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和書>小説・ノンフィクションハーレクインシルエット・ダンフォース

ひとときの追憶

ひとときの追憶


発行: ハーレクイン
シリーズ: シルエット・ダンフォース
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader” スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 シャーリー・ロジャーズ(Shirley Rogers)
 バージニア州のタイドウォーター地区で生まれ育ち、今もそこで夫と二匹の猫と、かわいいマルチーズ犬とともに暮らす。子供のころは想像力が豊かなことで有名だった。ロマンス小説を読むようになってはじめてそれを書くことが自分の運命だと気づく。成人した息子と娘がおり、余暇には読書や旅行、映画鑑賞、娘とのショッピングを楽しむ。

解説

 初恋の相手に押された、財産狙いの女という烙印。■十七の夏、タニヤは記憶喪失の状態で発見され、施設送りになるところをエドワード・テイラーに引き取られた。恩に報いるべく、彼の農園で懸命に働くが、エドワードの息子デイヴィッドは彼女の存在を認めず、追いすがるタニヤを振り切るようにして出ていってしまった。それから五年の歳月が流れた。エドワードの死で涙に暮れるタニヤに向かって、帰郷したデイヴィッドは冷たく言い放った。「三カ月ここで暮らしてうまくいかなかったら、出ていってもらおう」

抄録

 タニヤは唇をかんだ。このうえ彼の気持ちに負担をかけたくなかった。「あなただってつらかったでしょう」
 その言葉にデイヴィッドは不意を突かれた。これほどの悲嘆に暮れながら、ぼくのことを思いやってくれるなんて。どう考えたらいいんだ? どうしたらいいんだ? 父が彼女を愛したのも不思議はない。タニヤの面倒を見ると父に約束したのに、これまではそれをないがしろにし、自己憐憫に浸ってばかりいた。ほかのことはともかく、この約束だけは守らなければ。「愛する者を失うのは、だれにとってもつらいことだ。とくにきみは父と過ごした時間が長かったからね」
 目に涙がにじんだが、タニヤは懸命にこらえた。「彼と仕事をするのは楽しかったわ。あなたが大学から戻ってきたとき、わたしがここにいるのを知ってショックだったでしょうけれど、エドワードはわたしにやり直すチャンスを与えてくれたのよ。わたしはその恩を忘れず、彼の期待に応えるために必死に働いた」自分の言葉が彼を傷つけかねないと自覚しながらもタニヤは続けた。「あなたとお父さまの折り合いがよくないことは知っていたわ。わたしがここに来た夏、家に戻ってきたあなたとお父さまが何かにつけて言い争うのがいやでも聞こえたから。初めエドワードはわたしとも距離を置いていたわ。でも、わたしが気持ちを注げる相手は彼しかいなかった。だから、どんなサインでもいいから、好意を示す意思表示をしてほしいと迫ったの」目に涙をためながらもくすくす笑う。「エドワードはずいぶん抵抗していたけど、わたしは少しずつ彼の心の壁を突き崩していったわ」
「きみは、ぼくが一生かかってもできなかったことをやり遂げたんだ」そう認めたことを自分でも驚きながら、デイヴィッドは言った。
 タニヤは彼の腕に手を置き、そっと言った。「残念だわ」デイヴィッドの母親が亡くなったときのことをタニヤは知らない。ただ、エドワードの言葉の端々から、どんなにそれがつらい出来事だったか察することはできた。とはいえ、それは彼が息子を拒絶した正当な理由にはならないだろう。でもそれについてはエドワードもいっさい話そうとしなかった。デイヴィッドへの接し方について水を向けようとするたび、エドワードの頑迷さに突き当たった。「変に思うかもしれないけれど、わたしがあなたのお父さまの人生に抜け落ちていたものを埋めているんじゃないかとときどき感じたの。ずっと欠けていた女性の影響力みたいなものを」
「少しも変じゃないさ」実際、考えてみると合点がいった。たぶん、ぼくには到達しえなかったレベルで、父はタニヤの思いに応えていたのだろう。
「初めは、わたしが女性だからという理由で家事しかさせてもらえなかったの。でも、彼のそばにいたかったから、外まわりに連れていってほしいとしつこく食い下がった。そのうちに農園の仕事を少しずつまかせてくれるようになって、とうとう一緒に働くことを許してくれたの」デイヴィッドを見た彼女の顔にはどこか悲しげな笑みが浮かんでいた。「夜、夕食がすむと、二人でテレビを見たわ」かすかに彼女の瞳が明るくなった。
 デイヴィッドの口元もわずかにほころんだ。「父はテレビが好きだったからな」
「それにクロスワードパズルも。パズルの本が家じゅうに散らばっていたわ。エドワードが毎晩一つずつやるのを、わたしも……わたしも手伝って……」また涙があふれて唇が震え、言葉がとぎれた。タニヤは肩を震わせ、両手で顔を覆った。
「おいで、タニヤ」デイヴィッドは彼女を抱き寄せた。「泣かないで、大丈夫だから」
 デイヴィッドのたくましい腕の中で、タニヤは悲しみにのみ込まれた。彼に髪を撫でられながら、その胸に顔をうずめ、思う存分涙を流す。やがてすすり泣きがおさまるまで、デイヴィッドは彼女を抱いていてくれた。
「ごめんなさい」タニヤはかろうじて聞こえるくらいの声でささやき、勇気を振り絞ってデイヴィッドを見上げた。こんなふうに取り乱すなんて信じられない。それもデイヴィッドの腕の中で。
 彼に抱かれ、ぬくもりを感じ、その力強さに包まれていると、心が安らいだ。彼の規則正しい胸の鼓動が聞こえる。夜のとばりが二人を覆い、窓の外の月明かりもそこまでは届かない。十七歳のときからずっとあこがれていた場所に、今わたしはいる。
 デイヴィッドの腕の中に。
 そして寝室のベッドの上という場所の親密さに、今までずっと胸の奥深く押し込めてきた気持ちが頭をもたげ、心が乱れた。体の中でうずいていた欲求にとらえられ、もはや感情を抑えられない。タニヤは顔を上げた。二人の唇がすぐ近くにある。触れそうなほどに。彼の熱い息が彼女のそれとまじる。絡み合う視線。頭がぼうっとして、催眠術をかけられたように動くこともできない。
「タニヤ」デイヴィッドがささやく。
 問いかけるようなその優しい声に、タニヤはかすかな欲望の響きも聞き取った。彼女の目を探るまなざしにも熱い思いがにじんでいる。タニヤは声が出なかった。ただ、彼の唇が唇に触れる瞬間を待って……その口づけに溺れた。

 *この続きは製品版でお楽しみください。

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