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和書>小説・ノンフィクションハーレクインハーレクイン・ディザイア

失意のドクター

失意のドクター


発行: ハーレクイン
シリーズ: ハーレクイン・ディザイア
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 ジョーン・エリオット・ピカート(Joan Elliott Pickart)
 これまでに八十以上もの作品を発表している。ウォールデンブックスのベストセラーリストにもしばしば登場する実力派作家。趣味は読書、編み物、そしてフットボール観戦。四人の娘の母親であり、現在はかわいい孫にも恵まれている。末の娘とともに緑豊かなアリゾナ州に住む。

解説

 愛する人のためについた嘘が、深い憎しみとなって返ってきた。

 ■かつて“美人三姉妹のひとり”と謳われたエミリーは、体型も崩れ、最近では服装にも頓着しなくなっていた。そんな彼女の前に、高校時代の元恋人のマークが現れる。わけあって、もう愛していないと嘘をつき、彼女のほうから一方的に別れたのだ。だが、その後の十四年の月日はマークにだけ微笑んだ。ひょろりと痩せていた少年は、荒削りな魅力の男性へと変貌を遂げ、彼はいまや医学研究の実力者と言われるほどに成功していた。不器量な私など、近づいてはならない存在なのだ。あの嘘の理由を隠し通すためにも……。

抄録

「ぼくは客のつもりはないよ。家族の一員として夕食に参加しただけだ。親父が亡くなってきみのおじいさんおばあさんに引き取られたとき以来だよ、こんなすばらしい夕食は。今夜は本当に楽しかった。きみの料理の腕は最高だよ。ありがとう……何から何まで」
「どういたしまして。もうずいぶんトレヴァーと仲良くなったみたいね」
「何事もまず一歩からだよ。あの子を立派に育ててくれたね、エミリー。とってもいい子だ」マークがほほ笑んだ。「まだ伸び盛りで、あの食べっぷりときたらまるで……」
「お父さんそっくり」エミリーはテーブルに皿を置いたまま、マークにつかまれた手をそっと引き寄せた。
 マークは立ち上がり、ようやくエミリーの手を放すと、彼女と少し離れて立ち、両手を彼女の肩に置いた。
「今夜はつくづく感じたよ、トレヴァーの今までの人生にかかわれなかったことが本当に残念だ。あの子が初めて笑ったとき、初めて歯が生えたとき、初めてよちよち歩きをしたとき、片言をしゃべり出したとき、そばにいて見ていてやりたかった……。ああ、くそっ。エミリー、いったい何があったんだ?ぼくたちふたりの問題か? きみのぼくへの気持ちが変わったのか? ぼくたちは何もかも分かち合っていたじゃないか。それなのに……わからないよ。どうしてもわからなかったんだ、なぜあんなふうに突然、ぼくへの愛を忘れてしまえるのか。教えてくれ」
 エミリーはかぶりを振った。「今ごろそんな話を蒸し返しても仕方ないわ、マーク。わたしは若くてまだ未熟だった。あなたがボストンへ発ったとき、わたしは気づいたの、このままじゃだめだって。家族は妊娠したことをあなたに知らせろと言ったけれど……」
「なぜ知らせなかった?」エミリーの肩に置いたマークの手に力がこもる。「知っていたら、すぐベンチュラに戻ってきたのに。ひとりでこんな苦労をしなくても、ぼくが、きみとぼくらの息子のそばについていたのに」
 そして医学で道を究めるという夢をすべてあきらめたんでしょう。家族を養うために将来性も何もないような仕事につき、しだいに……そう、絶対にわたしを憎むようになっていたでしょう。ずっと夢見ていたものが、そのために努力してきたものが、わたしのせいですべてぶち壊しになってしまった、と。彼を心から愛していたわたしには、そんなことはできなかった。彼のわたしへの愛が後悔に、そして氷のような憎しみに変わっていくのを見ているなんて、内側から少しずつ死んでいくような気分だっただろう。
「きっとうまくいかなかったわ」マークの胸のまん中を見つめながら、エミリーが言った。「いくら赤ちゃんがいても、夫婦のどちらかが相手を……愛して……いなければ。マーク、もうやめて。お願いだから」
「ぼくを見ろ、エミリー」
 エミリーはゆっくりと顔を上げ、マークの目を見た。
「ぼくがボストンへ発ったあの日、きみはぼくと別れるのがつらくて泣きくずれていた。ぼくを愛している、離れるのがつらい、あなたが呼び寄せてくれる日まで、どんなに時間がかかっても待っていると繰り返し言った」
「よして」エミリーがささやいた。こみ上げる涙が今にもこぼれそうだ。
「ぼくは覚えている」マークが続ける。「最後にキスしたとき、きみの唇は涙でしょっぱくて、ぼくは胸が張り裂けそうだった。何日も何週間も、いや何カ月も、ぼくのためにきみが流してくれたあの涙の味は忘れられなかった。きみのあの手紙を受け取ったあとも、まだあの涙の味は覚えていた」
 マークはゆっくりとエミリーに顔を近づけた。
「きみはどうだ、エミリー? きみもあのキスを覚えているかい?」
「ええ、でも……」エミリーはそこで口をつぐんだ。彼女の頬を涙が二筋、そしてまた二筋流れた。
「しょっぱい涙の味のするキスだ」思いのこもったマークの声がかすれた。「ちょうど……これと……同じ」
 マークの唇がエミリーの唇をとらえた。彼の舌が涙にぬれた唇を割り、彼女の舌を探し当てる。マークにぴったりと抱き寄せられ、エミリーは両腕を彼の首筋に巻きつけて、まぶたを閉じた。マークのキスはいよいよ深くなり、エミリーも我を忘れてそれに応えながら、荒れ狂う川の奔流のように全身を貫く熱い感覚に身をまかせた。
 昨日、祖父母の家のリビングで再会したときのように、エミリーとマークは不意に過去に引き戻された。
 まだ若く、お互いに夢中だったころ。
 ほかの誰も目に入らず、存在さえ気づかず、お互いしか見えなかったころ。
 愛し合ったあとも、ふたりはけだるい声で語り合った。玄関ポーチのぶらんこに腰かけて、訪ねてきた子どもたちや孫たちを、手を振って見送る、年老いた自分たちのことを。
 まるで宝のありかを描いた地図のように、ふたりで生きていく人生の輝かしいシナリオをうやうやしく広げて眺めていたあのころ。
 マークは一瞬、頭を上げて素早く息を吸った。彼は再び唇を重ねようとしたが、エミリーはその瞬間はっと我に返った。


 *この続きは製品版でお楽しみください。

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