マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・イマージュ

迷える家庭教師

迷える家庭教師


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・イマージュ
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
みんなの評価 未評価
◆レビューを書く

¥0サンプル
購入する


著者プロフィール

 スーザン・メイアー(Susan Meier)
 ペンシルベニア生まれ。結婚して二十年以上になる夫と三人の子供とともに、今もそこに暮らす。販売員や弁護士秘書、地方新聞のコラムニストなどさまざまな職業を経て、現在は執筆に専念。職場で出会ったいろいろな人物をモデルとして作品に登場させている。

解説

 彼が幸せを取り戻すほどに、私は孤独になっていく……。

 求職中の教師アルシアは次の仕事先が決まるまでのあいだ、臨時の住みこみ家庭教師の職を得た。雇い主のクラークは3年前に妻を亡くし、男手一つで12歳の息子と3歳の娘を育てていた。最近、成績が急激に落ちこんだという兄と、言葉を発さず、家族にだけ耳元でささやくように話す妹。恵まれない家庭環境で育ったアルシアは直感した――何か問題を抱えているにちがいないこの一家をほうってはおけない! ましてや、初めて会った瞬間から胸をざわつかせる、過保護なほど愛情深くて優しい、素敵なクラークのために。

 ■身近ゆえに見過ごされがちな切実な問題を、主人公たちが愛や献身によってやがて乗り越えていくロマンスを描く作家S・メイアー。クリスマスに起こる愛の奇跡を描いた最新作をお楽しみください!

抄録

 やはり思ったとおりだ。アルシアは何か大きな問題を抱えている。
「これまで誰にも話したことがないの」
「それはよかった。これでおあいこになる」
「どこから話せばいいのかわからないわ」
「なぜ飾りつけをしていて悲しくなったのかな」
「わたしの母は、毎年飾りつけをしようとしていたんだけど、酔って帰ってきた父にいつもめちゃくちゃにされてしまったの」
 クラークは不意を突かれた。別れた恋人の話をされると思っていたのだ。「それはつらかったね」
 アルシアはふっと笑い、立ち上がって部屋を歩きまわり始めた。
 すべてを話してしまいたい。そうすれば、クラークは愛情と尊敬のこもったまなざしを向けるのをやめてくれるだろう。確かにわたしはジャックのことでは役に立てたけれど、恋愛や母親代わりに子どもの面倒を見ることにかけては惨めな失敗を繰り返してばかり。クラークの幻想を壊さなくては。
 顔を見なくてすむよう、歩き続けながらアルシアは言った。「父は母を殴っていたの。いつも土曜日の晩に。ミッシーとわたしはクローゼットの中で抱き合って、母が殺されませんようにと祈ったわ」
 アルシアは振り向いて反応をうかがった。クラークの顔に哀れみが浮かぶのを見れば怒りが湧き上がって、わたしが彼に抱いている幻想も打ち砕かれる。
 けれども、クラークの表情は冷静なままだった。「助けてくれる人は誰もいなかったのかい?」
「家族全員、何事もなかったようなふりをするのがうまかったの。父に殴られるようになっても、ミッシーもわたしも外ではおくびにも出さなかった。ミッシーは学校では活発で人気があって、学級委員やダンスパーティーのクイーンにも選ばれていたわ」
「きみは?」
「わたしはクラスのピエロだった」アルシアは弱々しい笑みを浮かべた。「クララ・ベルに肩入れしてしまうのはそのせいかもしれないわね」
 クラークは笑った。
「わたしは高校を卒業したその日に家を出たの。卒業式をすっぽかして」
 クラークが驚いたように眉を上げた。
「卒業式に行くふりをしたの。着替えて、母にキスをして」涙が込み上げた。「父と冗談を言って、姉からお祝いのお金をもらって」あふれた涙をぬぐう。「会場に着いて生徒用の入口に向かったけど、中には入らずに隠れていたの。両親と姉が会場に入ったのを確かめてから家に駆け戻って、用意しておいたスーツケースを持って父の車を盗んで逃げたの」
「なんだって?」
「自分の車を持っていなかったから。そのままカリフォルニアに行って、働きながら大学に通ったの。あんなやり方をしたのは、みんなの前で両親に恥をかかせたかったから。そのとおりになって、父は激怒したと姉が言ってたわ」
「お姉さんはもうきみのしたことを許しているみたいだね。ゆうべの様子を見ればわかるよ」
「ええ。でも、最悪の部分はまだこれからなの」
「父親の暴力よりひどいことがあるのか?」
「卒業式の次の週に母が亡くなったの」また目頭が熱くなり、今度はあふれる涙をぬぐわなかった。「そんなことになっているとは思いもしなかった。ただ自由になりたくて、無事に目的地に着いたことを誰にも連絡しなかったの。暴力を振るう父も、何もしてくれない母も憎かった。二年前、ワイアットと結婚したあと、ミッシーがわたしの居場所を突きとめて、戻ってきてほしいと言ってくれたの。大人になってわだかまりは消えていたから、うれしかったわ。でもそのとき、母のことを聞かされたの」
 たった一度、自分を救おうと選んだ行動が、思わぬ結果を招いた。それは父の拳よりもひどい痛みと罪悪感をもたらした。
「死に目にも会えなかった。助けようともしてくれなかったと責めたことを謝れなかった。わたしだって母を助けようとしなかったのに。ミッシーは違ったわ。高校を出てから秘書として働き始めて、アパートメントを借りて、週末はわたしを呼んで安全に過ごせるようにしてくれた。母も呼ぼうとしていたけど――」アルシアはすすり泣いた。あんな父さえいなければ母のそばにいられたのに。でも、家を出たのはわたしだわ。母の心を折ったのはわたし……。
 クラークの腕がまわされたのがわかった。「つらかったね」
 すすり泣きはとまらなかった。「ミッシーの勤め先に電話して、居場所を伝えればよかった。でも、車を盗んでしまったから、もし父に居場所を知られたら警察に通報されるんじゃないかと怖くて」
「きみは必死だったんだ」
「自分勝手だったのよ。自分のことばかり考えて、母が亡くなったことさえ二年前まで知らなかった」
 クラークは彼女を抱く腕に力を込めた。「ずっと昔のことだよ。きみは子どもだったんだ。必死だったんだ。父親に殴られていたなんて」
 アルシアは泣きじゃくるばかりだった。いっそう強く抱き締められて、生まれて初めて、守られているというぬくもりを感じた。クラークの腕の中でアルシアは泣き続けた。母のために。姉のために。一度でいいから普通のクリスマスを過ごしたいと望んでいた幼い自分のために。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。