、息をのむほどセクシーでゴージャスと呼ぶにふさわしい。こんな男性にひたむきなまなざしで見つめられたら、どんな女性だって体を走る電流を無視できないんじゃないかしら?
「幼いころからキャタリーナを、イタリア人の血に誇りを持つよう育ててきたんだよ」ドメニコが満足そうに言った。購入希望者にサラブレッドの長所を説明する生産者さながらだ。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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