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和書>小説・ノンフィクションハーレクインシルエット・スペシャル・エディション

胸に秘めた思い

胸に秘めた思い


発行: ハーレクイン
シリーズ: シルエット・スペシャル・エディション
価格:600pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 キャシー・G・サッカー(Cathy Gillen Thacker)
 オハイオ州に生まれ育った。マイアミ大学卒業後、幼なじみと結婚。あちこちの州に移り住んだが、なかでもテキサス州には十八年間住んだ。テキサスでは夢がなんでも実現する気がすると語る。作品の舞台としても、もっとも好きな場所だという。作家になる前は子供たちにピアノを教えていた。現在は夫と三人の子供と暮らすが、パートナーとのロマンスを維持する秘訣は“できるだけ二人だけで過ごす時間を持つこと”。すでに六十作以上の小説を発表し、ノンフィクションの記事も多数ある。アメリカロマンス作家協会会員。

解説

 アニーは傷心をかかえ、故郷に戻ってきた。最近亡くなった父の遺してくれた牧場を継ぎ、この小さな町で平穏に暮らしていこうと決心したのだ。ところが町に落ち着いたとたん、隣人のトラヴィス・マッケイブがアニーにつきまとい始める。彼のことは、父が生前息子のようにかわいがっていた。だがどうやら、お目当てはアニーの牧場らしい。いいえ、だめ。父が守り抜いた牧場を、誰の手にも渡すつもりはない。たとえそれが、目を離せないくらいハンサムなトラヴィスであっても。
 ★ミニシリーズ『恋が始まる町』の最終話です。今回のヒーローは、恋に臆病だったマッケイブ家の長男トラヴィス。隣人アニーとの恋の行方は?★

抄録

 トラヴィスはあからさまな賞賛の目つきでゆっくりとアニーの全身を眺め、視線を胸の谷間にしばらくとどめてから顔に戻した。「少し君と二人だけになりたかったんだ」彼は静かに言った。
 ローブでもはおっていればあんないやらしい視線から身を隠せたのに。アニーは恥ずかしさに顔を赤らめた。「だからって……」
「座って、アニー」トラヴィスはほほ笑み、たくましい腕を彼女の肩に回した。その手の感触は官能的で温かく、ひそめた声が誘うように甘く拍車をかける。「あの三人のことだ、あまり時間はない」目がきらめいた。「話というのは君の土地のことだ」
 アニーは肩を押されて椅子に座りながら、面食らったように目をしばたたいた。「土地のことって?」胸が激しく高鳴る。
「君の牧場を買い取りたいんだ」
 アニーは黙ったままトラヴィスを見つめた。頭が混乱し、のどがつまって息苦しい。いつかこの話題が出ると予測しておくべきだった。この近辺の牧場主なら誰でも、うちの牧場に食指を動かしているに違いない――できれば破格の安値で買い取りたい、と。だが間抜けな私はそんなことは考えもしなかった。トラヴィスが私と子どもたちの生活にこれほど興味を抱く理由がこれだったなんて。彼はアニーより優位に立とうとし、アニーはうかつにもそれを許してしまったのだ。
「あなたの牧場の規模を拡大するため?」彼があんなに親切だったのはうちの牧場がほしかったからなんだわ。そう思うとなぜか胸が痛む。
 トラヴィスは真剣な顔でうなずき、静かに言った。「君たちの住むこの土地は、中央に小川の流れる、一万エーカーものすばらしい牧草地だ。もちろん適正な市場価格を支払う。売却代金をうまく運用すれば、利子だけで生活費はまかなえるし、無理に働く必要もなくなる。君も子どもたちも一生安泰なんだ」彼は安心させるようにアニーの腕に触れた。
 アニーは肩をこわばらせ、身を縮めた。自分の中で暴れ回る感情をどうしても抑えることができない。「もし私が働きたいとしたら?」アニーは強情そうにあごを突き出し、挑むように言い返した。「そうしたらどうするの?」
 トラヴィスの目も表情も平然そのものだった。「それなら働けばいい」騎士道精神にもとづき、きちんと計算したうえでの提案だったが、落ち着き払ったその口調にアニーの神経はかえって逆撫《さかな》でされた。彼は熱心な様子で身をのり出した。「とにかく、君はもうバーベキューソースなんか作らなくていいんだ。毎年税金の支払いに頭を痛めたり、今までのように貯金を取り崩したり、資産を切り売りする必要もないんだよ。君も子どもたちの将来も保証されているんだ」トラヴィスは言葉を切ると、保護者気取りでアニーの顔をのぞき込んだ。「これは君のお父さんも望んでおられたことだ」彼はきっぱりと言い添えた。「君にもわかっているはずだ」
 たしかに父は亡くなる前、牧場を売る話をしたことがあった。アニーは適当に話を合わせた。もうかなり病が重くなっていて、そうするしかなかったのだが、本気で考えてはいなかった。トリプル・ダイヤモンド牧場はアニーが生まれ育った場所だ。母と父との思い出のすべてがつまっている。離婚した今、アニーは息子たちもこの牧場で育てたいと考えていた。ここで暮らせば、子どもたちも父親に捨てられた悲しみをいやされ、彼女が子どものころ抱いていた精神的な安心感や自信を持てるようになるかもしれない。だが、トラヴィスはそうは考えていないらしい。彼にとってはこの牧場も、帳簿のうえの損得でしかないのだ。
 アニーは硬い表情で立ち上がり、すべすべしたキッチンの床を裸足で静かに歩き回り始めた。裏庭に目をやると、子どものころ父の作ってくれた木製のぶらんこが見える。「私がこの土地にまったく愛着がないとでも思うの?」
 トラヴィスは大股でアニーの隣にやってくると、カウンターにもたれて立った。「君が感傷的になるのはわかるよ」彼女の顔をのぞき込む。
 アニーの胸からうなじへと、怒りが熱く込み上げてきた。「私はここで育ったのよ、トラヴィス」ステンレスのシンクの縁をつかむ指に力が入る。「この家で、この土地で、子ども時代をずっと過ごしたの」アニーは顔をゆがめ、怒りをぶつけるようにシンクに食器用洗剤をたっぷり入れて温水の蛇口を開けた。たちまちお湯が泡立ち始める。「九歳で母が亡くなるまでの思い出はすべてここにあるの」感情が高ぶり、思わず声が上ずってしまう。「数えきれない思い出が、このキッチンに」シンクの四分の三ぐらいまでお湯がたまると、アニーは蛇口を閉め、朝食で使った深皿やグラスを入れ始めた。
「知ってるよ」トラヴィスは優しく答え、皿を何枚かアニーに手渡した。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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